「…まさかまさか、話せる時が来るなんてな」
「一度話しておきたかった、他の人間相手には理解も出来ない話だろうからな」
社長が防弾ガラス越しに話すのは、両手両足を拘束されたある人物だ。秋津島開発にテロ攻撃を仕掛け続けて来たテロ組織の人間であり、先の東京襲撃に参加していた。
「ウチの機体にボコボコにされて拘束された癖によく言うぜ、感想を述べてくれるなら聞くが」
「なんだあの機体は、36mmが効かない人型の兵器がこの時代に作られてるとは思わなかったぞ」
「うんまあ…半ば趣味で作った物をぶん投げただけなんだが…結果オーライって所かな」
保有機が大きく損傷したMMU対策課に代替機として臨時配備されたのは、倉庫で保管されていた仮称ヴァンツァーだった。新しく得た戦力で地下通路に逃げ込んだMiG-29を無力化、こうして拘束したと言うわけだ。
「でだ、ウチを襲ってた理由が知りたい。他の捕虜の話を聞く限り、アンタがあの中で一番偉いんだろ?」
「追い込まれた挙句戦術機に乗って陣頭指揮をする羽目になったんだがな、ここまで動き難くなると我が身一つではとても無理だ」
「そういうのは良い、だからアンタのボスを…」
「俺がトップだ、並行世界から未来の情報を持ち込んだのが俺自身と言えば分かりやすいか?」
「なんで戦術機乗ってんだよお前…死んでたら全ては闇の中って…」
こうして話せるのは相当な幸運ということらしい、一つ間違えば彼は地下通路の中で死体になっていた。追い詰められた結果だと彼は言うが、永遠に真相を知る機会が失われていたかもしれないと考えると寒気がする。
「襲っていた理由か、試行錯誤の一環だ」
「何の?」
「BETAによる並行世界への侵攻、それを防ぐために」
「…まて、待て待て待て」
この世界で大多数の人々がこの言葉を聞けば出鱈目か洗脳か、はたまた統合失調症かとでも思うことだろう。だが社長がこの言葉が真実かもしれないと思ってしまうのは、G元素の特異性故だ。
「BETAが並行世界の存在を認識して、自身の保有するG元素を用いて他の世界にも侵攻を始めたのか?」
「既にな、発生源となった確率時空に近い世界は全滅だ」
「嘘だろ…勘弁してくれよ…」
「可能か不可能かで言えば可能だろう、そしてお前達は次の発生源となる可能性が大いにあった」
「速攻であ号は潰したが」
「あの00ユニットが奪われていたらと考えたことは無いのか、それだけでどれだけの世界が危機に瀕すると思っている。それに貴様の脳味噌もそうだ、奴らが中身を気にする可能性は無いに等しいとはいえ危険極まりない」
規模が違う、死ぬ人数やら滅亡する国やらという次元では無い。確かに00ユニットの鹵獲は危惧すべき問題だったが、ではどうやって倒せばいいのかという話になる。
「対症療法のつもりか、気取りやがって」
「秋津島開発は分岐した確率時空の0.0001%でBETAの並行世界認知を引き起こしている、これは他と比べれば非常に高い数値だ」
「どうやって調べてんだお前」
「自分自身を送り込んでいる、訳あって人間一人を送り込む分のG元素には困っていないのでな」
「頭痛くなって来た…」
つまりBETAは既に並行世界を飛び越えてやって来る脅威と化しているわけだ、現状では対処しようがない。
「秋津島開発により並行世界の認知が行われてしまうのであれば、第五計画による一部の人類による地球の脱出が決行された方が確率が下がるのではないか。社長殿に狙いを絞っていたのは単純にそういう話だ」
「大多数の世界を救うために一部の世界は地球を見捨てるような結果に終わった方が良いと?」
「平和な地球に突如出現したハイヴがBETAを排出し、対抗手段を持たない人類が瞬く間に死滅する光景が今も広まっているとしてもか?」
「…それは確かに悲惨だが、俺はこの世界の方が大切なんだ」
「なら並行世界からの侵攻を防ぐ手段を作り出すか、迎撃のための手筈を整えておけ。俺は次の俺に向けて、秋津島への妨害は無駄に終わると教えてやることにする」
「その伝言は聞き捨てならないな、変えられないか」
「なんだ」
「解決してやるから俺にありったけの情報を寄越して協力しろ、聞いていて分かると思うが話が通じるだろう?」
それを聞くと男は笑い、そして天井を見上げてからガラスの向こう側にいる英雄に焦点を合わせた。
「確かにな、何処で仕入れた話かは知らないがこの手の研究にも堪能らしい。今回の手段に効果が認められなかった場合、サブプランとして試させてもらおう」
「嫌な奴だなお前、こっちの被害総額分殴り付けてやりてぇわ」
「精々この世界を守ることだな、人類全体の生存率が上がるのであれば応援せざるを得なくなる」
地球のBETAはまだ大勢残っており、太陽系にも跋扈している。そうだと言うのに並行世界の危機すら告げられ、社長は更に宇宙開発への道が遠のいたことを理解した。
「最後に一つだけ聞きたい、お前達工作員を送り込んでるのは誰だ?」
「因果律量子論か何かで確率時空の存在を実証した香月夕呼、この世界では社長殿と仲良しらしいあの女狐さ。牙が抜けちまって丸くなってるらしいじゃあないか」
あくまで送り込んでいるだけだがなと彼は言い、言外にこの破壊工作が指示されて行ったものではないことを示した。試行錯誤の一環という言葉の通り、可能性の模索として工作員が独自に下した判断による物だ。
「…環境は人を変えるのさ、否が応でも」
「ああなると攻撃的でかなわん、是非あのままにしておいてくれ」
彼がそう告げた後、面会時間は終わった。全てを聞いていた監視役は頭がこんがらがっていたが、社長はどう表現していいかも分からない感情の処理に困っていた。
「願わくば彼女が学校で生徒相手に論文の内容をべらべらと語れるような世界が来ますように、とでも願うべきかな」
並行世界への侵攻が行われているなら、その平和な世界すらも危ういだろう。スケールが大き過ぎる話に辟易しつつも、ひとまずは訪れた戦勝気分に浸かりたいとしみじみ思った。
第一部完、細かいことは長くなったので挿絵にまとめておきます。
【挿絵表示】
並行世界からの侵攻を受けた世界が現在配信中の最新作、マブラヴ:ディメンションズなのではないかと思っているのでこんな終わり方にしておきました。
一区切りってことで、感想と評価よろしくお願いします。