A-10モドキの方向性が決定し、実機が出来上がるまで待つ段階に入っていた国内企業は次のお題に取り組むことにした。それは対BETA用の戦車設計案を作るという難題だった。
「…戦車?」
「ええ、戦術機の後でいいとは言われていますが」
対BETA戦の花形として扱われるのは戦術機だが、実際に前線に立つのは単一の兵器だけではない。戦術機よりも大きな火力を運用出来る戦車は今でも有用な兵器の一つだ。
「ある程度の対レーザー防御と従来機以上の機動性を持ちつつ、問題になっている補給速度の迅速化を行なってほしいとのことです」
「戦術機みたいな戦車を作れと?」
「飛べ、とは言われてないのが救いですね」
全員が戦術機に乗れるわけではなく、衛士としての適性を持った人間は一部に限られる。それに戦車や歩兵は既存の補給体制で運用が可能であり、18mの巨人が必要とするような巨大設備を必要としないというのも利点だった。
戦術機はロケットとジェット双方の燃料を大量に必要とし、その巨体から整備可能な設備は必然的に巨大化する。戦術機を輸送可能な車輌は18m以上の全長になるわけで、機体が見かけより軽いとはいえ車体含めた重量はかなりのものになる。
つまり、国土防衛を効率的に行うためには戦術機以外の兵器もこれまで以上に量産する必要があるわけだ。
「74式の後継は開発が進んでいたりしませんか?」
「対BETA戦が始まったのでプランが白紙になりました、今回のお題もありますし既存の戦車の延長線上で開発するのはどうかと議論が紛糾しまして…」
対人類用の兵器は戦争が終わった後に作ればいい、という政府の吹っ切れ様には企業も驚いたようだ。
「我々の兵器開発リソースは現状戦術機に全てが注がれている現状、完全な新規設計となると…」
「手が足りませんね、戦術機に関する技術が転用出来るわけでもありませんし」
戦術機は既存の兵器とはかけ離れた技術体系を持つため、新たな技術として取り入れたは良いが他の兵器に活かせると言われると難しいだろう。
「取り敢えず政府を黙らせられるような設計案を出して、眼前の課題である戦術機の方に集中するのが得策かと」
「完全な対BETA用の戦車の設計案を作るのに何ヶ月かかるやら、秋津島開発さんも戦車となると経験がありませんし」
「あー、一応手が無いわけでは」
ー
というわけで、社員は何故か速攻で設計図を書き上げられる人物に頼ることにした。
「なるほど、戦車の設計図を書けばいいんだな」
「はい」
「月面で使ってた多脚車輌あるだろ、あの資料引っ張り出して来てくれ」
A-10モドキの件がある程度進んだなと思えば次の仕事である、対BETA用の戦車となるとどうすべきか。
日本の主力戦車は74式戦車だが、今から更に量産するよりも新型の登場を待った方が良いと判断したのだろうか?
「我が社で作れる範囲の戦車となると…」
120mm砲を搭載するのは決定事項、副砲として機銃を一つか二つ乗せる必要がある。状況に応じて換装し易いように装甲は取り外しが簡単な方が好まれるだろう、現状戦車のサイズでBETAの打撃を防ぐことは難しいがある程度の剛性は担保しなければ。
「ルナチタニウムを使っても要撃級の打撃や戦車級の攻撃を防げませんか?」
「アレはあくまで装甲材、要撃級の攻撃を一撃でも喰らえば車体が歪んで砲塔は回らなくなるだろう…操縦士は助かるかもしれんが」
「戦車級は?」
「F-4の装甲が食い破られる時点で打つ手なし、爆発反応装甲あたりで吹っ飛ばすしかないな」
戦術機関連で培った駆動系の技術を余すことなく投入し、完成したのは四つの足を持つ多脚車輌だった。
人が乗れるとは思えない形状の砲塔と戦術機の駆動系を流用した二重関節の脚部を持ち、既存の戦車というイメージからは大きく逸脱している。
無限軌道ではなく足先に取り付けられたタイヤで走行する仕組みとなっており、国内での防衛戦を想定した作りなのが伺える。
「装輪車輌だな、戦車っていうより」
「何故こんな形に…?」
「いやだって戦術機みたいな戦車って言ったらこうなるだろ、機動性と火力は保証するぜ」
外装は炭素系素材で構成されており、装甲にはレーザー対策が施されている。特筆すべきなのは操縦席以外には最低限の防御力として小銃弾防御のみが施され、耐弾防御を捨てることである程度の軽量化を果たしている。
「戦術機と同じ系統の素材なら外装は一発で成形出来る、歩兵と協働するならここらが落とし所だろうな」
「確かに対BETA用に特化していますけど、特化させ過ぎでは?」
「複合装甲でも対レーザー装甲でも上から貼っつけりゃいいの、BETAは120mm砲なんて撃ってこないだろうがよ」
その軽量さと快速性に従来通りの火力を持ち合わせた新世代の対BETA車輌は、こうして設計案が提出された。戦術機開発の裏で研究が進められていくことだろう。