宇宙開発企業なんですけど!?   作:明田川

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決戦の陰で

「…突入したか、まあこれで大丈夫かな」

 

「何がです?」

 

「いやほら、俺がこの場から居なくなっても良いだろ?」

 

そう言って端末を操作すると、ドアのロックが外れた。そしてゾロゾロと入って来たのは帝国軍の方々で、かなり複雑な表情を浮かべていた。

 

「申し訳ないが伺いたいことが幾つかありまして、嘘だとは…」

 

「恐らく聞きたいことは事実だし、指示を出したのも私だろうね。迷惑をかけてすまない、抵抗はしないから連行して欲しい」

 

「連行…いえ、少しだけ同行をお願いします」

 

帝国軍の構成員にとって秋津島開発の社長は疑いようもない功績を打ち立て続ける英雄だ、それを捕まえてこいと言われれば思うところがあるのは仕方ないことだろう。

 

「じゃあ後はお願い、委任状はその机の中にあるから」

 

「…お任せください」

 

社長は液晶の光が眩しい部屋を出て、帝国軍の将校と共に廊下を歩く。連行を任された男は社長が高齢であることを理由に拘束具の使用を行わず、ただ外へ向かって歩いていた。

 

「では幾つか質問をさせて頂きます、飛燕を欧州にて使うよう指示を出しましたか?」

 

「ああ」

 

「…あの新種を倒すために?」

 

「軌道戦力が使えないとハイヴの攻略と帝国本土の防衛に支障を来たすだろう、まあ許されないことだった訳だが」

 

軌道爆撃を使うことが出来れば、海に入水しようとするBETAを一気に叩く事ができる。そうすれば帝国に辿り着く個体を一気に少なくする事が出来るのだ、そのために軍事機密を様々な国の部隊が戦っている中に投入するのは博打としか言い様がないが。

 

「帝国軍の人間では到底出来ない判断ですね」

 

「…すまない、あまりに馬鹿なことをやった」

 

「軌道爆撃さえ行えれば沿岸部でBETAを抑え込めます、死なずに済む将兵の数は計り知れません。罪は罪ですが」

 

廊下の角を曲がる、すれ違う社員は居ない。数人の集団はただゆっくりと前に進み続ける。

 

「社長殿は何故第四計画にここまで手を貸すのですか、我々が確保した証拠も全て貴方が責任を負うために作ったとしか思えない内容でした」

 

「…そうだね、年甲斐もなく夢を見たと言うべきかな」

 

「夢、ですか」

 

「起業してからトントン拍子で宇宙開発が進んで、月も火星も支社を作る気だったんだ。それが今や全部BETAの手の中、地上すら月と変わらぬ地獄になってしまった」 

 

ユーラシア大陸に住んでいた人々の何人がBETAに喰われたのだろうか、何人が食糧難で餓死しただろうか、そして何人が希望を失ったのだろうか。考えたくもないそんな現実に対して彼は目を背けなかった。

 

「この戦乱で人類の余裕は無くなっただろう?」

 

「ええ、経済的な打撃は特に」

 

「軍需にほぼ全ての生産力を投入し続けているのが今の人類だ。その証拠にこの数十年娯楽は進化していない、驚くべきことだ」

 

「娯楽ですか」

 

「もし人類に余裕があったらどんな世界になっていたんだろうかとよく考えるんだ。私が過去に夢見たように宇宙に旅立つようになっていたかもしれないし、案外急な進歩を求められることはなく平和を享受していた未来もあり得ただろう」

 

戦場へと身を投じ帰ることのなかった若き衛士達も、平和であれば長い学生生活で様々なことを身につけて社会に出ていただろう。

だがそうはならなかった、それに尽きる。

 

「第四計画によるオリジナルハイヴ攻略が成功すれば、人類は夢を見るための権利を手に入れられる。BETAとの戦いが落ち着いて余裕が生まれるんだ、良いことも悪いことも起きるだろうが…今よりはずっとマシな筈だ」

 

「その余力は復興だけでなく、G元素の争奪戦や人類同士の紛争に費やされる可能性も大いにあり得るのも確かですが」

 

「その通りだ、だから私はエゴを貫き通しただけの大罪人に過ぎないのさ」

 

彼の発明品を見ると、どれも死傷者を減らすためのものであることに気がつくだろう。高性能な戦術機、ミスによる死を回避する補助AI、理不尽な戦場をひっくり返す超電磁砲、まず衛士を必要としない無人機…枚挙に暇がない。

 

大罪人を自称しようとも、救った命が多過ぎる。そして大多数の人間よりも未来を見据え、老いても努力を続けた人物は高潔に写り過ぎるのだ。軍から政府まで、彼の処罰には大いに揉めることが容易に予想出来た。

 

「勉強になりました。もう一つお聞きしたいのですが、貴方にその余裕が齎された時何をされますか?」

 

「それは決まってる、見られなかった夢の続きを見るさ」

 

宇宙開発馬鹿で、不器用で、何故か異様に老けるのが遅く、そして周りを巻き込む魅力がある。そんな彼の長い戦いは、彼の目の届かない所で決着が着くだろう。

 

「…ああ、最後の最後で途中退場とは参ったね」

 

A-01とA-04がハイヴを進む中、彼は用意された護送車へと乗り込んだ。願わくば彼らがより良い未来を掴み取れますようにと、社長は自らを送り込んだ自称神へと祈った。

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