社長の解放から一週間遡り、桜花作戦が終わってから数時間後のこと。激戦を潜り抜けた宇宙艦隊は、どうにか母港への帰還を果たしていた。
「…どうすんだ、コレ」
「俺に聞くなよな」
リムジンの整備を担当した秋津島開発の技術者二人は、瞬く間にズタボロにされた衛星軌道を唖然とした表情で眺めていた。
「艦隊もリムジンも撃たれまくって全身の装甲が溶けてるぜ、バイタルパートが無事なのが納得出来ん損傷だ」
「船をぐるぐる回して当てる箇所を変えたんだとさ」
「軌道上かつあの巨体でか!?」
低軌道の復旧には暫くの時間を要するだろう、高速で飛来するデブリを安全に回収するには幾重にも重ねられた安全策が必要だ。
「しっかしどうしたもんか…彗星を総動員しても足りるか?」
「さあ…」
オリジナルハイヴや各戦線への軌道爆撃及び軌道降下により備蓄されていた物資は底をつきかけ、推進剤も度重なる出動によりメインのタンクが空になってしまっている。マスドライバーによる物資打ち上げも再開されたが、低軌道のデブリ群が壁になりそれも難しい。
「なあ、これ俺達の物資が無くなる前に輸送ルートの確保って出来るのか」
「やるしかないだろ、社長も捕まったから俺達でどうにかしねぇと」
「いやまさか本気で捕まるとはな…」
社長が軍に逮捕された時用の指示書が配られた時は何の冗談かと思ったが、使う時が来るとは思わなかった。しかしまあ事前に言われていたのもあり、多少の混乱は乗り越えて社員達は働いていた。
「掃海艇は?」
「さっき穴だらけになって帰って来たよ」
「お手上げだな…」
打ち上げたとしてもデブリが邪魔をして物資が届かない、高速で飛来する残骸はそこらの機関砲よりも余程危険だ。そして破片同士の衝突や、破片による人工衛星の破壊は更なるデブリ増加を引き起こす、被害を監視する宇宙港の人員は真っ青になっていた。
「ケスラーシンドロームって奴か、増え続けるデブリを減らすのに今の技術じゃ到底間に合わねぇ」
「艦隊が帰還出来たのも奇跡だからな、リムジンが盾になったらしいが」
どうしたものか、正直言って打つ手が無い。HSST暴走事件の際も相当な被害が出たが、低軌道全ての衛星が吹っ飛んだことを考えると規模が違った。
「ML機関でどうにかならねぇかな」
「アレを動かせるコンピュータが無い、搭載出来るリムジンはさっき半壊した状態で帰って来てる」
「ほら、爆発させてどうにか」
「デブリよりも厄介な重力異常が残ることになるんだが」
浅知恵ではどうにもならないようだ、二人は頭を抱えた。
「…社長、どうにかして下さいよォ」
「今頃独房の中だぜ」
現人神はお隠れになられた、最早神に祈る他ないと冗談を言う彼らだったが、デブリの監視を行なっていた管制室から歓喜の声と共にある報告が述べられた。
「こちら管制室!地上よりデブリ回収機が離陸する!」
「回収機って、来る前に穴だらけになるのがオチじゃ…」
「尚、回収機はA-04!A-04が務める!」
「…来ちゃったよ、社長の置き土産」
技術研究の名目で第四計画の予算以外にも社の金と技術を惜しげもなく投入していた凄乃皇四型は、修理を受けてから宇宙へと自力で飛び上がった。重力を制御出来る以上、大気圏離脱などお手のものだ。
「重力場が制御出来るならデブリを集めるのも簡単か、なるほど」
「愛してるぜ社長!今回ばかりは手当を増やしてくれ、倍でいい!」
「おう言っとけ言っとけ、多分そうしてくれるわ」
第四計画はML機関搭載兵器の所在やら情報やらを引っこ抜こうとする各国の動きを予見し、手出しができない宇宙へと移動させることにした。重力場によるデブリの回収は想定以上に上手く行き、それを見た秋津島開発の社員達は新商品のアイデアに結びつけるのだった。