「UAVからの観測映像によりコンテナの位置が分かりました、座標を共有します!」
「…減速と着陸が上手くいかなかったのか、ビルに突っ込んでやがるぞ」
「ひとまずこの中身を改めよう、それと第二分隊は良さげな狙撃地点を探しておかないとね」
やっとのことで市街地に入った対策課の面々は最も近いコンテナへと向かっていた。4機の敵戦術機は建物の中の民間人を盾に砲撃戦を封じ、格闘戦に対しても逃げに徹して時間を稼いでいるようにみえる。
「母艦は既に疾風が行動不能にした、船を逃すつもりじゃないならこの時間稼ぎは一体?」
「それを確かめるためにコンテナを調べるんだから、ほら急げ急げ」
コンテナの着陸、いや墜落地点は交差点だった。建物と思い切り衝突したお陰で残骸が散乱しているが、見た限り人体と思わしきものは発見出来ない。
「開けます、少し離れていて下さい」
「コンテナはなんの変哲もない国連規格品のようだけど…」
取手を回してロックを外し、手前に引く。爆弾かBETAでも詰まっているのかと思ったが、衝撃で歪んでしまったのか開かない。
「開きませんね」
「振動で内部構造の分析を行おう、確か桜花システムが使えた筈だ」
オスカー大隊によるハイヴ攻略の際に使用された構造把握機能を転用すれば、中がどうなっているかはある程度把握出来る。中身が空ならそれでよし、何か入っているのであれば専門家を呼ばねばなるまい。
「どう?」
「やっぱり何か入ってますが、武器のようには思えませんね。ハッチの稼働部は何かが充填されていて動かないようにされてます、開けないのは意図的な…」
一番機がコンテナに手を置いて解析を行なっている中、エンジン音をビル群が反響させる。データリンクにて共有される情報に目を移すと、一機の敵戦術機がこちらに向かって来ていた。
「狙いはコンテナか!」
「すぐにでも来るぞ、帝国軍は何をやってるんだ?」
「戦術機の最小単位は二機編成だ、対応に動いた一個小隊じゃあ数が足りない」
訓練を受けていた三番機は戦術機の運用に関してある程度の知識を持っていた。つまり目の前の相手は自分達で相手をしなければならないということであり、飛べない彼らでは分が悪い。
「第一分隊は盾で防御、第二分隊で対空砲火を」
「了解!」
「前に出ます、流れ弾で死ぬなよ!」
小隊長の指示を受け、コンテナを守るように第一分隊が盾を構えて前に出た。聞き慣れないエンジン音は段々と大きさを増している。拳銃を構え、出て来るであろう敵機に砲弾を浴びせる準備は済んでいる。
「来たッ!」
相手が出会い頭に放ったのは突撃砲による掃射、明らかにコンテナを狙ったものだ。それに対して射線に被さるように動いた一番機が砲弾を受けるも、倒れることなく拳銃を構え直した。
「俺はまだ生きてるよな…被害報告!」
『左肩部の装甲に損傷、パトランプが機能喪失です』
「戦闘続行には?」
『支障なし、ぶっ放して下さい』
小隊の隼が次々と砲弾を放つが、敵が持つ突撃砲による牽制と跳躍ユニットによる回避により有効打を与えられない。それにビルを盾にされては撃つことも出来ない、良いようにやられている。
「分隊長、機体は大丈夫?!」
「問題ない、それより盾をしっかり構えてろ!」
コンテナをわざわざ破壊しに来たということは確保されては不味いということだ。小隊長の指揮は正しかった、この動きは敵に対して影響を与えられている。
「こちとら警官だ、現行犯逮捕なんざ…」
『対空から侵入、真正面から来ます』
「仕留める気か!?」
他の機体とコンテナを守るように動いていた1番機が邪魔だと踏んだのだろう、突撃砲を放ちつつ一気に接近して来る。左右は建物があり、他の機体が展開して戦うのにも無理がある。
