追記
ルナチタニウム周りの解説を入れ忘れてました、すみません。
追々記
加筆しました
ラグランジュポイントの秋津島開発宇宙港、その応接室にて米国からの使者と社長が対面していた。議題は無論BETAとMMUについてだ。
「NCAF-X計画は月面の状況を鑑みて、1G環境下で動作する対BETA用MMUの開発に舵を切りました」
「…そうですか、やはりそうなると思っていましたが」
「既に米国政府は他の対BETA兵器の開発計画を中断させ、それにより生まれた余剰資金を全てこの計画に集中させています」
手渡された今期の資金援助額は桁が一つ違っていた、その上に今までは米国企業で無いのに特例で参加させて貰っていたという立場だったため受けられなかった幾つかの情報提供が確約されている。
「ダイダロス計画で採用された大型MMUと月面で希望の星となった彗星を作り出した貴社の技術力、本邦も高く評価しているようです」
「…」
「頂いた設計図と実機からこちらでも生産を始めることが出来ましたし、月面への供給機体数は大きく増やすことが出来るでしょう」
月面は遅滞戦闘を続け撤退を視野に入れつつ時間稼ぎ、その間に地上で迎え撃てる戦力を整える。それが米国の戦略なのだろう、確かに幾ら月面で戦おうともジリ貧なのは確かだ。
「来月には月面仕様機を地上仕様に変更するための試作機がエリア51に入ります、急拵えにも程がありますが…」
「分かりました、こちらも出来る限り早く用意します」
「お願いしますね」
貰った資料の中で秘匿性が高いものは金庫に入れ、後の書類を持って開発班の元に行く。
やはり月面との連携を取るために滞在していたラグランジュポイントからは離れざるを得ないだろう、地上の彗星製造ラインは完成した上に現地での改修は粗方終わったので大きな問題は無い筈だ。
「で、話し合いはどうでしたか」
「我々は地上に降りなければならないようだ、彗星を1G下の陸戦兵器として生まれ変わらせる必要がある」
「…マジですか、では月面は?」
「遅滞戦闘に留める、そのために米国企業製の彗星が投入されるらしい」
他国に量産を任せることが出来たのは大きい、自社の生産ラインは地上仕様機のために改造しても良くなるのだ。
「取り敢えず私は次世代機の設計図を今から仕上げる、そっちは社員を地上に下ろす準備を頼む」
「了解です、時間になればお呼びしますね」
この世界で秋津島開発が躍進を遂げられたのは自称神から与えられた技能のお陰だ、作ろうと思ったものを実際に作れる範囲内で設計図に起こすことが出来る。強度計算や重心など様々な箇所も全て自動、だが完璧な状態では無いので専門のチームが問題のある箇所を改修する必要がある。
「集中されるようですし、暫く部屋への立ち入りはやめておくよう言っておきましょうか?」
本来宇宙で様々な部品を製造するために設計した金属3Dプリンターが予想以上の性能を持っていたため、書いたばかりの設計図から試作機を作るのに1週間とかからない。
圧倒的な製品実用化の速度、これが一番の武器だ。
「ああ、頼んだぞ」
BETAとの激戦で主力を担うことになる未来の戦術機をイメージし、PCの前に座った。原作通りの道を辿らせはしない、一人でも多くの人が母国を失わなくても良いようにするのだ。
ー
地球、米国エリア51の試験場併設格納庫にて。
秋津島開発に貸し出された区画には二機のMMUが配置され、試験場での稼働に向けての最終チェックが行われている。
「アレが彗星か?」
「いや、2機もあるぞ…」
計画の関係者がざわつき、その目線の先にはやけに細身な機体が立っていた。より人型に近く、腰部には彗星よりも大型化された推進器が左右に二つ搭載されている。
しかし社員達は周囲の雑音など聞こえていないという態度であり、計画の上層部に提供しなければならない各種技術の資料に目を通していた。
秋津島開発が宇宙事業で培ったものを全て公開するほどの量と範囲を持つ紙の束は、大きく機密と判子が押されている。
「結局新素材の命名は揉めましたね、なんなんですかルナチタニウムって」
「月面基地の協力あっての代物だったからな、あやかったのさ」
本来のルナチタニウムからは名前を借りただけだ、この新素材は普通に機材さえあれば地球でも製造できる。まだ自社の研究施設が宇宙に存在しなかったころ、月面基地に受けた恩を忘れないようにとこの名前にした。
