「遅滞戦闘も限界だぞ、砲撃が届く前に撃ち落とされる!」
「直接照準で撃てる超電磁砲だけが頼りか、山なりの弾道は全て無効化されるな」
欧州連合が有する疾風の超電磁砲はその威力を遺憾無く発揮し、膨大な個体数による平押しを続けるBETA相手になんとか戦線を保っていた。第四計画からの通達により切り札を投入するまでの時間を稼ぐ必要に駆られた彼らは仕事を果たし、飛燕の調整に必要な時間を用意して見せた。
「疾風の主砲が持たない、ローテーションも崩れかけだ」
「替えの砲身と予備の砲弾はあと3割、ジリ貧ですね」
「ここに陸上戦艦があれば荷電粒子砲が…いや、無理な話か」
白い塗装を施された鋭角的な装甲に赤いBETAの体液が伝う。欧州連合の最新鋭機であるタイフーンを駆る部隊が前に出されたのは、その稼働時間の長さと近接格闘戦能力の高さ故だ。
彼ら欧州連合部隊の精鋭は、どうにか絶望的とも言える戦場にてその場を守り続けていた。
「残弾は?」
「先程補給機が死に物狂いで届けてくれた36mmの弾倉が30、120mmは20です。折れた長刀の代わりは一本だけですが」
「…三機送ると言われていたんだがな、来たのは一機だけか」
「護衛の無人戦術機も居ませんでした、遭遇戦になったんでしょうね」
既に防衛線は戦車級の浸透を許しており、砲撃を続ける要塞でも既に会敵したとの報告が来ている。光線属種からの照射圏内に要塞が納められれば負けは確実、そのために残った部隊で前に出たのだが損害は大きかった。
「無人機の被害が大き過ぎる、司令部は補給機を便利な移動コンテナ程度に思ってるんだろうが…」
『無人機は無人機です、申し訳ありませんが割り切って下さい』
「だがな、支援AIであるお前の同胞だろう」
『我々は個ではありませんから、一個体の機能停止は全体の死になり得ません』
そう言われると黙る他無い、飛びかかる戦車級を腕部のブレードで切り払いながら空になった弾倉を取り外した。補給機から得た弾倉を突撃砲に取り付け、寿命が近い砲身が持つことを祈る。
「…兎も角、新鋭機であるタイフーンの性能は実証されたわけだ」
「損傷あれど損失機無し、武器はなくとも四肢があります」
「軌道艦隊からのコンテナ投下が封じられたのがここまで痛いとは思わなかったな、補給機では追いつかないか」
「時間が経てば経つほど反抗は難しくなります、第四計画の奥の手はいつ到着するんでしょうか?」
彼らは第四計画が投入するという戦力を頼りにこの場を維持してはいるものの、その奥の手がなんなのかは知らされていない。浮遊艦は欧州には存在していないし、XGシリーズもハイヴ攻略に投入されたために余りは無い。
「分からんさ、だが信じるしか…」
「レーダーに反応…未確認機です!」
「来たか!」
音速で飛行してきたのは戦術機ほどの物体、データリンクにて共有される情報ではただ「A-00」と表示されているのみだ。
「A-00?」
「オルタネイティヴ計画の実働部隊か、番号はA-01からだった筈だが」
その機体を示すレーダー上の光点は常識から外れた速度で移動しており、明らかに音速を超えている。光線属種の出現により系譜を絶たれた航空機でも引っ張り出して来たのかと思えば、その機体には明らかに四肢が備わっていた。
「音速超えの戦術機だと!?」
「データベースに一致する機体無し、恐らく新型です!」
外見的特徴は既存の戦術機とは合致せず、機体の周囲は何故か電磁波が歪んでいるために正確な情報収集も難しい。分かるのは疾風顔負けの主砲を有しているということだけだ。
「A-00の周囲30mには侵入禁止とのことです、これってまさか…」
「重力場だな、間違いなく」
戦術機にML機関を積んだのだ、秋津島の仕業に違いない。第四計画は帝国の預かり、特に秋津島開発は全面的な協力を行っていた。不知火という最新鋭機を国連に提供していたことは記憶に新しいが、ここまでの機体となると話が違ってくるだろう。
