宇宙開発企業なんですけど!?   作:明田川

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知ってましたか、秋津島開発の売上のうち兵器産業が占める割合は滅茶苦茶低いらしいですよ。

追記
目を怪我したので、完成済みの21話までは投稿しますがそれ以降の投稿は未定となります。書き溜めを使い切る前に治れば良いのですが、どうなっても失踪する気はありませんのでー!


第十五話 戦術機開発技術のこれから

「国内四社合同で対戦車級阻止能力を重視した戦術機の研究を?」

 

「パレオロゴス後の惨劇で後退した防衛戦ですが、火力を重視した重戦術機が成果を挙げたようでして」

 

名をA-10という戦術機であり、両肩にガトリングガンを備えた頭のおかしい設計をしている。なんだそりゃとも思うが、その火力は他の追随を許さないことは確かだ。

 

「将来的に発生するかもしれん国土防衛戦に必要かどうか確かめたい、と言ったところか」

 

戦術機開発技術の習得を目指した曙計画は終わり、米国も戦術機に関する技術移転を制限し始めたことを受けて、一度国内企業の様子を見たいというのが上の思惑だろうか。

 

「瑞鶴の方も設計は煮詰まったし、あとは実機で色々とテストする段階だから研究リソースはあるだろうな」

 

「我々も手を広げてはいますが、戦術機開発班はいつでも準備万端ですよ」

 

 

顔を合わせた四社の戦術機開発部は、まずA-10の分析から始めた。優秀であれば購入するのが手っ取り早く、その後に国内向けの改修を行うのが良いという案がある意味一番現実的であった。

 

原型機であるA-6イントルーダー、帝国では海神と呼ばれる機体を米国のように陸戦仕様へ改修する案もあったが技術的な問題があるとして却下された。開発コストが尋常では無い上に、米国ですら低下し過ぎた機動性という致命的な欠陥を排除出来ていないからだ。

というかA-6自体のライセンス生産すら始まっていない状況で、また新たな機体を作れるかと言い始めたのがそもそもの間違いなのだが。

 

(A-6とA-10が兄弟関係というのは頭に疑問符が残るが、本当に部品を共有しているのだろうか?)

 

少なくとも撃震にある程度追従可能な機動性は確保すべきと決まったのはお国柄の性だろうか。

 

「でもそれは上が許しませんよね」

 

純国産機(というには出自が怪しい隼)を持ち、量産と配備をある程度行えた軍部のプライドは高い。作れる技術があるなら自前で作れ、買っても来ない前例があるだろうと言われれば企業側は黙るしかないだろう。

 

「撃震のことを考えるとライセンス生産と国内向け改修を前に出して提案すれば通る気もしますが」

 

「いやぁ…表面的には仕方ないと言いつつ根には持ってますからね、心象は悪いでしょう」

 

戦術機は国産が絶対だと声高々に主張する程ではないが、隼を引き合いに出して文句を言って来るのは目に見えている。

 

「やはりF-4系をベースに重武装化する案ですかね。これなら撃震を流用出来るためにコストの低下が見込めますし、早期の実用化が行えます」

 

「それには秋津島も賛成です、我々としてもこれ以上戦術機の種類を悪戯に増やすのは得策ではないと考えていますから」

 

「F-4は拡張性に優れますからね、問題なく改修を行えるでしょう」

 

ひとまず撃震をベースに火力を強化した戦術機を作っていくことで各社の方針は固まった。撃震の製造と改修でF-4系に対して知識を蓄えた国内三社が主軸となり、秋津島開発は補助に回る形で開発は始まった。

地上でも精度と強度を充分に出せるようになった金属3Dプリンターは開発速度の飛躍的な向上に繋がった、前線での補修部品製造にも使われる予定だ。

 

 

「…参ったな、これは盲点だったぞ」

 

戦術機に搭載出来るほど軽量で、長時間の使用に耐え、尚且つ戦車級を撃破可能な威力と連射力となれば使える砲は限られる。

つまり、日本国内にそんな都合の良い機関砲が無かったのだ。

 

