宇宙開発企業なんですけど!?   作:明田川

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流れを変えるために

 社長とその秘書は盗み聞きをされる心配のない一室にて、次世代開発計画の今後について話し合うことにした。秘書は社長の言葉に対してある程度の相槌を打ちつつ、思考が巡りやすいよう誘導する役割があるため、話し合いとは少し違うものなのかもしれない。

 

「人類はオリジナルハイヴの攻略によりBETAの学習能力を失わせ、戦術的な優位を確立した。最新のG元素利用兵器を最大限利用することが出来れば、より小さな被害でのハイヴ攻略が可能になるだろう」

 

「ですね」

 

「まあここまではいいさ、問題はここからだ」

 

 国連の騒ぎを聞きつけた社長は知り合い達の伝手を使い、各国から情報を集めた。秋津島グループが提供するサービスは今や多岐に渡り、それ故に各業界との繋がりは太かった。

 

「時間の流れは恐ろしいな。人類はBETAを対処すべき脅威ではなく、この世界を取り巻く環境の一つだと認識してしまったというわけだ」

 

「今も被害は出ていますし、死骸の処理や取り戻した支配地域についての問題も現在進行形のものでは」

 

「ゾンビ映画見たことあるか。昔のヤツとか、なんなら秋津島グループで制作したドラマでもいい」

 

「ええまあ、少しは」

 

「アレって後半になるとゾンビよりも人の方が怖くなるよな。明確な脅威だったゾンビに対しての情報が得られた結果、ゾンビは得体の知れない何かから動く死体の化け物になる」

 

 タネが割れれば怖くない、そういうものだ。人間の適応力というのは便利かつ恐ろしいが、それ故に人同士で争うのだろうか。

 

「BETAも同じだ。その生態について謎は多いままだが、今はもう対処出来る巨大な生物群…程度にまでなってる。死者は減ったとはいえ、かなりの数が出てるんだがな」

 

「ここで人同士の戦争なんて起きたら地球が滅びかねません、特にG元素なんて今の人に余る代物を使えば!」

 

「うんまあ、下手すれば国の一つや二つが物理的に消滅するだろうな」

 

 国家に真の友など存在せず、今や潜在的には全てが敵だ。長らく極限状態で生存のための戦争を行い、全てを擦り減らして来た大多数の人間にとって、生まれた僅かな余裕は次の闘争のために使われるものだとして疑わない。

 

「そこでだ、世間の目を逸らしたい」

 

「どうやってです?」

 

「他世界からの干渉で衛星軌道が滅茶苦茶になった時あったろ、まあ今じゃ昔の話だが…当時は焦ったもんだ」

 

「ありましたね」

 

「この地球を襲うのは月から飛来するBETAで、それを迎撃していたのが軌道上のプラットフォーム群だ。その脆弱性がテロ行為によって明らかになった今、抜本的な改革に動く必要がある」

 

「まさか…月を?」

 

「その通りだ、月のハイヴを攻略する」

 

 社長は地球と月の位置関係を簡略化した画像をタブレット型端末に表示し、その上に小さな模型を置いた。それはBETAや戦術機を模したもので、秋津島ご自慢の3Dプリンタによって制作されている。

 

「今の人類は視野が狭くなってる。何もまだ終わっちゃいないのに、さも危機は去ったかのように別のことをし始めた」

 

「ここで人間の数を減らすのは愚行でしかありませんね」

 

「だから、BETAの恐怖ってヤツを少しばかり思い出させてやるのさ。月から飛来するBETA入りカプセルは今も定期的に迎撃してるし、火星はBETAだらけでもう大変ってね」

 

 人類の未来は既に閉ざされかけている。技術が進歩して他の星へと向かうことが出来ても、そこにはBETAが居るか、これから来る可能性が常に付き纏うのだから。

 

「人類が新たな生存域を獲得するためにはこれ以上のBETA拡大を抑制しつつ、有用な惑星をBETAよりも先に押さえ、守る必要がある」

 

「話が変わりましたが」

 

「まあ聞いてくれ。将来的にはそれをやる技術が必要なんだから、今から始めても問題ないだろ、その試験を月でやるだけさ」

 

 人類がBETAに食い尽くされようとしているこの銀河で生き抜くために、この短い人生で出来る限りの遺産を残す必要がある。その一環として、折角ならば馬鹿なことをやり始めた国々の鼻を明かしてやれるような、とんでもない実績を打ち立ててしまおうではないか。

 

「本国で試作中のアレを持ってくるのと…幾つか仕舞い込んでいた設計図を金庫から出そう。帝国はどうにか丸め込むさ」

 

「あの、もう開発計画が大変なことになりそうですがそれは」

 

「これは開発中の次世代機性能試験であり、第四世代機開発計画とは協力するものの無関係ってことで」

 

「滅茶苦茶だぁー!」

 

ーーー

ーー

 

 未来を生きていて、それ故に現代とは少しズレている秋津島開発。そんな彼らがここユーコン基地へ運び込んだのは、新型のML機関だった。非常に小型化されたそれは凄乃皇と比べると出力こそ劣るものの、戦術機というサイズで考えると過剰すぎる性能を有していた。

 

「大気圏外での活動を念頭に作られた大型跳躍ユニットで、自力での大気圏離脱能力を有する。そこらの宇宙船が泣いて逃げ出す性能だぜ」

 

「単機で重力場を発生させながら何処かの首都まで飛んで、最後に自爆すればお手軽誘導G弾に早変わりですね」

 

「だから今まで試作止まりだったんだ、帝国が今から滅ぶ可能性のあるシナリオの殆どはG元素関連技術でのものだしな」

 

 滅亡するシナリオの中には、社長が乱心して帝国に敵対的な行動を行った場合に関しても真面目に考察がされていたりする。

 

「飛燕で得られたデータを元に開発中の第四世代機を母体として、大型跳躍ユニットを始めとした追加装備を装着することで、宇宙での活動を可能とする」

 

「それが月を攻略するための機体を作る方法ですか」

 

「俺が死ぬ前に完成するといいんだがな、この身体に関しちゃ分からんことが多くて困る」

 

 この日を境に、ユーコン基地の一角はやけに騒がしくなる。運び込まれる大量の機材とパーツに、追加の人員は精鋭揃いだ。テストパイロット達は各種データ取りに協力しつつも、暫くはこの慌ただしさに首を傾げることになる。

 

「BETAと初めて遭遇した時の気持ちでも、思い出してもらうとしますかね」

 

「そう上手く行くでしょうか、新たな兵器の登場としか受け取らない人々の方が多いのでは?」

 

「地球の中じゃなく外に視線を移せればと思ったんだが、まあそれは色々やって来た上でもじわじわとしか広がってないんだよな…」

 

 人類が戦うことをやめる時は、戦える同族が居なくなった時だけなのではないだろうか。だが立ち止まるわけはいかない、あの月や火星へ、始まりの大地へと帰るまでは。

 




第二部はどうにかして短めで畳みます。
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