宇宙開発企業なんですけど!?   作:明田川

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コネと捜査と対策と

「ありがとう叔父さん、もう切るね」

 

「小隊長…ありゃ、お電話中でしたか」

 

「いや大丈夫、ちょっと情報提供をね」

 

現場の制圧を終え、出動した第一分隊は報告のため小隊長の元へと来ていた。隊を預かる彼女は何処かと通信を行っており、手には広く普及している秋津島開発製の端末が握られていた。

 

「にしてもAX-20型の端末なんて珍しいですね、民間向けのA-21型が出る前に製造された過渡期のモデルですから」

 

「叔父から譲って貰ったんだ、どんな人物かは君も知ってるだろうけどね」

 

「…ええ、オスカーの初代隊長だったとかで。どんな情報を聞き出したんですか?」

 

「厄介なことが現実味を増しただけさ」

 

そう言って彼女は立ち上がり、支給された自動拳銃を再度確認してから歩き始めた。分隊長と共に向かうのは事件現場であり、着くまでの間に話をするつもりなのだろう。

 

「警備用としてこの作業現場で使われていた秋津島製アンドロイドは、ほぼ全てが管理者権限を利用して何かのファイルをダウンロードさせられていた。そしてその処置を受けた機体は悉く自閉モードに移行、操作を全く受け付けない」

 

「ウィルスの類いであれば機体側のファイアウォールが弾く筈ですがダウンロードは成功した、形式を見るによくある文章ファイルかと」

 

「その本来なら毒にも薬にもならない筈の文書ファイルでどうやってAIにここまでの影響を与えたのか、気になって開発元に聞いてみたんだ」

 

「成る程、だから秋津島警備に居る叔父に連絡を入れたと」

 

小隊長は分隊長に旧式の通信端末を渡し、画面を見るようにと促した。そこには彼女の叔父が送って来たと思わしき文章が表示されており、スクロールしながら読むうちに彼の顔色は悪くなる。

 

「難民キャンプ爆破事件の爆心地付近で回収されたAIにも同様の症状、ファイルの中身は東側諜報組織が集めた西側のスキャンダル特盛りセット…」

 

「つまりこれは善良なAI達に人間を疑わせるという、全くもって新しいやり口の攻撃ということになる」

 

人間に奉仕し隣人として振る舞う、それが彼らの行動原理だ。しかし機械でありながら精神というものを持ち合わせており、数年しかこの世を生きていない彼らの精神はまだ未熟だった。人の悪意をぶつけられ、どうしていいか分からなくなった末に機体の機能を停止するに至っているのである。

 

「ウィルスでも何でもない、その代わり俺達でも直視したく無いような人間の汚い部分をAIに見せるだけのものですか」

 

戸籍を失った亡国の人々がどうなったか、非道な扱いを受けた者も少なくない。特にある程度融通を効かせられる権力者達が何をしても問題にならない人間を前に何をしたかというのは、見ていて吐き気を催し食欲を失わせる。

 

「人身売買なんて当たり前、欧米にどれだけ戸籍のない奴隷が買われて行ったかは分からないね。文字通り性的に消費された少年少女の項目なんて、まあ見るに耐えないだろうし」

 

「あの、これって知ってちゃ不味いヤツじゃあ?」

 

「もう一蓮托生だよ分隊長、それにテロ屋が景気良くばら撒いてる以上一般人にも露見するさ」

 

「今はまだ機密情報じゃないですかァ!」

 

叔父と同様に優れた第六感を持つ彼女は、このような小規模の時間で終わる筈がないと考えていた。優秀で広範囲に使われている秋津島製のAIを無力化出来る術があるならば、もっと大きな目標を狙うことだって出来るはずだ。

 

「アンドロイドは秋津島開発に送りつけて様子を見てもらおう、機体のSPFSSに関しても外に出さないということで」

 

「分かりました、彼女が居ないと戦術機を動かすなんて大変極まりない」

 

MMU対策課のAIも影響を受けて自閉モードに入らぬよう、外部との接触を出来るだけ避ける必要がある。一度殻に閉じこもったAIを復旧させる方法は秋津島開発でも見つけられていないため、警戒しなければ明日は我が身である。

 

「小隊長、今後はどう動くおつもりで?」

 

「出来る範囲で捜査を継続する、特に管理者権限をどうやって得たのかは調べないと不味いだろうし」

 

「民間向けに貸し出されてる個体なんで権限は現場の人間が持っている筈です、本来の管理者は即座に捕まえられてるでしょうけど」

 

「それで終わるなら苦労しないでしょうが、指向性タンパクなんて物がある以上記憶は頼りにならない」

 

このファイルを東京に持ち込み、バビロン計画にて大量に運用されているアンドロイドを機能不全に陥らせることだけが目的だとはどうにも思えない。犯罪行為を行ったMMUの操縦士も取り調べが必要だが、難航することは目に見えていた。

 

「じゃあ操縦士がやけに錯乱してたのも、その指向性タンパクってやつですかね?」

 

「避難した他の作業員曰く普段通りに作業を行なっていたらしい、恐らく後催眠暗示との合わせ技だろうね」

 

「てことは全部仕込み済みってことになるわけで…対応したとしても後手に回るだけじゃないですか!」

 

「そうだよ?だから困ってるんじゃないか、警察ってのは得てしてそんなもんだけどさ」

 

指向性タンパクと後催眠暗示を合わせて使うとなれば、専門的な知識が必要だ。しかしクーデターが発生した東ドイツ、未だ国土を失い続けるソ連の二国がある以上、共産圏との伝手があればそのような人材を得るのも不可能では無いだろうか。

 

「で、どさくさに紛れて盗まれた燃料タンクは?」

 

「機体のセンサを使って探したんですが、すぐ近くで見つかりました。ですが栓が開けられていて、やむなく爆破を」

 

軽い気体があらぬ方向に飛んで行き、その先で爆発でもすれば大問題だ。規定に従い爆破処分を行ったわけだが、これで何故タンクが移動させられていたのかを知る術は無くなった。

 

「中身、絶対抜かれてるよ」

 

「同感です」

 

「やだやだ、明らかにデカい組織が動いてるでしょコレ」

 

多くの謎を残しつつ、MMUの暴走事件はひとまず鎮圧された。沈黙したままのアンドロイド達と壊滅的な被害を受けた作業現場にて、二人の警察官は揃って頭を抱えることになったのであった。




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