第十四話 衛士の相棒
秋津島開発の開発部にて、前々から実験機の開発が行われていた操縦補助AIだが、やっと試作機の製作まで漕ぎつけたという。宇宙から届く半導体の品質が向上しつつあるのも開発が加速した要因だとか。
「あの、なんですかアレは」
「テスト用機材だが?」
目の前でカードを掴むという動作テストを行っているのは、一体の人型ロボットだった。元々は宇宙において遠隔操作で作業を行うロボットとして開発していたものを流用した。大きさは2mであり、人とあまり変わらない。
「あんな姿だが、一応隼と同じ関節構造を持たせてある」
「つまりアレはAIが動作の練習を行っているということですか」
「シミュレーションじゃあ上手くいったらしい、なら現実でもやってみようってわけだ」
練習用の機体を用意されたAIは、様々な動作を行っていく。別室に設置してある操縦装置から指令を送っているようだが、思考操作の比率はOSのアップデート前と同じ超高感度状態だ。
「なんというか、動作がなめらかですね」
「人間の思考は必ずしも確固たる動作を1フレームずつ出力できるものじゃあないからな、強くイメージしやすい箇所とそれ以外の中継ぎがアイツの担当だ」
「おお」
機体と操縦者の橋渡し、という開発目標は達成しつつあるようだ。
開発初期こそは帝国軍衛士からの評価は散々なものだったが、繰り返し調整を行っていく内に改善されたようだ。
「緊急時における回避率向上と機体にかかる過負荷軽減というのは?」
「えーとだな…人間が最も早く動作できるのはどんな時か知ってるか?」
「意識していた時、とかですか?」
「いいや違うんだ、脳での思考を介さない脊髄による反射反応だよ」
思考制御は文字通り思考を読み取るが、思考していないものまで読み取ることは出来なかった。電気信号を読み取ることで反射反応を動作に反映する試みも行われたが、機体を自ら破壊する危険性があるとして行われていなかった。
つまり思考した通りに動くとは言っても、本来人体であれば咄嗟に行われているはずであろう回避行動に機体が反応出来ない仕様だったのだ。
「脊髄反射によって行われた回避を一瞬で機体に損害を及ぼさない程度に収めつつ実行する、これがこのAIの目玉機能だ」
これにより戦術機は反射特有の0.1秒という反応速度を持って回避することが出来る、正確性は思考してからの回避に劣るがそこは使い分けだ。
「あー、宇宙開発するなら反射の読み取りなんてむしろ邪魔ですもんね…」
「そういうこと、まあAIのアップデートは継続して行う予定だけどな」
来月には隼での動作テストも行っていく予定だ、より多くのデータが取れれば色々とやれることも増えていくだろう。
「これで隼はようやくF-4と同等の動作性を得て、F-4以上の回避性能を更に高性能化させたわけだ」
「やっとでしたね、操縦系統の技術移転だけは受けたいレベルでしたから」
視察はまだ終わっていない、案内役の研究員に連れられて別室へと向かう。
次はAI本体を見せてくれるそうだ。
「思ったより小さくないですか?」
「これにAIとそれを動作させるコンピューターが収まっているらしい、ここまで小型化してくれたのには感謝だな」
目の前の机に置かれているのは四角い箱であり、大きさはトランクケース程だ。この時代で最も性能の高いCPUを搭載したそれは、コックピットに元々機能拡張用のスペースとして残されていた場所へと納められる予定らしい。
「操縦士の情報を蓄積して操縦の自由度を増すっていう機能も米国同様に実装出来そうだ。まあ、得たデータをどうやって最適化に使うかは難儀したがな…」
「操縦系統では後手に回りましたね、工学系以外が弱かったのは反省点でした」
「今は一応の完成を喜ぼうぜ、コイツは将来的に無人機のAIになってもらうんだからな」
以前語った無人戦術機構想の第一歩に当たるのがこの補助AIだ、これから一気に階段を駆け上がっていくことになるので拡張性は大いに担保してある。
衛士が心の底から信頼できる相棒となるため、AIの開発チームには頑張ってもらいたい。
おそらくXM3をインストールしても動かせるマシンパワーがあります。
作業ロボ君は後で色々活用される予定です。