宇宙開発企業なんですけど!?   作:明田川

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濁流と閃光と

アジア戦線を支えて来た帝国軍の要塞には、様々な部隊が集結していた。今回の大攻勢により後退を余儀なくされた中華統一戦線の部隊に、崩壊した戦線から這々の体で逃げて来た国連軍、そして防衛の準備を進めている帝国軍の三種類だ。

 

「重力場を前方に集中展開、照射に備え待機」

 

「…要塞の壁を盾にするとは、何処まで上手くいきますかね」

 

試作艦こと浮遊艦イザナギは分厚い要塞の壁を遮蔽に使い、着陸することで船の大部分を敵から隠していた。

 

「何、主砲以外にも我々には超電磁砲がある」

 

艦載型の超電磁砲ともなれば、威力は砲撃機の有する物とは桁違いだ。防御のために重力場を展開出来なくなる荷電粒子砲ではなく、防御と両立可能な兵装を選ぶのはごく自然と言える。

 

「要塞線は敵の第一陣を凌いだとはいえ無事ではない、正面戦力以外の撤退までの時間も稼ぐ必要がある」

 

「波止場は大忙しですからねぇ、中国大陸が一気に陥落するのも宜なるかな…」

 

残った監視衛星の観測結果を見て国連軍の司令部が叩き出した結論とはユーラシア大陸のハイヴに存在した膨大な数のBETAが地上に現れ、ひたすらに突き進んでいるという絶望的なものだった。

 

「中華統一戦線は?」

 

「前線には敵が切れ目なく押し寄せて来てるのですよ、津波に飲み込まれた者の末路は言わずともお分かりでしょう」

 

「ここまで押し込まれるとなると、そろそろですかな」

 

中華統一戦線最後の手段、戦術核が一斉に起爆した。かなり遠方の筈だが、その閃光と立ち昇るキノコ雲はまさしく核兵器のそれだ。

 

「は、はは、やりやがった」

 

「防衛線、抜かれましたな」

 

「仕掛けてないとは思ってなかったが、この状況じゃあ起爆した方が幾らかマシだろうな」

 

少しばかり個体数が減ったが、全体を見ると微々たる物だ。広域データリンクでは逃げ遅れた部隊が例外なく通信を途切れさせ、敵の侵攻予想地点に近い部隊からは救援要請が鳴り響く。

 

「軌道爆撃さえあれば幾らかマシだが、使えないとなるとここまで苦しいものか」

 

「秋津島開発のマスドライバーも全て運行見合わせです、まあ支援砲撃が来るとは思わない方が…」

 

「司令部から入電、支援砲撃が来るとのことです!」

 

「飛行物体接近、後方から!」

 

その時だった、数発の砲弾が上空で撃墜されたのは。

 

「支援砲撃!?」

 

「まだBETAは射程圏内に収まって居ない筈だ、どうやってあの速度と高度で砲弾を打ち出し…打ち出す?」

 

「艦長?」

 

艦長は少し前の会話を思い出した後、大きく笑い始めた。そして手元の端末で検索したのは中国大陸にて秋津島開発が整備したマスドライバー施設の現在地であり、砲弾の飛来した方角と一致する。

 

「マスドライバーか!まさかと思ったが、射表があったのか!」

 

「打ち上げ施設の対地投射は禁じられている筈ですが、まさか秋津島開発が対応可能な設計を行っていたとは」

 

「条約だの法律だのはこの際どうでもいい、この遠距離から砲撃を加えてくれるなら万々歳だ。迎撃した光線属種の位置特定急げ、射程距離の広さで言えば目標が一番早く反応する筈だ!」

 

立ち昇るキノコ雲と土埃、それに光線属種の熱が生み出した上昇気流は空からの観測を難しくする。だが砲弾の撃墜地点とレーザーの方向、そしてある程度の角度さえ分かればこっちの物だ。

 

「作戦変更、地平線を盾にしつつ突入する」

 

「単艦で突入する気ですか」

 

「要塞まで奴さんを引きつければ勝てるかもしれんが、そうなると要塞は無事では済まん。であれば我々が動くべきだ」

 

押し寄せる濁流を受け止める堤防として要塞は機能してもらう必要があるのだが、そうなった場合超重光線級の存在はあまりに無法と言わざるを得ない。

 

「射程に入った瞬間に防衛設備が片っ端から蒸発するな、そうなれば他のBETAの処理が間に合わずにお陀仏だ」

 

「ですが我々も無事では済みません!」

 

「承知の上だ…というわけで、すまないが彼らを頼む」

 

『了解です』

 

「か、艦長!」

 

司令室で待機していたアンドロイドが申し訳なさそうな仕草をした後、何人かを羽交い締めにして船から連れ出す。ずるずると引き摺られる男達は抵抗していたが、彼らは自分達の共通点に気が付いた。

 

「妻子ある身だろう、こんなことに付き合わず降りたまえ」

 

ーー

ーーー

 

要塞の裏から飛び立った試作艦は地面と船底が擦れるような高度で敵陣へと向かった。宇宙用に装備されていた後部のロケットエンジンまでも起動し、速度は充分だ。

 

「重力場攻勢展開、やれるな!」

 

