欧州での超重光線級撃破が確実になった瞬間から少し後のこと、社長達は軌道上にある指令を飛ばしていた。
「さて、次の隠し玉の準備が終わったかどうか…」
「正気じゃありませんよ、有り合わせの物であんな代物を作るなんて」
「囮は必要だろ?」
第二宇宙港に停泊しているのは秋津島開発が作り続けている移民船の内の一隻であり、船体に張り付いたMMUが耐熱シールドを片っ端から溶接して回っている。
「重力場を用いた対デブリシールドの搭載試験艦、囮にするには丁度いい。それに肝心のML機関も因縁のアレがあるしな」
「軌道上で大暴れした挙句核弾頭の脱落を引き起こしたという、あの?」
「次の衛星軌道に突入してBETAの反応を見るのに使うつもりだったんだが、まあいいだろ」
ボパールハイヴから陸路で向かうことになった部隊の援護は必要だが、それを阻む超重光線級が厄介だ。試作艦と凄乃皇弐型が倒してくれれば良いのだが、まあそれで終われば苦労などしていない。
「ML機関に引き寄せられるのは実証済みだ、そこで上空に狙いやすい船を飛ばしてやれば…」
「隙を作れると、そういう訳ですね」
「うんまあ一瞬だけどな、その間に軌道爆撃が出来るかどうかって所だ」
低軌道に入れば重光線級にも撃たれるのだ、戦艦の装甲ならある程度は耐えられるとはいえ直接照射されることはあまり想定していなかった。
「で、こんなデカブツをどうやって動かす気ですか?」
「艦橋部分を取り外して巡洋艦を接続した、ヤバくなったら離脱するって寸法だな。船の方には有り合わせだが、着陸ユニットの拿捕に使った軌道変更システムを流用してる」
「本当に軌道上の物を掻き集めて使ってますね…誰を乗せるんですか?」
「不可能を可能にしてくれそうな奴が1人いる、まあクソ長い60mリムジンを運転するのとそう変わらんだろうしな」
「は?」
「いやリムジンと…」
「やっぱりストレスで未来じゃなくて幻覚見てませんか?」
この超巨大船の舵を握るのは一文字艦長だ、峠ではなく周回軌道を攻めてもらおう。何故この人物がこのような評価を受けるのか、それはまあ…顔と声優と劇中のパロディ描写が原因である。
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また少し時間は遡り、飛燕がまだ交戦中だった時のこと。第二宇宙港は多くの作業員とMMUが巨大な一隻の船に群がって作業を行っていた。
「馬鹿が考えた船だろ、コレ」
「急遽付けられた艦種は艦隊送迎艦、艦名はリムジンって…」
「社長は何かキメてるらしいな、まあ今日に始まったことじゃあないが」
作業アームが目立つ作業用の宇宙服を着た2人は、ドックにて改修を受ける船を見て溜め息を漏らしていた。
「BETAさえ居なけりゃコイツは探査船になる筈だったのに、悲しいもんだぜ」
「社員旅行用のリゾート惑星はまだ発見出来てないからなぁ」
何処かズレた意見なのはBETA殲滅をあくまで宇宙開発の前提条件としか認識していない気狂い共、秋津島開発の宇宙開発浪漫派の人間だからだ。
「社長がアニメ制作に一枚噛んだっていう去年の宇宙冒険活劇シリーズ、あんな感じのスペースオペラを体感したいんだよ俺は!」
「アレCGに金注ぎ込み過ぎてマニアにしか受けなかったじゃねぇか」
軽口を叩いていても手は止まっておらず、ツギハギだらけの船体をどうにか制御するシステム周りは段々と形になっていく。増設した推進装置の中身を書き換え、可動域を調整し、使えるようにしては次の作業場所まで流れるように移動する。
「兎に角だ、この船は本当に大丈夫なのかよ」
「触ってる俺達が一番分かってるだろ、動くさ」
囮として運用されるこの船は移民船として長年の航海に耐え得る堅牢さを活かした上で、更にその上へ装甲を被せている最中だ。超重光線級からの照射は流石に厳しいが、既存の種であれば地上から大気圏外までの距離が装甲となり長く耐えられる。
「ラザフォードフィールドは出せないのか?」
「重力場を自在に制御出来るコンピュータなんて宇宙に無い、減速剤をたらふく用意してゆっくり反応させて騙すのさ」
「うーむ、やぶれかぶれというかヤケクソというか…」
「諦めないのが俺達の美徳だろ、ほら次行くぞ」
本来なら大規模な作戦において常に運用されていた軌道艦隊は、光線属種の脅威により航空機同様戦地を失っていた。超重光線級の射角に入れば生きては帰って来られない、障害物の一つさえ存在しないのだ。
「宇宙軍の奴らピリついてるな」
「第四計画の軌道爆撃要請を待ってるのさ、三体も居る化け物を処理するのに地上ではどれだけの血が流れてるのかは想像したくないが」
「その先陣を切るコイツは推進系統の調整と同期が終わったら装甲の貼り付けを待たずに出撃だってな、いつから末期になったんだか」
「BETAが人類の事情を加味してくれた試しがあるかよ!」
彼らが推進器を調整し終わった瞬間、欧州の超重光線級撃破の一報が届いた。戦地にて獅子奮迅の活躍をして見せた謎の機体について議論が交わされる中、後2体も同様に倒せることを皆が願っていた。
「…ハハ、英雄さんの誕生か」
「宇宙でも伝説を打ち立てるしかねぇな、英雄が立派に凱旋出来るような船に仕上げにゃ祟られるぜ」
「違いない、戦後は記念館に飾ってもらうとするか」
残された時間は少ない、だが人類も使える力全てを振り絞って未来を掴み取ろうとしていた。国も人種も関係ない、今はただ第四計画の名の下に集い戦うのみだ。