「荷電粒子砲の小型化には、大前提としてG元素を利用する必要があった。だがある程度代替可能な超伝導物質は発見されていて、コスト面では多少の圧縮が可能になりつつある」
「…元々の値段が高すぎて、その多少の圧縮でも安くなった気はしませんね」
「コイツら二、三機でハイヴを落とせるかもしれないんだ、値段は妥当さ」
大気のない月では、宇宙からの攻撃が減衰しない。その上最大の脅威である光線級も存在せず、ハイヴ自体の防衛能力は地球と比べると低いと言えた。だが最大の問題は、その投射する火力をどう運ぶかである。そのために社長と秘書は各方面へ連絡を入れつつ、宇宙港への輸送ダイヤを一部組み直すよう計画を立てていた。
「戦術機クラスの兵器ならマスドライバーで十分打ち上げられる。燃料に使うG元素を節約しつつ、最終的に武装を施すのは宇宙港で行うべきだな」
「G元素利用兵器に関する条約の締結を望む動きが国連で活発化しています、やるなら今のタイミングしかありませんしね」
「一部の国だけが他国を一方的に滅ぼしかねない兵器を保有してるんだ、規制に立ち上がるのは至極当然の流れだな」
そんな話はさておき、件の大型跳躍ユニットはかなりの大きさを持つ。ML機関以外にも宇宙用の姿勢制御装置、武器弾薬、センサー、宇宙港や宇宙船との接続などなど、複数の機能を有するからだ。
「作戦としてはこうだ、まず戦術機の武装を宇宙港で整える。そして月への軌道へ投入し、装備した武装でもってハイヴの地表構造物を破壊する」
「そんな火力どこから」
「荷電粒子砲だな、さっき話してただろ」
「…戦術機に荷電粒子砲を?」
「雑に言えば打ち出す水素原子を加速する電磁石と、その発射に使う莫大な電力、そして発射時の衝撃に耐えうる機体が必要になるな」
だが前者の二つはある程度解決済みだ。電磁石はG元素を代替出来る物質があり、莫大な電力はML機関から供給出来る。肝心の機体がまだ設計段階だということを除けば、完璧な計画だ。
「…で、影も形もない第四世代機はどうするおつもりですか?」
「作る、取り敢えずモックアップからだな。本当は他国の要求を盛り込んで作りたかったが、こうなりゃ完成品を教材として売りつける形にするさ」
「ユーコン基地では各種試験が進行中ですが」
「それは装備品の類が殆どだ、機体設計は飛燕からのフィードバックで何とかなる範囲さ」
「何日かかります?」
「設計図を出力するだけなら数日。部品はある程度量産型飛燕から流用するとして、試作機が完成するのに一月ってとこか」
秋津島開発が強い理由は今も生きている、会社自体が社長の出力した設計図を形にするための構造を有しているのだ。
「プリンタ様々ですね、ここまでトップダウン形式の機体開発なんて我が社だけでは?」
「俺が居る間だけだろうさ、だから段階的に業務内容を絞りたかったってのに…」
「それはせめて太陽系からBETAを叩き出してからにして貰わねば」
「いつになるんだよそれは」
ひとまず設計図の形状通りに出力したモックアップを使い、新型ML機関を搭載した飛燕で出来る限りの試験を行うとしよう。
ーーー
ーー
ー
「やっぱり駄目?」
「重力下では機動性に難があるようですね。幾らML機関があるとはいえ、推進力は自前ですし」
「やっぱり跳躍ユニット二発じゃ足りんよなぁ…無重力下でも自重が嵩む分、相当な推力がないと鈍重になる」
ユウヤ達に乗ってもらった結果、手加減なしの運用試験が行われた。効率化されたML機関が備蓄されていたG元素燃料を使い果たすほどだったが、得られたデータは値千金と言えた。
「飛燕よりも容積に余裕がある、多少の改修については問題ない」
「ですが推力不足に関してはどうしようもありませんよ。宇宙ではジェットエンジンも使えませんし、ロケットエンジンは燃費が悪過ぎます」
「宇宙用の跳躍ユニットもあるにはあるが、あっちは需要が少ないから地上用ほどノウハウも無いしな…作れはするけど」
ジェットエンジンはロケットエンジンに比べて効率が良い、それは何故か。ロケットエンジンは搭載している燃料を噴射して飛ぶが、ジェットエンジンは機体周囲の空気と燃料を使って飛べるからだ。細いことは話すと長くなるので割愛するが、まあ大気というのは厄介な反面便利でもある。
「第四世代機もまだ形になってない、この報告書の内容を反映するのにも暫くかかるな」
「どうします?」
「ここに来た元々の目的は飛燕の性能向上だ、まあそっちで何かやるさ」
社長は空いている時間で本来の業務を進める気だったが、机の上に置いていた電話が鳴る。何かと思い手に取ると、受話器からは聞き慣れた声がした。
「…香月専務から、連絡があった」
「悪いニュースみたいですね」
「月面ハイヴの攻略に関してはお咎めなしだが、各種軍需品の大量発注だとさ。ユーラシア大陸のハイヴ掃討作戦は確定だな」
「帝国が派手に動けばソ連もタダでは済ませませんよ。甚大な被害を受けたとはいえ、各国からの支援を受けて急速に復旧を進めています」
「だが最早止まらんだろう。帝国は小競り合いの元であるハイヴを片してG元素も得つつ、前線国から後方国へ戻る算段を固めてるかもしれん」
BETA支配地域の汚染浄化と再入植は秋津島グループが支援する事業の一つだ、何か怪しい動きがあれば過去に恩を売った人々が報告してくれる。だが今やその報告は世界中から届いており、国連軍が所属不明機と遭遇した地域に至っては行方不明者の増加を知らせるものまであった。これから何かが起きるのは確実だ、社長の策が効果を発揮する前に世界は戦争に突入するかもしれない。
「急ごう、間に合わなかったとしてもやる意義はある」
「戦争なんて始まればこの基地なんて何が起きるか分かりませんしね、テロリストでも降ってきそうですよ」
「…ま、まあ、あり得るかもな、うん」
「社長?」
「なんでもなァい!」
今も昔も変わらない、やれることをやるだけだ。