「もしそれが事実であるなら、あの機体は帝国が有する軍事機密の塊ですよ!?」
「本来ならこんな敵地で飛行させるような機体ではないだろうな、つまりアレを投入せざるを得ない状況だということだ」
A-00の突入ルートから退避した戦術機部隊達は接近する機体に釘付けだった、本当にこの状況を打開出来るのかどうかを半ば半信半疑に感じていたというのもある。
「退避完了です」
「来るぞ!」
元々の機体速度とレールガンの圧倒的な初速が合わさり、連続して放たれた砲弾は何体ものBETAを貫き血煙に変えた。音速だというのに地表スレスレを飛んでみせる衛士の技量により、敵集団に対して水平に撃ち込まれた砲撃は理想的な結果を叩き出す。
「え、A-00より通達。これより突入するとのことです」
「CPは?」
「後を追えと言っています、我々も突入しますか?」
「する他ない、あの機体の盾になってでも超重光線級の元まで辿り着くぞ!」
A-00は減速しつつ敵陣に突入、主砲の火力に物を言わせて大量のBETAを掻き分けては先に進む。その後に続く戦術機部隊は空いた穴を広げ、ある程度維持しつつ追い縋る。
「補給機まで付いてきているのか!?」
「最後の補給ですよ隊長、増槽を運んで来てくれたんです」
ボロボロになりつつもコンテナを守り切った補給機は飛行中の戦術機と速度を合わせ、跳躍ユニットに増槽を取り付けてから去っていく。アームが無事な機体は敬礼をしつつ後退するが、無理をしていたのか何機か落伍しては墜落して行く。
「…補給は?」
「追加で弾倉を受け取りました、剣の代わりも今度は二振りあります」
「結構、彼らの献身を忘れはせん」
欧州連合の行末を左右した海王星作戦、その母艦級との遭遇戦やハイヴ攻略でも彼ら無人機の活躍は目覚ましかった。しかしそれらの殆どは自爆などの自己犠牲であり、美談とするには少々痛ましいのも事実だ。
「この時こそが第三世代機の使い所だ、行くぞ!」
大量のBETAを切り伏せ、先に進んだA-00が残した死骸の道を進む。共に進む機体には西も東も無く、すぐ背後にはSu-27やMiG-29が得意の格闘戦を披露してくれている。
「ここまで大規模かつ切羽詰まった光線級吶喊は無いでしょうねぇ!」
「だが楽なもんだ、優秀な先導役が居てくれるんでな」
6門の突撃砲を構えた隼改が飛び上がった戦車級を的確に撃ち落とし、国連軍に籍を置く吹雪が巧みな長刀裁きでタイフーンと共に前衛を務める。
「A-00からのデータリンク来ました、超重光線級と接敵した模様!」
「なんだこの光線属種の数は!」
「まさに要塞の対空陣地ですよ、流石にあの機体でもこれじゃあ…」
「速度を上げろ、援護に向かうぞ!」
先行して突入した飛燕が目にしたのは、超重光線級の周囲に集まった大量の光線属種だった。砲弾の迎撃率100%というのは何も超重光線級の存在だけで成し得たものではなく、光線属種の集中運用によるものだったのだ。
「流石に単騎では不味いか!?」
「いえ今なら、支援突撃砲の射程内です!」
「アレを抱えて来た部隊が有るのか、でかした!」
しかし固まって存在するということは、纏めて攻撃範囲に収められるということである。BETAが人類の脅威をある程度認識したのは確かだが、分散して配置するという発想には至っていなかった。
「撃てェ!」
「やっと殴り返せるぜ、見てるかタコ野郎!」
中隊支援砲が放つ榴弾が降り注ぎ、光線属種の対空網に風穴を開ける。そして超重光線級はML機関を搭載するA-00に釘付けとなり、遂に無敵の対空陣地は綻びを産んだ。
「支援砲撃弾着、弾着!!」
「よぉし突入!奴らのデカい眼球に目にもの見せてやれ!」
戦争が始まって以来最も多くのBETAを屠った存在、砲撃という名の戦場の女神がこの地に舞い戻った。