「必要とされる演算処理は期待値以上、メインフレームの冷却が追いつきませんが…」

 

「なんだ」

 

「10分は持ちます、充分では?」

 

「ハハ、そうかもな!」

 

船体前方に集中していた重力場は突如広がり、BETA群に襲いかかる。それに触れた個体は吹き飛ばされ、宙に浮いた後試作艦に衝突し轢き潰された。

 

「やはり打ち上げられたBETAが盾になり光線属種は撃ってきませんね、問題は衝突する突撃級ですが…」

 

「武装を喪失しようと前に進めれば問題ない、奴を30km圏内に納められればそれで終わりだ!」

 

船の外装がBETAの体液で汚れ、甲殻によって傷付き、要塞級の足が突き刺さる。空いた穴が繋がる区画は即座に閉鎖されるが、ばら撒かれた溶解液が被害を広げていた。

 

「船内の無人強化外骨格が接敵!?…小型種に入り込まれました!」

 

「運良く潜り込んだのか、ML機関には触れさせるな!」

 

「艦長ォ!要塞級が!」

 

センサーが集中配置される無人艦橋に迫るのは要塞級の半身だ。船に追突した後で甲板を転がり、そのまま溶解液をばら撒きながら向かってくる。

 

「衝撃に備えろ!」

 

思い切り艦橋と接触したことで船体前方をカバーしていたセンサーが全損、艦橋に映し出されていたカメラ映像も体液で真っ赤になった後信号が途絶えた。

 

「火器管制レーダー大破!衛星通信アンテナもへし折れましたァ!」

 

「砲塔は手動にでも切り替えろ、ガンカメラで直接狙え!」

 

兵装運用の根幹を担う火器管制レーダーが破壊されたことで敵陣を切り開いていた超電磁砲が動きを止めたが、砲雷長が即座に手動操作へと切り替えた。省人化された司令室では手が足りないが、こんな船に乗りたい奴など昔は居なかったのだから仕方ない。

 

「カッコつけて船員を下ろすのは良くなかったですかねぇ」

 

「振り返る時間は無いぞ、今は引き金を引いていろ」

 

BETAが砲塔に衝突し、回転機構から火花が散る。ダメージが大きかったのか砲塔を回す際に火花が散るが、止まる気配は無かった。

 

「S11ミサイルは全弾投射、この際光線属種の気さえ引けばいい」

 

「30km圏内まで後少しだというのに、これは中々…」

 

溶解液によって脆くなった外装が割れ、そこに突撃級の死骸が突っ込んだ。その衝撃により演算処理が一瞬途切れ、宙を舞っていたBETAが地に落ちた。

 

「不味い、対光線防御!」

 

「そのための設備はとっくの昔に脱落してます、最早受けるしか」

 

撃ち放ったS11弾頭弾が次々と撃墜されるが、地表近くを飛行していたことで多くのBETAを巻き添えにしてみせる。あまりの光量に光学センサが悲鳴を上げるが、光線級からの照射は止まらない。

 

「武装区画が持っていかれるぞ、2度目は勘弁なんだが」

 

ML機関の暴走をオーバークロックにて全力発揮中の演算装置が押さえ込み、重力場を再展開する。たった一秒程度の照射だったが、あまりの強力さにより正面装甲が溶けて歪んだ。

 

「正面装甲やられました、荷電粒子砲の砲口露出!」

 

「二番砲塔の冷却装置にBETAが詰まりやがった、もう撃てねぇ!」

 

「…荷電粒子砲発射準備!」

 

「正気か!?」

 

展開していた重力場が収束し、荷電粒子砲の発射に費やされる。既に武装の大部分を失った状態では超重光線級の元まで辿り着けない、ならば一か八か撃つしかない。

 

「初期照射複数、個体数は測定不能!」

 

「船を前に傾けろ」

 

「了ッ解!」

 

ML機関は船の後部に搭載されている、光線属種の狙いが正面から船体後部へと移り変わる。しかし心臓を撃ち抜かれれば即座に轟沈する、あまりにリスキーだ。

 

「後部は正面装甲並みに分厚く作ってあるとのことだ、有り難いことにな」

 

エネルギーの充填は完全ではない、だが撃てる。そんな最低限の時間を稼いだ試作艦は船の角度を水平に戻し、荷電粒子砲を放つ。

 

「威力は通常時の3割ですが、充分だったようですね」 

 

「目標のデカブツ、30km圏内に入りました!」

 

「よぉし!大陸の人間に詫びるのはあの世でだ、海兵らしく三途の川で遊泳訓練と洒落込むぞ!」

 

艦長が勢いよく押したのは自爆装置のスイッチであり、ML機関の反応速度が増大する。そして臨界した主機は五次元効果爆弾、G弾と同様の原理により周囲の物体を分子レベルで引き裂き始める。

 

「超重光線級からの照射来ます!」

 

「遅かったなぁ!」

 

急速に広がる重力場は抱え込んだG元素を使い切るまで止まらない上に、直前に補給を受けていた試作艦の燃料はいつもより多かった。球状に広がった重力場は半径30kmをくり抜き、超重光線級の周囲に集まっていた光線属種を根こそぎ消し去った。




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