「これがAI沈黙の原因か、なんとも汚い手を使うものだな」
社長の手には自閉ではなく自壊を選んだアンドロイドから抜き取られたデータ、そのコピーが握られていた。東ドイツにて拘束されている元シュタージの人間にも確認を取った所、シュタージファイルに情報を付け足したものだということが分かった。
「なりふり構うような相手ではないでしょう、ひとまずこの手のファイルも弾くように修正するよう指示してはいますが…」
「相手には00ユニットがある。何処まで動かせるかは分からないが、現時点のセキュリティじゃ太刀打ち出来ないだろうな」
「この会社に何故かシュタージに関する機密情報が山程ある事実に目を背けたいんですけど」
全ての防御手段を正面から捻じ伏せてファイルを無理矢理直視させる、そんな真似も可能だろう。そしてAIへの有効性は今回の事件にて示された、嫌な流れだ。
「難民キャンプの爆心地付近で回収された機体から記録映像を取り出そうとした際にも同様の症状が確認されました、遠隔で打ち込まれたと考えて良いかと」
「まあもちろん準備してるよな、最悪だ」
「なんというか、あのテロ組織は我々以上にAIのことを理解している節がありませんか」
「…周回済みだろうからな、何周してるのかは分からんが」
「並行世界とG元素はなんでもアリですね」
そんな状況をなんとかしなければいけないのが今である。掴めそうなハッピーエンドをみすみす逃す手はない、どうにかして企みを叩き潰さなければ未来を前にして一歩後退だ。
「東京での事件急増は確実に奴らの手によるものだ、アンドロイドも被害に遭っている以上俺達にも動く口実はある」
「発足したばかりのMMU対策課は大忙しですからね、完成した予備機をすぐさま送りつけましたけど」
「あそこの小隊長は中々の切れ者で隊長殿のお墨付き、彼らが動けば何か掴んでくれるだろ」
「人事にも一枚噛んでるんですか…」
「ほんのちょっとだけだよ」
しかし本来ならまだ慣らし運転でもする筈だったMMU対策課の戦力は一個分隊のみと最小単位だ。対レーザー防御を省くことで得た分厚い装甲はあるものの、テロ組織が戦術機でも持ち込もうものなら危険極まりない。
「この立場で現場に出るわけにはいかないしな、この場でやれることをやるしかないか」
「地下研究施設に関しては有人機の数を増やして対応します、外部から侵入出来る経路についても今一度確認を」
「そうだな、そっちの指示は任せる。俺は自閉モードになったAIを治療する方法を模索してみるから、MMU対策課から何かあれば直で繋いでくれ」
「はい分かり……直で?」
「いやだってアイツらが相手だぞ、他言無用で話せることを話すしかないだろ」
「それはまあ、そうなんですけども」
隊長を通じて彼女に特殊な端末を渡したのはこのためで、アレは緊急時用の秘匿回線が自由に使えるという代物なのだ。やろうと思えば補給コンテナの投下を要請することだって出来る、というか母艦級と戦った際にやった。
「そのMMU対策課ですけど、第二分隊の機体がもう完成しますよ」
「やっとか!」
「大幅にオミットした電子機器を再度載せるっていう本末転倒な機体ですけど、戦術機相手にも強力な戦力になりうる長距離狙撃仕様が出せるようになるのは良いことですね」
「過剰戦力とも言える機体だったが、あれから事件が急増してGOサインが出るに至ったんだろうな」
これで二個分隊が揃うことになる、彼らの働きに関しても今まで以上に期待できるようになるだろう。しかし彼らだけに任せなくとも、独自に動かせる戦力は動かしておくべきだ。
「我々が使える手札というと、秋津島警備を動かすという話はどうなりましたか?」
「俺達が貸出元だからな、手が届く所には調査の手を入れてるさ」
「悪いやり方を覚えましたね、私達は」
「覚えざるを得なかったのさ、まあそのうち忘れる気ではいるがね」
テロには屈しないし、大元も叩き潰して再起不能にして見せる。どんな手を見せて来るかは不明だが、それを予測して対策を立てるのは現場に居ない社長らの仕事だろう。
「ひとまずAIの感情値が正常な範囲から大きく逸脱した場合に発動する鎮静化プログラムは出力出来た、場当たり的な処置にはなるが無いよりマシだろう」
「テストが済み次第アップデートさせます、適応を急がせましょう」
「彼らには今回の一件で人類を嫌って欲しくはないが、そうなったときの付き合い方も考えておかないとな」
「…解体という選択肢は無いのですね」
「そりゃ働いてもらってるのに不都合があるんで殺しますは道理が通らん、彼らが産んだ利益を積み立てて引退後のメンテナンス費に当たる計画も進んでる」
彼らには良き隣人としてこの先の未来を歩んで欲しいのだ、それが上手くいくかどうかはある意味この一戦にかかっているとも言えた。