「クソ虫共とのリベンジマッチが開催されるとのことだ、我々は海を渡り要塞線にて遅滞戦闘を継続中の部隊を支援する!」
そう言い放つのは、修理が終わり出撃した試作艦の艦長だ。以前損傷した時と同様の人員が掻き集められた司令室では、既にML機関が稼働していることが見て取れる。
「秋津島の奴らは仕事が早いですね、武装は全力発揮可能ですよ」
「荷電粒子砲の復旧だけじゃなかったのか?」
「制式艦のための予備をかっぱらったらしいですよ、責任は社長が取るとかで」
搭載しているミサイルはほぼ全てがS11弾頭という豪勢なもので、主武装である大型超電磁砲に関しても砲弾は弾薬庫一杯に、燃料のG元素は片道とは言わず何周も出来る程の量が積み込まれていた。
「やはりこの船は大部分が無人化されていて非常によろしい、大型艦は肌に合わん!」
帝国海軍の中でシミュレーションを行い、一番この船を上手く扱えたのが彼らである。本来であればスポットライトが当たらないような人材ではあるが、こんなゲテモノ兵器を扱えるのは一握りしか居なかった。
「国土を守る戦艦は優秀な人材に任せるとして、俺達は単騎で大陸の支援へと向かうわけだ」
「随伴艦は無し!…なれども虎の子の不知火が艦載機として一個小隊、頼もしい限りですな」
「鹵獲防止のための最終処分役さ、彼らも中々の任務を背負わされたものだ」
既に日本には大量のBETA群が迫って来ているため、国土は厳戒態勢だ。整備された交通網は避難民と多脚車両の通行に耐え、砲兵隊は大量の砲弾を沿岸部へと浴びせかける準備を既に終えている。
「帝国の本土防衛軍はこれからが正念場だ、死地と化した大陸からどれだけの将兵を帰還させられるかも肝になるだろう」
「要塞線の放棄は時間の問題とお考えですかな?」
「司令部からの情報では既に陽動のため前面に展開していた中華統一戦線部隊は鏖殺され、国連軍はその支援すらマトモに出来ず這う這うの体での撤退だ。秋津島開発からの内密な連絡だが、BETAの大規模侵攻が確認された時点で輸送船をありったけ手配しておいたらしい」
「つまり、帝国軍からの指令が降り次第乗せて逃がせと」
国連軍は帝国軍よりも上位の指揮系統だ、この惨状をどうにかすべく大規模な撤退をするよう促せば帝国でも首を縦に振らざるを得なくすることは出来る。それに秋津島開発がせっせと拡張していた港湾施設であれば、ある程度の装備さえ放棄すれば全ての人員が撤退することも可能だろう。
「まあ我々が例の超重光線級と相打ちになれば分かりやすい、逃げてくれるだろうさ」
「祖国と海の上以外で死ぬ気はありませんよ」
生まれてからというもの戦い続けた戦地に帰還した試作艦は、手始めに荷電粒子砲で要塞に迫るBETA群を薙ぎ払った。
「さて、国連軍に向けて撤退を具申するか」
「我々が来ても抑え切れる数じゃありませんしね、直したばかりの主砲が焼き切れますよ」
こうして、中国大陸での長い戦いが始まったのであった。
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試作艦が決死の戦闘を始めた時とほぼ同時刻、社長は次の手を打つべく秋津島開発の兵器実験場と斯衛軍の一部という二つの場所に連絡を入れていた。
「斑鳩さんとは連絡ついた?」
「ええ、斯衛軍でも話の分かる人だと言っていたのは間違いないようですね。少々切れ者が過ぎる気はしますけど」
「それが良いとこなんだって、あの溢れ出る有能さってもんが堪らんよな!」
「まーた社長が気に入る人を見つけてしまった」
秋津島開発と富嶽重工、そして遠田技研が力を合わせて開発していたある機体は既に実戦に耐えうる状態にまで仕上がっていた。飛鳥計画により生み出された機体、武御雷である。
「先行量産型の武御雷は全機彼の部隊にぶん投げて大丈夫だ、テストパイロットとして乗ってもらってた部隊でもあるしね」
「最終調整は済んでない状態なのに、この機体特性があんまりにもピーキーですよ!」
「補助AIが戦闘中にでも衛士に合わせるさ、それにこの程度のじゃじゃ馬なら問題なく乗って見せるのが斯衛の人間ってもんだろ」
関節強度や膂力は不知火と比べて50%以上増加しているという化け物のようなスペックだが、全身に備えられた装甲一体型のブレードが密集戦闘で戦術機の強さというものを数倍に引き上げる。正に戦術機の中の戦術機、対BETA戦に特化した最高の機体といえる。
…運用コストにさえ目を瞑ればだが。
「本当はA-01のハイヴ突入部隊にも配備したかったんだがな、流石に無理だった」
「でしょうね、逆にどんな時ならそれが許されるんですか」
「基地が襲われた結果稼働機に碌な機体が無くて、使えるのが武御雷だけだった時とか」
「無いでしょうそんな状況」
「あるかもしれないだろ!」
そんなことはさておき、武御雷を出したのには理由がある。斯衛が帝都の守護のみに注力する場合、動かせる部隊が他に無くなるからだ。
「斑鳩公は何かあれば自ら動く気だ、あの機体はまだ斯衛に納入されてないから融通が効くしな」
「待ってください、じゃあ武御雷って今何処に所属してることに…」
「秋津島開発だ、責任を全部抱えるために俺の名前でまあ色々と書類を作っておいたからなんとかなるだろ」
このままでは余罪が多すぎて取り調べ室と獄中で余生を過ごすことになりそうだが、人類が滅ぶよりは幾らかマシであると彼は考えていた。
「富嶽重工と遠田技研になんて言えばいいんですかね、これは」
「お子さんは責務を果たすため、元気に旅立ちましたよとでも言っとけ。少なくとも間違いじゃない」
手を回せる範囲のことは大抵やり尽くした、後はもう見守るしかない。送り出した飛燕が欧州の超重光線級を撃破出来なければオリジナルハイヴへの軌道爆撃は行えず、勝てたとしても凄乃皇とA-01が攻略に成功するかどうかは分からない。
「月と地球の間で思い出したあの時から今日まで必死に積み上げて来たんだ、通用すると信じたいけどな」
作戦開始まであと30時間、猶予は着々と減っていた。