第四計画はオリジナルハイヴ内に存在する敵司令塔を撃破することを決定、桜花作戦と呼ばれたそれの発動は50時間後に迫っている。世界中の前線では陽動として最寄りのBETA支配地域への攻撃を開始したのだった。
「…馬鹿な、砲弾の撃墜率が90%を超えるだと!?」
「再計算は?」
「既に行なっています!」
数週間前に行われた光線級吶喊は失敗していた、だが難易度の高い任務であるため失敗すること自体は珍しくない。だが陽動に先んじて送り出した2度目3度目の部隊まで未帰還に終わっている、その上支援砲撃の迎撃率も類を見ない高さだ。
司令部で作戦を見守っていたソ連軍の高官たちが狼狽えるのも無理はない、明らかな異常事態だ。
「報告にあった超大型光線属種、あの存在が確かであれば…」
「それは混乱の最中で途切れ途切れに聞こえた通信が根拠だろう!」
「だが信じざるを得ない、艦隊の支援砲撃も交えてこの結果なのだぞ」
超電磁砲を運用出来る上にタイフーンという第三世代機を独自に運用する欧州連合との合同作戦だったが、欧州ソ連領奪還の先駆けになると考えたソ連軍は大量の戦力を掻き集めていた。
「振動計に感あり、地下侵攻です!」
表示された侵攻予測地点は複数存在し、どれも前線を食い破るように配置されていた。
「こんな時に秋津島はデブリ警報など出しおって、軌道艦隊さえあれば多少なりとも光線属種を撃破出来るというのに…軌道艦隊からの返答はまだか?」
宇宙港から突如発令された低軌道のデブリ警報により、本来投入される筈だった軌道戦力は立ち往生していた。光線属種への先制攻撃として非常に優秀な軌道爆撃は現状を打開出来る策と言えた。
「たった今国連軌道艦隊から人的被害を防ぐため無人艦隊による爆撃を敢行する、との報告が」
「無人化したHSSTか、巡洋艦か戦艦クラスと比べると積載量に劣るが」
「無いよりはいい、艦隊の現在地は?」
「…通信途絶、監視衛星からの反応も次々に!」
「デブリの中でも健在だったではないか、今になって何故急に」
混乱する司令部だったが、立ち込める重金属雲の中から一筋の光が空へと撃ち放たれた。重光線級のものより数段太いそれが放たれた直後、低軌道の衛星がまた一つ死んだ。
「軌道への攻撃を、学習したのか」
この日、無敵の戦力だった軌道艦隊は始めてBETAによって船を失うこととなる。前線が瓦解した連合軍は一時後退、東ドイツの要塞にて接近する超巨大BETA群に対する戦略を練るのだった。
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突如攻勢を強めたBETAにより、欧州の最前線である東ドイツは苦戦を強いられていた。本来であれば攻勢に出て陽動を行う筈が、そんな余裕など吹き飛ぶほどの状況となっている。
『666中隊の隼は稼働限界です、予備機を出すので少しの間待機をと整備班から連絡が来ています』
機体の調子を最も良く理解している補助AIの言葉を聞きつつ部隊員に手慣れた様子で指示を飛ばすのは現666中隊隊長、テオドール大尉だ。
「予備機はいいとして、武装は…有り余ってるな」
秋津島開発の兵器実験場とすら揶揄されるようになった東ドイツでは、帝国軍ですら小規模の運用に留まるような新型突撃砲が格納庫には大量に用意されていた。
『国連軍の再編は進んでいますが戦える部隊は全体から見れば少数です、逃げて来た理由も恐らく単純なものではないでしょうし』
「ここからが正念場か」
母艦級の脅威は大きい、虎の子の疾風も少なくない数が撃破されたそうだ。逃げ込んできた戦術機は要塞の影に隠れて整備を行っており、自走砲や多脚戦車に至っては溢れるほどの数だ。
『光線級吶喊を求められるのは確実で…すみません、元中隊長から内密な通信が』
「内容はなんだ?」
『社長と話す時に使っていた個室に来て欲しいとのことですよ』
最近は色々と忙しく、会うのは久しぶりだ。そう思った彼だが、薄暗い部屋の中では軍を辞める前と同じ神妙な顔をした彼女が待っていた。
「…国連を通じて第四計画から連絡があった、突如発生した衛星通信の不調はこれが原因だそうだ」
渡された秋津島製の端末には、軌道上で発生した被害について簡単に纏められていた。被害の全てはBETAによるものであり、デブリ警報は警戒衛星が破壊されたことにより発令されたものだとも記されている。その結果投入された無人艦隊は全艦撃沈、空の上も混乱していることだろう。
「軌道艦隊が…全滅?」
「国連宇宙軍が封鎖中の低軌道に投入したそうだ、光線属種の射程内に入った瞬間墜とされたと聞いている」
「有り得るのか、そんなことが」
「第四計画にてオリジナルハイヴの攻略が行われるのは聞いたな?」
「ああ、だがこうして元中隊長が出張って来たということは何かあるんだろう」
最悪の状況に頭を抱えながらも説明を行うのは現在は国家運営に携わる元666中隊、アイリスディーナ・ベルンハルト氏だ。
「いつもの情報提供者曰く、BETAに人類の情報が漏れたとのことでな。ソ連が中心となって進める筈の黎明作戦に大きな障害が出来た」
秋津島開発のロゴが端に付いているディスプレイに表示されたのは、第四計画の権限によって引き出されたであろう情報だった。
「超重光線級、発見したソ連ではГ標的と呼称されている。既に3度の光線級吶喊を退けた上に砲弾の迎撃率はほぼ100%、化け物だな」
極端に迎撃率が高い地域があることが確認されていたが、こんなことになるとは想定外だろう。情報に付け足されたメモ書きによれば、"ML機関搭載兵器の存在に対するBETAの回答"とのことだ。
「新種の光線属種か…」
「この個体はゆっくりとだが欧州の防衛線、つまりここに向かって来ている。先程の母艦級による攻撃もこちらに大きな打撃を与えているのでな、ハッキリ言って照射圏内に入った瞬間に要塞が消し飛ぶ」
欧州の力を結集したとしても無理だろう、面制圧が意味をなさない時点で物量に劣る人類に勝ちは無い。
「欧州のML機関搭載兵器は現在荷電粒子砲の発射待機中だ、ドイツよりも内側でな」
「前線には来ないってことか、そして防衛線が突破されれば…」
「荷電粒子砲と共に保有する全ての核兵器を投射する、縦深防御と言えば聞こえは良いがな」
それくらいしか勝てる見込みがないということだろう。人類の勢力圏に引き込んで焦土に変えた後、全ての戦術機を叩きつけても一か八かというレベルだ。
「…だが、あの社長殿が切り札を用意して下さるそうだ。貴様は指定された洋上プラットホームに行け、猶予は2日も無い」
始まる筈だった人類の反抗作戦は、BETAの大攻勢と共に幕を開けた。