目の方は95%治ったとのことで、執筆に支障はありません。
第二十一話 続く攻勢とATSF計画の余波
オスカー部隊が警備中に戦術機が暴走し、乗っていたであろう衛士は爆薬で自殺するという事件が起きてから少し経った頃のこと。
半導体製造などの段取りに秋津島開発と日本帝国政府が苦悩し、協力的なように見せかけて技術を出来る限り提供して貰おうとする欧州連合との交渉が難航している時だった。
「もう全部技術を公開してもいい気がして来た、どうせすぐには作れねえんだし…」
「そんなこと言ってないで働いて下さいよ社長、話は全部政府に通せって予め言わなかった人が悪いんですから!」
「…はい」
交渉に関しては欧州連合の各国が上手だ、この戦乱の中でも自国が最も利益を得られるように動いてくる。
「軌道爆撃が間に合わなかったらハイヴ建設されてるレベルで敗走してた癖に、隼の製造工場だって建てるの大変なんだぞ?」
過密な打ち上げスケジュールはリニアカタパルトの寿命を大きく縮めてしまう恐れがあったが、欧州が落ちるよりかはマシとのことで無理矢理な運用が続けられていた。
拡大が続く打ち上げ施設群だが、新たなカタパルトが完成次第古い物は解体ないし大規模な整備が行われる予定だ。
「最新鋭の戦術機が作れる工場を他国に作れると言って隙を見せたのは僕らですから、もう文句言うのはやめましょうって」
隼に関する資料を机から退けると、見忘れていた書類が出て来た。
日付を見ると今日の朝からここにあったようだ、帝国政府から来たことが判子から分かる。
「なんだこれ、耀光計画?」
「前から話があった国内三社での新型戦術機開発計画ですよ、米国が色々やったので方針を転換したそうです」
曙計画と瑞鶴の製造で力を付けた国内三社は秋津島開発に頼らず戦術機を開発出来るようになると息巻いていたが、帝国軍からの高過ぎる要求に血反吐を吐く勢いらしい。書類には色々と書いてあったが、まあ手伝いに来いとのことだ。
「隼を超える性能かつ米国の次期主力戦術機と同等以上が最低限、か」
「隼は日本が一から開発した機体ではないですからね、自らで作ろうとしたのは当たり前かと」
急な召集だが、心当たりが無いかと言われれば嘘になる。
秋津島開発が戦術機研究の名目で行っていたある計画があった、それが今までにない急な呼び出しの理由かもしれない。
「なあ、アレのことって帝国にバレてる?」
「アレ?」
「試製四号、ほら地下格納庫で組み立て中の」
秋津島開発が独自に進めていた新兵器運用を前提とした次世代の戦術機、その試作機のことだ。もっとも、その新兵器の開発が遅れているために今はタダの戦術機なのだが。
「バレるも何も、秘密にしてるわけじゃないんですから上は知ってますよ」
「…そうだったか?」
「秋津島も色々とやってるんだなとは言われてましたけど、試作機が組み上がりそうって話をしたら血相変えてました」
「わざわざ言ったのお前じゃねぇか、まあよく考えると戦術機開発を国に秘密で進めるわけにはいかんけども…」
試製四号は帝国軍が重視する近接格闘戦よりも、射撃兵装を用いた砲撃戦に向いている戦術機だ。表向きは次世代機のための技術蓄積としていたが、口を出されて必要以上に格闘戦能力を付与されるのは避けたかった。
「米国も面倒なことをしてくれたよ、戦後を見据えた戦術機開発って…」
「目の前のことを片付けろと言いたそうですね」
「まあ新たな視点から戦術機研究を進めることで、今まで未開拓だった分野を育てたいってのはあると思うぞ」
米国が推し進める次世代機開発にはATSF計画というものが関わっている、その内容というのはざっくり言うと以下の通りとなる。
BETAとの戦争は第二世代戦術機の耐用年数中に終結するとの予測から、戦後における各国の動乱を想定した対人類用の戦術機を作ろう!
という絵に描いた餅を頭に詰まらせた奴が考えたものだ。
「…だがまあ、間違いじゃあないとも思うんだがな」
第二世代機を大量に揃え、各国団結してBETAへの攻勢を行えば勝てるのは確かだ。問題はそんなことは出来ないということだが。
実際に戦術機を用いた小競り合いは起きるため、ある意味先見の明があったと言うべきか。
「それになぁ、カッコいいからなアイツらは」
ステルス機特有の鋭角的で未来的なデザイン、圧倒的な対戦術機戦闘能力、格闘戦でさえ同じ第三世代機である不知火と同程度かそれ以上に戦えるポテンシャル…
名実共に最強の戦術機は確かに完成する、コンペティションに落ちた方を含めれば2機もだ。
「何がです?」
「なんでもない、上に四号を紹介しに行くぞー」
ー
秋津島開発の地下格納庫に鎮座していたのは、フレーム剥き出しの戦術機だった。隼とは違いかなり細身で、見るからに機動性が強化されている。
「試製四号は秋津島開発の戦術機開発部門にて作られた試作機の一つですが、元々は新型武装実験用の実験機でした」
ヨーロッパで戦闘を続けるオスカー中隊に武装を送っている部門の一つであり、対BETA戦を少しでも有利に進められるような新兵器開発にも余念がない。
様々な武装が考案される中、現在宇宙開発時に培った技術を応用した結果実用化が近い超電磁砲が有力候補として槍玉に上がっていた。
「超電磁砲、開発が進んでいると噂は聞いていたが…」
「搭載する実験機を作るところまで行っていたとはな」
格納庫内を歩くのは作業服の上から秋津島開発のロゴが入ったジャケットを着た社員の一人と、軍部の一団だ。
「しかし実験機でありながら隼を一部上回る性能を発揮、それ以来は本格的に設計が詰められていきました」
配られた資料には搭載しての実験が行われる予定の新兵器について、機体自体の性能についてなどが記載されていた。流石は上層部の人間というべきか、専門用語の多いそれをスラスラと読んでいる。
「そして試作機として生まれ変わり、将来的には超電磁砲搭載型戦術機の概念実証機として更に進化する予定です」
一通りの説明が終わった後、戦術機に詳しいと思われる軍人達は一斉に話し始めた。隼から世代を飛ばしたかのようなシルエットには思うところがあったようだ。
「見るからに細いな、背も高いし足も長い」
「F-4系には全く見えん、F-14に近いか」
「あくまで実験機だろう、装甲や機材を廃せばああもなるのでは?」
一部隼を上回る性能を発揮したというのは事実だ。
搭載予定の新兵器、超電磁砲が発する電磁波が機体へ及ぼす影響を減らすため機体各部への通信を光ケーブルにて行っているため反応速度は格段に速い。
その上に技術の向上で可能となった更なる軽量化は確かで、跳躍ユニットは隼の物を流用しているが明らかに試製四号の方が推力を自由自在に扱えるだろう。やはりこと戦術機において、軽さは正義だ。
「(滅茶苦茶いい機体出来たし、このまま完成させるか!…なんて社長が言ってたなと思ったらこんな大事になるなんて思わなかったですよ)」
「すまない、質問があるんだが」
「あ、はい、なんでしょう?」
「この機体、完成すれば実戦に耐えるかね?」
こうして(名目上は)技術蓄積のために作られていた試製四号は、国内三社と秋津島開発が協同して進めることとなる耀光計画の予備プランとして水面下で進められることとなるのだった。
秋津島開発ならまあ、なんとか完成させるだろうという国からの信頼があったからでもあるが。
シュバルツェスマーケン編やるか