「最新型のF-15Eが勢揃い、他にも欧州の機体から隼シリーズの改修機まで並んでるとは…」
「流石はユーコン基地ですね、以前来た際はここまでの大所帯では無かった筈ですが」
「東西の対立が激化する中で協働姿勢を取っている基地だ、中小国にとっては有り難い限りだろうよ」
社長とその秘書がやって来たのはアラスカ近郊のユーコン基地であり、そこには多種多様な戦術機が集っていた。これらは全てある計画のために集結しており、また社長達もその計画に参画するべく米国行きを決めていた。
「先進戦術機技術開発計画、通称プロミネンス計画…上手くいくんでしょうか?」
「東西仲良く戦術機の技術を持ち寄ろうなんてお題目が機能するとは思えんだろ、そう行儀のいい連中ばかりじゃあ無いのは承知の上さ」
ソ連と米軍の国境に跨る形で建設された国連軍の基地という存在故に中々の緊張感が漂っているが、それでも技術交換の場としてこれ以上の物はない。特に仮想敵が目の前にいるというのは対人装備の開発に良いらしいという話が噂になっているが、あながち嘘でもなさそうだ。
「俺達も手土産を持って計画に参加、恩を売って影響力を得てBETAの殲滅を早めるって寸法さ」
「帝国のおつかいってところですけど…爆弾抱えての渡航とは考えましたね」
「何かあったら基地の区画丸ごと自爆してやる」
「そんな滅茶苦茶な」
彼らが話している場所というのが格納庫の中であり、そのハンガーには既存の機体とは全く違う技術で組み立てられた決戦兵器が収まっていた。その名は飛燕、試作機ではなく正真正銘の量産タイプだ。
「戦術機の先進技術って言われたらコイツ一機で話終わるからな」
「よくもまぁ量産体制に乗せられましたよね」
「懲役中の刑務作業だから仕方ないとはいえ…キツかったし二度とやりたくないなぁ…」
十分な装備が施されていなかった試作型ですら単騎で超重光線級と張り合えるのだ、この機体が最も強力な対BETA兵器としての戦術機であることは疑うべくもない。しかしそれがこの基地に来た理由でもある。
「そんな帝国御執心のこの機体を完璧な状態にするためにやって来たと、そういうわけですね」
「対戦術機を想定した重力場制御、36mm弾を始めとした物理弾頭を用いた攻撃から守るためのソフトウェア開発が今回の目的だ」
「元々ラザフォード場は常に展開されているのでは?」
「G元素の消費が馬鹿にならん、コイツは試作型と違って燃料電池とのハイブリッドだ」
ラザフォード場によるレーザーの防御は非常に負荷が高く、G元素の消費から00ユニットの疲労まで運用上の大きな問題となるのは想定出来ていた。そのため普段は武装への電力供給を行うため非常に低出力でML機関を稼働させつつ、機体の駆動は従来機通り燃料電池にて行う。
その場合重力場は気流の制御に割り振られており、物理攻撃に対しての防御に使われることもない。BETAはご丁寧にもレーザーを放つ前に「今から撃ちますよ」と初期照射を行うため、その時のみML機関の出力を上げれば済む。凄乃皇や浮遊艦を始めとした常に浮いていなければならないML機関搭載兵器と違い、跳躍ユニットや脚部にて動くことが出来る戦術機ならではの燃費改善策だ。
「だがまぁ…それが今回の問題になってるんだがな」
「機体の装甲は36mmの直撃に耐えられませんからね、戦術機なんですから」
「だからって飛んでくる砲弾全てをML機関でどうにかしろってのも滅茶苦茶だろ、大量に配備される量産機だからこそG元素の使用量を減らしたってのにこれじゃあ本末転倒だッ!」
秋津島開発単体では手詰まり感が否めない、なので他国の機体を見て学ぼうという訳だ。何らかの迎撃システムを搭載するのか、重力場に頼るのか、はたまた全く別の解決策を模索するのか…というのもこれから決めることだ。
「中途半端にBETAが大人しくなったからって戦争まで始めやがって、これじゃあ俺達も備える他無くなるだろうが」
「G元素の獲得競争とそれに利用される亡国同士の代理戦争、あまり巻き込まれたくはないものですね」
「帝国は米国がML機関搭載兵器を形にする前に国連軍を抱え込んでユーラシア大陸に残ったハイヴの攻略を強行する気だ、嫌でも巻き込まれるさ」
ML機関搭載兵器は帝国と秋津島開発の独壇場というわけでも無くなりつつあり、特にXGシリーズこと凄乃皇の産みの親である米国が実用化を目指し研究を再開している。G弾の使用が国際的に認められにくくなったのも理由の一つだろう、BETAからの支配地域奪還は最早夢物語ではないのだ。
「戦後に凄乃皇の情報が流出したのが駄目だったなぁ、何処かですっぱ抜かれるとは思っていたが…」
「国連内に機密扱いとはいえ情報が保管されていましたから、重要性を考えると盗まれない筈が無いかと」
「凍結処分にするのが遅かったんだよ」
完全体となった凄乃皇四型はその危険性故に何処かの国が所有するということが出来なくなり、今は帝国内にある国連軍基地で保管されている。荷電粒子砲に関しても使用に際して大きな規制がかかることになり、今のところはBETAに対してしか使えないということになっている。
「ML機関搭載兵器に対する条約の締め付けは増すばかり、やっぱり一国しか運用してないってのは不味かったか」
「出る杭は打たれる…という話ですかね」
「G弾と一緒で突っ込んで来たら迎撃出来ないからな、怖がられるのは当たり前だぞあんなの」
政治とはこうも難しいものか、いつになったら広大な宇宙を見ながら開拓計画に現を抜かせるのだろうか。社長達の苦難はまだもう少し、状況の変わった未来でも続いていた。