社長は秘書から何かを聞かされ、また頭を悩ませていた。国際情勢が混迷を極めているのは今に始まった事ではないが、彼は振り回される側になってもみろと愚痴をこぼした。
「国連からお話があるらしいが、何があったんだ?」
「国連からというより、国連の秋津島支持者からの情報です」
「スパイ潜り込ませてんのか!?」
「善意の協力者ですよ、いや本当に裏で手なんか回してませんからね」
帝国の顔を立ててその手の工作は殆どやらないのだ、大抵帝国が国として動いてくれた方が面倒が少ないということも理由にあるが。兎に角情報提供者から送られた書面を見ると、何やら面倒なことが書かれていた。
「代理戦争拡大の恐れあり、ソ連にて不審な動き…か」
「いつものことですね」
「これがどうして俺達に?」
「二枚目があるんですよ」
「一度に渡してくれよ…」
二枚目には鎮静化したBETAに対するG元素奪取を画策する各国の動きが記されており、全体の指揮権を持つ筈の国連が手綱を握れなくなって来ているようだ。元々国連軍が上に立つことになったのは、BETAへ無用な学習をさせないためであったが、脳を失ったBETAを相手に指揮権を握り続ける根拠は揺らいでいた。
「これさ、思っていたよりも早くG元素の獲得競争が起きるんじゃあないか」
「ユーラシア大陸の国土を奪還したい国々もBETA支配領域への攻撃には賛成しているようです、不味い流れですね」
「帝国も大陸のハイヴを潰す予定だったよな」
「はい」
「で、最近国連軍と所属不明機の小競り合いがあったよな」
「はい」
「不味くないか?」
「不味いに決まってるじゃないですか」
ハイヴ攻略が進むのは良い、地上からBETAを排除するのは過去から現在までの悲願だからだ。しかし軍事行動に政治が絡んで良かった試しがない、秋津島開発としても慎重な舵取りが求められるだろう。既に国連軍機が襲われている以上、小競り合いは小競り合いで済まなくなる。
「どのハイヴを誰が攻略するか、各国の意見が対立することになりそうです」
「今に始まったことじゃあないが、これじゃ第四世代機の開発援助先を大幅に縮小する羽目になるぞ」
「開発計画に変更が必要ですね、最悪の場合米国と帝国のみが参加国になるかもしれません」
「飛燕の対人兵装、乗り気じゃ無かったが流石に進めるか…」
第四世代機の技術は広がることなく、戦争が始まれば予定していた通りに計画は進まない。そうなると計画を見て参加を希望していた国々からすれば、主催者から急に梯子を外されることになる。
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飛燕はML機関から生み出される有り余る電力を使うため、以前から様々な装備が試作されていた。しかし急遽量産と配備が行われたため、先進的な追加兵装に関しては試作止まりで終わっている。
「レーザー兵器24基からなる全自動迎撃システム、重量は嵩むが理論上全方位からの攻撃に対応出来る!」
「36mmウラン弾を即座に蒸発させる程の出力を有さないがためにお蔵入り、対小型種用の装備として転用されるも調達価格の高額さにより不採用…とまで書いてありますけど」
「上手くいかねえもんだよな、光線級はインチキだぜ」
自慢げな社長に対し、秘書が思わずツッコミを入れる。全身にレーザー砲を取り付けられた飛燕が格納庫に鎮座していたが、各種試験の結果は振るわなかったのだ。内部に炸薬を有する120mm弾や近年発達している空対空誘導弾の迎撃は全く問題ないのだが、それ以外となるとからっきしである。
「攻撃用に転用するにも、敵が戦術機なのが問題なんだよ」
「今まで一番レーザーに晒されてきた兵器ですからね」
「この程度の出力じゃ有効打にならん!」
砲弾を砲弾で迎撃するのが確実だが、問題は36mmの有効射程と突撃砲の連射力だ。36mm砲を撃たれるということは必然的に距離が近く、その分迎撃に割ける時間は無い。テストパイロットを勤めたユウヤからのレポートでは、四肢の動作精度と機体の空力特性にも与える悪影響が大きいとのことらしい。しっかりと弱点を指摘している他、定量的には観測し難い箇所すら洗い出されている。
「まあこれで牽制にはなったろ、見た目は派手だしな」
「そんなことだろうとは思いましたが、本命は何処にあるんです?」
「目の前にあるだろ、これだよこれ」
そう言って指差した先にあるのは見るからに大型の跳躍ユニット、米国側が運び込んでいたものだ。手が足りない秋津島開発は新機軸の跳躍ユニット開発を米国側に打診しており、これはその成果物になる。エンジンを作る技術は米国が勝る部分も多く、双方の良いところが合わさった結果と言えるだろう。
「共同開発品、いつの間に…」
「特注のラムジェットエンジン搭載型跳躍ユニット、戦術機も音速を超える時代さ」
「空気抵抗に耐えられずにバラバラになりませんか?」
「重力制御で気流の流れは捻じ曲げる、試作機で実証済みだしな」
まず近付かれないようにしよう、それが次のコンセプトとなった。元々装備予定の超電磁砲は36kmを優に超える有効射程を持ち、戦術機と違って光線級からの攻撃を防ぎつつ高い高度から攻撃することが出来る。機体性能を活かして有利なポジション維持しての引き撃ち、これが飛燕の対戦術機戦法だ。
「問題はラムジェットの量産だな。実機の配備だけで血を吐いてるってのに、跳躍ユニット更新なんてしたら現場に殺されるぜ」
「国防予算との兼ね合いもありますしね、今はどの国も外じゃなく内側に金を使ってますから」
「対BETA事業が縮小すると他に大口の契約がない企業はヤバいだろうな、暫くは大丈夫だろうが未来がどうなるか…」
社長の嫌な未来予想はさておき、混乱する国際情勢に向けて帝国は秋津島開発の新兵器試験映像を公開した。帝国軍の飛燕がユーコン基地にて全身にレーザーを装備し、周囲から放たれたミサイルを悉く撃墜するという内容だ。
対人兵器の発展と増産に警鐘を鳴らしていると受け取られたが、水面下で勢いを増すG元素獲得競争が鎮静化することはなかった。帝国自身がユーラシア大陸への派兵を決めていることもあり、エスカレートするこの状況は止められるものでは無かったのかもしれない。