あとアーマードコアVの二次創作も投稿しときました、ひとまず第一章が五話完結で毎日投稿です。
散布された地雷にBETA群が突撃、被害を出しつつも進撃を続けている。敵の総数は誘引時に確認された二個師団規模、つまり2万から4万の範囲も拡大しており、連合軍陣地へと向きを変えたBETAは5万を超えると衛星からの情報が司令部へと共有された。
「試製四号の発射可能弾数は?」
「本来40発ですが、補給機に積んできた予備弾倉と砲身があれば120発は撃てます」
「誘引が効きすぎた、頼りにさせてもらうぞ」
BETA群前衛へ大きな被害を出したものの、その数により地雷原は消滅した。砲撃も迎撃されつつあるが、重金属雲の展開は予定通り行えている。
「そろそろです、地平線から顔を出しますよ」
「背後への貫通を狙って多少引きつけます、援護は頼みました」
超電磁砲専用の射撃用UIが表示され、現在の状況から割り出した弾道予測が着弾予想地点として照準に重ねられる。
『発電装置の稼働開始、蓄電完了まで8秒』
機体に搭載されたAIが機械音声にて現状を報告する。試製四号には初めて言語インターフェースが実装された補助AIが搭載されているのだ。
『BETA認識、目標突撃級』
状況に応じて決められた言葉を発しているだけに過ぎないが、それでも無いよりは余程いい。周囲の機体は射程外であるため手が出せず、視界には砲撃がちらほらと映り込んでいるが狙撃には何も支障はない。
『発射可能です』
「…当たるな、これは」
操縦桿のトリガーを引き、超電磁砲の発射信号を送る。
一気に加速された弾頭は目にも止まらない速さで飛翔し、一瞬で標的へと命中した。
移動予測地点を先読みして弾道を調整する必要はほとんどなく、直進性も相まって突撃級の中央へと吸い込まれるように着弾したのだ。結果射撃場で行われた試験と同じように外殻を貫通し、戦車ですら撃破が難しい突撃級をあっさりと撃破してしまった。
『命中、突撃級一体撃破確実』
「よし、次」
BETAがこちらまで到達するにはまだ時間がある、一発目で発射装置にかかった負荷は許容範囲内だ。
後衛の中でも一番の狙撃手、そう言われた腕を活かすなら今しかない。
ー
第一射を当ててみせた試製四号を尻目に、中隊を預かる身として少し思うところがあった。
「このまま撃ちます」
「…データリンクで突撃級の撃破報告が全軍に回ってるぞ。コイツはやらかしたのか、それとも意図的な物なのか判断に困るな」
BETAが射程内にはいるのを待ち構えていた他の機体達には衝撃的だったようで、通信がざわついている。また秋津島の部隊が何かやったのか、ミサイルか、無人特攻兵器かと憶測が飛び交っているようだ。
「CP、コレは上の意向か?」
『オスカー1、こちらとしても想定外の事態だ』
「…どうだか」
超電磁砲はBETA戦後に発生が予想される対人戦において大いに役立ってしまう兵器だ。戦術機は他の兵器未満の対人戦闘能力を持つとされていた今までの常識をひっくり返し、既存の陸上兵器では考えられない機動性と防御不可能な大火力を運用出来る次世代兵器となってしまう。
「コレが量産されてBETAを鶴瓶撃ちに出来るのは良いが、戦後を考えると地獄だぞ」
忌々しい突撃級が次々と貫かれ、隊列から落伍していく様子は見ていて気分が良いが後のことを考えると怖くなる。超電磁砲に関する技術は現状秋津島開発が独占しているとはいえ、あの企業が対BETA兵器の範疇の外にあるものまで作ってしまったのは戦乱の狂気が産んだ思考の歪みが原因なのだろうか。
「…俺はな、秋津島開発のMMUパイロットになりたかったんだ」
「そうだったんですか、だから秋津島の制服を着た時あんなに喜んでたんですね」
戦後の様々な政治的不安が国民を襲う中、当時20代という若さで次々と大成功を収めた秋津島開発の社長は日本国民の希望の星だった。
世界が国家プロジェクトとして進める宇宙開発を一企業が上回り、将来的には低額な宇宙旅行や、長期居住可能な宇宙建造物など夢のある研究を進めるなどしてくれていた。
「あの企業はBETAさえ来なければ、人に夢を与える仕事だけをやれたのにな」
BETAが来るや否や彗星、彗星二型、隼と戦術機ばかりを作り始めた。
秋津島開発への就職のために磨いていたMMUの操縦技術を買われ、衛士となったものの少しばかり思うところはある。
「感傷に浸ると死にますよ、中隊長殿」
「すまん、悪い癖だな」
断続的な超電磁砲の発射音と砲撃の着弾音でも掻き消せないほどBETAの立てる足音は大きくなっている、戦術機の出番ももうそろそろだ。
「秋津島警備部隊を護衛しつつ敵部隊を攻撃する、各機兵装の最終確認を行っておけ」
長らく中隊長を務めた経験は伊達ではない、どんな時であろうと部隊員を引っ張っていける素養は随一だと自負している。自負していないとやっていられない、というのもあるが。
「最悪あの物干し竿を抱えて飛ばにゃあならん、抱える時はぶつけるなよ!」
超電磁砲の威力はこの目に焼き付けた、戦後を憂うのも大概にして今は宇宙生物を地球から叩き出せる可能性を秘めた新人を地獄のような初陣から守り抜くことを考えなければ。