宇宙開発企業なんですけど!?   作:明田川

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第二十二話 欧州の隼

欧州連合軍に日本で生産した欧州仕様機が先行納入された、工場完成までは日本からの輸出分で繋ぐことになっているためだ。白い塗装が施され、各国のエンブレムが肩にあしらわれることになる。

生産能力を強化した秋津島開発の手にかかれば大隊規模の隼を即座納入することなど容易く、今頃衛士達が機種転換を行っているだろう。

 

「正式採用されましたからね、結局名前はオスカーになりましたけど」

 

オスカーというのは第二次大戦にて帝国陸軍が使用したレシプロ機、隼の連合軍側コードネームだ。

 

「中隊の活躍あっての話だなぁ」

 

続く戦闘で中隊も少なからず被害は出ているが、人員補充もあって充足率は100%だ。戦えないような怪我を負った衛士は本国に帰還し、戦訓を元に衛士達の指導を行っているそうだ。

特にデータリンクの必要性とAI補助の活用方法を広めるのは急務だと考えているようで、様々な働きかけを行なってくれている。

 

「オスカー中隊の損耗率は欧州戦線において最も低い部類に入ります、対BETA戦を潜り抜けてこれとは驚異的な数値ですよ」

 

BETAの打撃で即死しなくなったお陰か、原作よりも若干の生存率向上は認められていた。更に生存率を高めようとすると、光線級の被害は減っていないのでそこがネックになるが。

 

「防衛線の穴を塞ぐっていう予備戦力として戦ってる訳だからな、他の部隊よりBETAと戦っていないわけじゃあない」

 

数々の試作兵器を戦場にて運用し、防衛線を立て直したりと大きな活躍も見せている。その結果本来A-10モドキ用に作られていた支援火器だが、通常の機体でも問題なく運用可能ということでモドキ自体の採用は見送られた。

支援火器も大陸での運用に適するが、国内防衛においては既存兵器の利用で問題ないと評価を受けたため帝国軍では配備は行われていない。しかしハイヴ内では戦術機以外の戦力を持ち込めないことから、突入部隊用に使えないかと別途試験は続けられていた。

 

「オスカー中隊は隼に関する教導を行なった後に帰国、その後の派兵は正式に帝国軍にて行われる予定です」

 

「隼の評価を確固たるものにしてくれたオスカー中隊には感謝しかないな、それに彼らの機体に蓄積されたデータはどれも興味深かった」

 

定期的に送られてくる機体からのデータを見るに、動作の最適化はかなり進められていた。特に関節への負荷軽減は目に見えて分かる結果を叩き出しており、その機動性から機体への負荷が大きい隼の弱点を補ってくれている。

 

「これらの動作パターンを元に、幾つかの動作をコマンド入力だけで連続して行えるようにしたい」

 

「毎回思考するのは疲れますしね」

 

欧州連合仕様の隼にも長刀は装備されており、要望に応えて設計した直線的な両刃剣が現地の企業によって製造される予定だ。

隼の類稀な近接格闘能力(衛士がその手の達人だったのが大きい)は、彼らにとって眩いものに見えたようだ。

 

「近接格闘はリスクが高いうえに、貴重な突撃砲の火力を削ることになるのがネックなんだがな」

 

「BETAの強みは数ですからねえ…」

 

しかし手段があるかないかでは、あった方が良いと考えるのは普通だろう。

将来的にハイヴ攻略を行うのであれば、弾薬を消費しない近接格闘戦は長期戦かつ連戦になる状況下では頼りになる。

 

「AIの補助をオスカー中隊機からのデータで最適化するのは勿論、そろそろ戦術機の無人化に関しても考えていかないとな」

 

「やると言ったのは社長ですから、責任を持って最後までやって下さいよ」

 

 

ヨーロッパ方面では遂にBETAがハイヴ建設を開始したという報告が入り、予断を許さない状況が続いていた。

軌道爆撃による建設地点への攻撃を行い、建設の遅滞を狙っているが効果は薄いように思える。

 

「マスドライバーは全力で稼働させろ、軌道爆撃を絶やすなよ」

 

国連軍はヨーロッパ方面の戦況悪化を食い止めるべく、パレオロゴスの傷が癒えぬままだが次なるハイヴ攻略を打ち出した。ハイヴが成長してしまえば打つ手は無くなる、そういうことだろう。

 

「ハイヴ攻略作戦には帝国軍に所属を改めたオスカー中隊も参加するとのことです」

 

「…彼らを失うのは帝国にとって大きな痛手になるぞ?」

 

「隼はハイヴ内戦闘においても充分に実力を発揮出来ることを証明すると」

 

彼らは欧州戦線で戦う内に、現地の兵士達と多くの交流を持った。その戦友が死地に行くのなら、共に行かずして何が衛士かと言ってのけたらしい。

隼を欧州連合以外にも売り込みたい帝国上層部は予定を蹴ってこれを承認、隼のハイヴ戦闘適性を見るための試金石とするらしい。

 

「人類はいつかハイヴを攻略しなければなりません、遅かれ早かれですよ」

 

「…辛いな」

 

軌道艦隊は出来る限りの支援を行うと約束し、欧州連合軍も眼前に迫った危機に対して二度目は成功させると言わんばかりに軍備を固めていた。

減ってしまい補充が間に合わない補助戦力を補うため、製作の準備が行われていた中隊支援砲は急遽採用され急ピッチで量産体制へと移行した。

 

中隊支援火器を持たせた戦術機を運用するという方針を打ち出した欧州連合だったが、それに関して既にある程度の研究を行っていた日本帝国は技術交流を提案した。

その結果F-4に最低限の改修で中隊支援砲の予備弾倉を複数取り付けた急造品が出来上がった、こうして前線での火力支援を担当する機体はどうにか完成したのである。

 

「弾薬なら幾らでも出してやる、拡張した港を使って輸送船をひたすら往復させるんだ」

 

「隼の新規生産分を欧州連合に流せないか上と協議しますか?」

 

「だな、今彼らが欲しているのはハイヴ内を生き残れる可能性が少しでも大きい高性能機だ」

 

欧州連合軍を主体にした次期ハイヴ攻略作戦、それは着実かつ早急に準備が進められつつあった。ヨーロッパはまだ落とされる兆しはない、戦術機と衛士も未熟ながら精強だ。

時は1983年になったばかり、人類の状況は原作と比べると大いに好転して来ている。

 




話が進まなァい!

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