「MiG-29との接近戦か、この機体でも死なずに済むかどうか…」
ソ連製の機体は密集したBETAの中でも戦えるような設計になっており、技術的に劣っているとされつつもその格闘戦能力は一定の評価を得ている。単純な四肢の動きも致命的な斬撃に転換され、スーパーカーボンで作られた刃の前では分厚い装甲も紙同然だ。
「三番機、俺がやられた後の隙を狙えるか!」
「囮になる気か?」
「わざわざ正面から来てくれるんだ、射線は無理矢理通してみせる。二番機は三番機を絶対に守れ!」
「了解!」
放たれた36mm弾は機体の装甲を削り、盾が割れて破片が飛び立った。その上圧力を受けた劣化ウラン弾は激しく発火、被弾した機体に火花が飛び散る。
『追加装甲大破、貫通しています』
「まだ動く!」
MiG-29の腕部にはナイフではなく、モーターブレードという装備が搭載されている。チェーンソーのようなものだが、高速で回転する刃が如何に危険かというのは説明しなくとも理解出来るだろう。
それが展開され、小型機特有の素早さで突き出された。
「防御を…」
『脚です!』
振り抜かれた腕は機体に届くことなく空振りに終わった、それは何故か。本命の斬撃を当てるためのフェイントに他ならなかったからだ。
「脚部のモーターブレードッ!?」
モーターブレードは四肢に搭載されている、そのことは戦術機マニアである彼は知っていた筈だった。しかし分かりやすく突き出された腕に意識が集中され、脚部にまで注意を向けることが出来なかった。
「(盾を掻い潜るように右側を狙われた、これじゃ食い破られる!)」
脊髄反射を読み取った機体が刃を避けようと身を捩るが、蹴りの軌道を考えると結局コックピットに命中する。幼い頃に体験会で乗った旧隼が走馬灯として脳裏に浮かぶが、彼は衛士適性が足らず衛士にはなれなかった。
「また一歩及ばず、か」
『そのための我々です』
反射を読み取ったSPFSSが操作を手助けし、必要な箇所の人工筋肉を即座に収縮させた。あまりに急激な動きに駆動系が悲鳴を上げるが、その程度は耐えて貰わなければ困るのだ。
「避け…うぼぁッ!?」
致命傷は避けたものの、拳銃を握っていた右腕が斬り飛ばされた。大量に被弾したこと、片腕を失ったこと、更に回避した際の過負荷が重なって見たことがない数の警告表示が視界に投影されている。
「一番機、動くなよ!」
しかし結果的に射線は開かれた、三番機の支援突撃砲はMiG-29を捉えている。2000発入りの弾倉を使い切る勢いで放たれた砲撃は戦術機の装甲を容易く削り取り、固定装備のブレードもへし折った。
「危ねぇ!」
その折れた刃は一番機に向けて飛来したが、当たることなくすり抜けた。そして機体の間を通り抜けた先には、命を張って守り抜いたコンテナがあった。
「「あっ」」
深々と突き刺さったスーパーカーボン製の刃だったが、不思議なことにゆっくりと抜けて地面に落ちた。その光景に誰もが固まったが、コンテナの穴からは白い煙が出ていることに気がついた。
「溶け…てる?」
「取り敢えず離れよう、これは危険だ」
漏れ出した液体はコンテナの外装を勢いよく溶かし始め、液面がアスファルトの上に広がっていく。強力にも程がある溶解液だが、これは戦場においては頻繁に確認される物質だった。
『要塞級の溶解液である可能性が高いかと思われます』
「困ったな、私達の装備じゃ対応出来ない」
「よ、溶解液ぃ?」
「触るなよ、人なんて数秒で溶けてなくなるヤバい液体だ」
この液体を使って何かをするつもりだったのだろう、他のコンテナも捜索しなければならない。激戦を潜り抜けたMMU対策課は損傷した一番機を庇いつつ、今後のことを考え始めるのだった。