「あれ、俺は地下に向かってた筈なんだが」
「何してんだよと言いたいが、ついて来た俺も俺だな」
二機の多脚車輌は建材をハイヴの反応炉まで輸送するつもりが、何故か地上への中継地点にまで逆戻りしていた。
「知らず知らずのうちに登ってたなんて、そんなことあるか?」
「さあ…」
他の中継地点でも同様の問題が多発しているらしく、無線は非常に騒がしい。搭載しているAIも異常に気が付かなかったようで、搭乗員達と共に首を傾げていた。
『ログを確認しましたが、確かに我々はハイヴ内を登ってますね』
「じゃあなんで降ってるなんて錯覚したんだ?」
『強化装備の感覚フィードバックに何かしらの異常があったのかもしれません、錯覚を起こすとなるとこの機能が怪しく思えます』
「取り敢えず報告だけして待機だな、下手な場所に入り込んで縦穴にでも落ちたら助からん」
こうしてハイヴ内を移動していた車両は最寄りの中継地点にて待機、暫くの間は立ち往生する羽目になる。しかしそんな中でデータリンクから一方的に情報を抜き取り、更には改竄しながら地下深くへと直行する多脚車輌があった。
「こういう類の解析は秋津島に頼るのが一番早いからな、まあ上が連絡してくれるだろ」
「いや今回ばかりはそうでもないぞ、帝国でテロがあったらしくてな」
彼らの機材にその車両の存在は表示されておらず、自らの存在を完璧に隠蔽しつつ進んでいることが分かる。走行時の音ですら強化装備の音声出力を弄って無かったことにしているのだろう、即座に行っているとは思えない手際の良さだ。
「嫌なタイミングだなオイ…」
帝国本土の秋津島開発と帝国軍はそちらの対応で忙しいらしい、市民の死傷者もかなりの数になることが予想されるとかで余裕がない。
「滅茶苦茶デカいハイヴを攻略したってのに、まあテロ屋共は何をやってんだか」
「折角勝ったのにムードが台無しだな」
走り去る車輌の存在を誰も認知出来ぬまま、待機は続いた。
ーーー
ーー
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「G元素により構成された量子コンピュータに必要不可欠なODLですが、その完全な浄化に関しては秋津島開発ですら成功していません」
「だがこうして無傷の反応炉を得たことで存分に研究が出来ると言うわけか」
「ええ、BETAの技術は人類にとって非常に有益なものです」
反応炉のすぐ近くに建てられた仮設研究棟にて、何人かの研究員が話し合っていた。現在の人類では到底再現が出来ない存在を前に、彼らの研究意欲は非常に高まっていたと言えよう。
「ODLの浄化実験に関しては既に準備が終わっており、明日にでも試験を始める予定です」
「第四計画が齎したものは計り知れないな、この無傷の反応炉がどれだけの価値になるのか想像も…」
「どうされました?」
「いや聞き慣れない稼働音が聞こえたものでね、これが例の機材かい?」
「か、確認して来ますので少々お待ちを!」
そう言って扉を開けようとした研究員だが、電子ロックを解除することが出来ない。もう1人も同じようにカードキーを使って開けようとするも、扉は沈黙したままだ。
「どういうことだ、一体何が起こっている?」
その言葉は誰にも届くことはなく、稼働を続けるODL浄化装置の音だけがハイヴの最深部に響いた。