対BETA戦において欠かせない戦力となった軌道艦隊だが、その大多数は大型宇宙港「あかつき」を母港としていた。
回転式の重力区画、従来と比べて広々とした2m四方の個室、使い道のなかった給料が活かせる各種売店、どうやって維持しているのか見当もつかない娯楽施設など内部の設備は多岐にわたる。
「拡張が続けられる軌道艦隊ですが、このたび新たに軌道巡洋艦が就航したそうですね」
「はい、既存の駆逐艦と比べて倍の積載量を誇る新鋭艦であります」
軌道艦隊と関わりの深い日本帝国の広報機関や、国連の広報官が簡易式の宇宙服に身を包み取材を行っている。大型ドックに入港したばかりの新鋭艦を覗き窓からカメラに映しつつ、事前に決められた質問と回答をただ撮影している風景も見慣れたものだろう。
「秋津島開発は近年更なる大型艦建造能力を獲得すべく、研究を続けていると聞きますが」
「はい、より効果的な対地攻撃手段の確立のため我々と秋津島開発で研究を進めております」
「具体的な展望など、お聞かせ願えますか?」
「巡洋艦よりも更に大型の宇宙戦艦を建造予定であります、将来的な月奪還に向けて多角的な戦力充実を…」
取り出されたのは一枚のボードであり、そこには従来の駆逐艦と配備が始まったばかりの巡洋艦、さらに大型の戦艦の積載量と大きさを示す絵が描かれていた。
秋津島開発が本業として進めたい移民用の宇宙船を作るため、練習台として作っているという側面も大きい。宇宙開発の莫大なコストは据え置きだったのだが、それは打ち上げ施設への桁を間違えたかのような投資によってかなり抑えることに成功している。
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「こちらはですね、あかつき内に作られた飲食店になります!」
「いらっしゃいませー!」
民間人に受けの良い箇所もしっかり抑え、分かりやすい箇所を丁寧に映像へと落とし込んでいる。熟練のリポーターを宇宙に上げ、カメラマンも無重力下での撮影技術を磨いたからこそ出来る芸当だ。
「見て下さい、こちらのメニュー表には日本語と英語が書かれています」
うどん、そば、ラーメンなど日本人が見慣れたメニューが並んでいる。
秋津島開発を擁する日本帝国が軌道艦隊における実権を握っているという状態のため、ステーション内の日本人率は高い。
油を大量に使う揚げ物も専用のフライヤーにより提供されるという、まさにコスト度外視のいたれりつくせりっぷりである。
「テイクアウトの際は専用の宇宙食パックに詰められて販売され、無重力下においても溢すことなく食べることが出来るとのことです」
店主は一つのミスがステーション全体の危機につながるという状態でも完璧な調理をこなすプロフェッショナルだ、やろうと思えば宇宙で武家をもてなせる料理を作ってみせる創意工夫の鬼でもある。
「最近は日本人以外の方も沢山来てくれるようになりましたね、皆さん箸を使うのもお上手ですよ」
尚秋津島開発傘下の企業が製造する宇宙食や保存食は地上においても一定の人気があり、それなりの売り上げを誇っている。社長の趣味で滅茶苦茶な技術革新が保存食に対して行われたため、一流料理人の出来立て料理を食べているかのような美味しさが前線の兵士達に大好評だった。
「お待ちかねの視聴者プレゼントコーナーです、今回はなんと…」
「あかつきの美食全部入り、秋津島食品の宇宙食詰め合わせセットです!」
日本帝国と国連広報にそれぞれ100セットばら撒かれた宇宙食は、軍人市民問わず新たなリピーターを産む結果となった。国連軍は前線に優先して秋津島食品の商品を配給する手筈をいつの間にか整えており、大量の発注が子会社を襲った。
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「秋津島開発による宇宙開発需要の独占について意見を頂けませんか?」
「このあかつきや軌道艦隊の建造などは全て公平な選考の結果選ばれています、事実としてここまで急速な拡大を行えているのは秋津島開発の実力でしょう」
確かにコンペティションはあったが、まず要求された何百隻もの宇宙船を収容する今までにない超巨大建造物を即座に作れるのは秋津島開発しか居なかった。つまりは出来レースである。
「他の企業では対BETA戦における軌道艦隊の整備を満足に行えなかったと言うわけですか」
「必ずしもそうではなかったかもしれませんが、秋津島開発が選考中に最も計画通りに艦隊拡張を行えると判断されたのは確かです。無論他の企業もこの宇宙港建造に携わっていないわけではなく、例えばこの覗き窓は他の企業が整備したものです」
色々と各方面への対処を行うのも大変らしい、予め批判的な意見に対する牽制もインタビューに含めていた。
次も閑話です