「成る程、月で採れるというわけでもないので疑問だったんですよ」
「まあ趣味だがな」
「でしょうね、MMUに変な名前付けようとしたこともありましたし」
今まで新素材と社内で呼ばれていたルナチタニウムは軽量かつ強靭であり、大型デブリの衝突にも耐えた信頼ある物質だ。BETAの打撃を耐えられる…場合もあるこの装甲は、主にコックピットや被弾の多い肩部に使用される。
「何はともあれ彗星が多く生還できたのはコイツのお陰さ、開発中の樹脂素材とも相性は悪くなさそうだ」
「スターライト樹脂ですか、鉄かそれ以上の強度を出すという」
「BETAは簡単に噛み千切るけどな、アイツらどうなってんだ」
彗星は装甲全てにルナチタニウム系の素材を使用しているが、二型ではより軽量な樹脂素材が多用され軽量化を果たしている。といっても試験機であるため、装甲の代わりに同重量の鉄板とフレームが配置されているのだが。
「それにしても彗星二型の方、なんとか次の試験に間に合いましたね」
「NCAF-X計画のメインメンバーになったからな、結果を出さないわけにはいかん」
彗星二型は未来の衛士が見れば第二世代戦術機のようだと言うに違いない。
しかし問題は人命軽視だと思われないかどうかだ、未来で機動性を重視せざるを得なくなった大きな理由の一つ、人類の制空権を奪った光線級BETAは未だこの世界には存在しないのだから。
「ちょっと軽くしすぎましたかね」
「どうだかな、機動性を重視するとこうなるんだが」
光線級は地球侵攻で新たに生み出されることになるBETAであり、命中率が100%の上、超高威力なレーザーを12秒に一回撃ってくるという化け物対空砲である。これにより人類はすべての航空戦力をBETAに対して使用出来なくなる。未来で戦術機が完全に主力兵器となった要因の一つだ。
「特に脚部は燃料タンクと駆動系が大きいからな、装甲に割ける容積があまり多くなかった」
「まあBETAの打撃は強力無比ですからねぇ…装甲が分厚くても当たりどころによりますよ」
NCAF-X計画の概念実証機であるYSF4H-1が試験地へと運ばれる中、未だ上手くやれているかを実感出来ずにいた。
無理矢理意見を通して二型のコックピットにはレーザー対策として耐熱性に優れる大気圏投入殻と同じ素材を採用したり、耐熱コーティングを施してはあるが頭の中で計算すると耐えられて3.5秒だ。咄嗟に回避を行うには心許ない時間である。
「まだまだ未熟だな…」
大気圏突入時とはまた違う、レーザーによって瞬間的に与えられる膨大な熱量に耐えうる素材を作るのには基礎が足りていない、頭の中で作り方を割り出せても作る技術がこの世界にまだ存在しないのだ。実はルナチタニウムも宇宙で細心の注意を図りつつ製造しなければ本来の性能を出せない欠陥素材であり、地上で作れば性能は6割か7割にまで落ちるだろう。
「社長の目標はどのラインなんですか、何をそこまで悩んでいるのか私には分かりかねますよ」
「いや、もっと上を目指せたかもしれないと思っただけだ」
BETAが進行してくる前に彗星の次世代機に相当する機体を量産体制に移行させる、これが今現在の目標だが達成にはあと5年はかかる。しかし今は1970年、原作で地球侵攻が始まったのは1973年と考えると時間が足りない。
「…もっと早く記憶が取り戻せていれば」
月面基地が幾ら踏ん張ろうとも地球侵攻を遅らせることは難しいだろう、それはBETAの行動パターンを思い出せば分かることだった。
奴らはハイヴと呼ばれる巣を建造し、その巣が一定の規模になると周囲の惑星にBETAを送り込んだり採掘した資源を何処かに打ち出したりする。つまり月面にあるBETAの巣を破壊しない限り地球侵攻を遅らせることは難しいのだ、勿論月での奮闘の結果作業に従事するBETAが減って結果的に遅れが生じる可能性もあるかもしれないが…
「社長、我が社の試験は次ですよ」
「分かった、出発の準備を!」
兎に角、今は米国の流れに乗って対BETA兵器を完成させなければならない。
これから先を見据えるためにも、今は基礎研究と実機でのトライアンドエラーが必要なのだ。
完全無欠の最強兵器がポンと生み出せれば苦労は無かったのだが、そうはいかないようだ。
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