「絶対A-10をライセンス生産するか買うかした方が良かっただろ!」

 

「やめてくださいよ社長、多分それを思ってる人は多いと思いますけど言っちゃ駄目です」

 

「上の奴らはあんまり難しいと思ってないんだろうな、戦術機作るのって大変なんだぞ?」

 

戦術機の開発難易度を軍や政府が誤認している理由は秋津島開発にある、隼があっという間に完成し、今も斯衛仕様の試作機が完成し試験に回されているのだ。他社はアレと一緒にするなと怒っていい。

 

「ヨーロッパの兵器産業部門に話を持っていこう、餅は餅屋というしな」

 

「我々は戦術機を作れても大砲は作れませんからねぇ…」

 

というわけで搭載火器の選定に時間をかけるくらいならと政府にゴネて協力を取り付けたのはヨーロッパの軍事産業の代表達、対価は後方国である日本への避難だ。

 

「今や日本は大量の最新鋭戦術機を生産し、宇宙に対して無類の影響力を持つ秋津島開発を擁するアジアの海上要塞と噂されていますから」

 

「山を切り開いて居住地にするだけでヨーロッパの金持ちがわんさか来ようとしやがる、まあ無理もないがな」

 

日本独自の兵器を開発したい政府にとっても欧州軍事産業との繋がりはメリットが大きく、支社を設置したいという彼らの要求は飲むこととなった。これにより、それなりの数の技術者達が日本へと渡ってくる予定だ。

 

「40mm以上の大口径弾を連続して発射可能かつ、長い射程を確保し他の戦術機への火力支援を行える機関砲…」

 

「そんなのあるんですか?」

 

「ない!」

 

これは未来の欧州で採用される戦術機用の中隊支援火器の特徴を書いたものだ、戦術機が使える火力の最大値を大きく底上げする両手持ちの大口径機関砲があれば攻撃にも防御にも有用だろう。

正直言って国にはA-10を採用して貰いたかったが、そうならないのであればこの状況を大いに利用させてもらうことにする。

 

「というわけで草案はもうある。ウチの開発班と他の企業にも見てもらったし、この戦術機用の機関砲を持ち込んでみよう」

 

「そう簡単に作れますかねぇ?」

 

「ああ、まあなんとかしてもらうさ」

 

戦術機が使用する火砲に求められるのは一にも二にも軽量さだ、また機体が砲に振り回されないように重心にも気を配る必要がある。

 

「外装は戦術機同様軽くする方向で固めるとして、銃身と機関部はどうしようもないな」

 

「ここは軽くしようがないですからね」

 

いきなり戦術機用の中隊支援火器を作れと言われた彼らは面食らったようだが、F-4により防衛向きの能力を持たせられる新型火器の製作となればやる気を出したようだ。

A-10には火力で勝てないが、A-10より多くの状況で運用出来る機関砲は欧州でも需要があると判断したのだ。

 

「適材適所、火力は柔軟に運用出来てこそ真価を発揮するのさ」

 

「結局新規設計になりましたけど、私達だけで一から作るよりは全然マシでしょうね」

 

欧州軍事産業との早期接触が日本に影響を与えたのは明らかだ、これを機に様々な方面で活用出来る技術を蓄えた企業が辣腕を振るってくれるのを期待しよう。

 

ちなみにF-4の改修と中隊支援火器の設計に時間がかかるため、当分の間A-10モドキが姿を表すことはないだろう。出来れば日本侵攻までに防衛戦向きの機体が配備されていて欲しいという気持ちと、これ以上生産ラインを増やすなという気持ちがせめぎ合っている。

 

まだ試作機を見せて採用されるかどうかは不明な段階だが、中隊支援火器はどうにかその有効性を示したい。アレほどの火力支援を前線で飛び回りながら行える兵器は存在しない、後世で採用される程には有用な筈だが現時点での評価はどうなるのだろうか。




次は戦術機以外

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