宇宙開発企業なんですけど!?   作:明田川

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これで良いのか悩みましたが、このまま悩み続けると失踪しそうなので割り切って投稿します。


第二十七話 橋頭堡

超電磁砲が連続発射限界の40発目を撃ち終わり、補給機に乗せていた予備の砲身への換装作業に入った。BETAもそろそろ射程内であり、中隊支援火器を持つ後衛機は既に砲撃を始めている。

 

「突撃級が少なくて、どうにもやりやすいですねえ!」

 

「全くだ!」

 

正面の突撃級を大きく減らしたことで砲撃が通りやすくなり、密度の下がった突撃級群の合間に57mm砲の榴弾を撃ち込むことで次々と突撃級を行動不能にしていた。

 

「突撃級はなんとか凌げそうか」

 

「光線級が我々を狙えていないのが大きいんでしょうが、今度は戦車級と要撃級がわんさか来ますからねぇ」

 

欧州連合もデータリンクで送られてくる様子を見る限り、問題なくBETAを減らせているようだ。緩やかな逆V字に布陣したこの陣形において、BETAは進めば自ずと側面を攻撃される形になる。

 

「本来防衛に使う陣形なんだがな、鶴翼陣形みたく包囲殲滅しつつ移動しながら柔軟に火力を運用するとは恐れ入った」

 

「戦車じゃ戦術機の展開速度に追いつけませんが、中隊支援機なら可能ですからね」

 

今回の攻勢においては敵陣に最も接近する両翼の端は全て戦術機で構成され、より能動的に陣形を変えつつ火力を指向することが出来るとされている。

実験的な陣形ではあるが、危険になった際の離脱も早く被害は抑えられているように見える。

 

『こちらCP、後続のBETA群が接近中だ』

 

「了解、中々減らん訳だな」

 

後続に押し出される形で第一波のBETAがどんどんと前に出ている、心なしか光線の発射位置も近くなっている気がして来た。

 

「超電磁砲、撃てるか?」

 

「現在最終調整中、あと5…いや3分下さい」

 

光線級と同じ土俵で戦えるのは試製四号だけ、後衛に位置する厄介な大型BETAを楽に倒そうと思うと超電磁砲の火力は是が非でも使わなければならない。

 

「何事も無ければ、いいんだがな」

 

「何事も起きないようにするのが僕らの仕事でしょう、気張りますよ!」

 

 

要塞級の体節構造を撃つ、なんて面倒なことをせず頭から胴体を撃ち抜く。

そんな芸当が可能なのはこの戦線で超電磁砲だけである。

 

「敵BETA群、ほぼ掃討完了ですね」

 

「なんとかなったか」

 

残すのは後衛のBETAだけ、誘引と撃滅は大いに成功したと言っていいだろう。

欧州連合が持つ弾薬の7割を投入したというこの作戦だが、この攻勢にて3割を消費する予定だと聞いたあたり相当な支援があったことが伺える。

 

「…しかし、本当に上手くいくとは思わなかった」

 

「ですね、防衛線の外から来られたら中々大変だったでしょうけど」

 

少し不気味ではあるが、成功したのであれば喜ばない道理はない。

超電磁砲の試験も終わり、その有用性は直ぐにでも上層部の耳に伝わるだろう。

 

「橋頭堡の確保に成功したので、陣地の構築とハイヴへの攻撃準備を整えるとのことです」

 

「想定よりも早いな、我々も補給を急ごう」

 

大量のクラスター弾がばら撒かれ、すぐさま地雷原が敷設されていく。

早期から機械化歩兵が土木作業に従事し、次々と簡易建造物を組み立てたことで早くも基地としての様相を呈し始めていた。

 

「誘因した敵BETA群は完全に沈黙しました、後は小型だけですね」

 

「だな、機械化歩兵に任せるとしようか」

 

試製四号は超電磁砲を酷使し過ぎたようで、砲身どころか背部の電気系統が丸ごと不調らしい。秋津島の特急便で空から降って来た予備の超電磁砲と交換中らしく、戦線復帰はそう遠くないらしい。

 

「…で、中隊長の嫌な予感は変わりないんですか?」

 

「ああ、正直言って機体からは降りたくない」

 

簡易整備車輌から補給を受け、現在は推進剤をゆっくりと充填中だ。跳躍ユニットに必要な燃料は中々気を使いながら注ぎ込む必要があるとかないとかで、終わるのは遅い。

 

「だそうだ、全機機内待機!」

 

「整備員達には最悪の場合を想定しろと言って下さい、申し訳ありませんが機体を停止しての毎出撃後点検(EPO)は一時延期で!」

 

『了解、AIに自己診断プログラムを走らせておくに留めます』

 

隼の連続稼働時間は100時間を超えても問題ないと言われるほど堅牢な設計だ。整備士が言うには外見に対して限りなく完璧に近い内部設計であり、全て一人が設計図を書いているのではないかとまで絶賛していた。

 

「帝国軍の機械化歩兵はBETA襲来時に…最悪の場合は機密保持手順を実行して下さい!」

 

『了解』

 

補助戦力である歩兵隊は帝国から新たに送られた部隊であり、以前もハンガー警護用に少数の機械化歩兵は存在したが彼らの下に再編された。彼らの任務は最前線に存在する機密情報を必ず持ち帰るか抹消すること、小型種掃討は二の次である。

 

「…さて、何が来ますかね」

 

中隊支援火器を担ぐ中隊機は落ち着かないようで、しきりに銃と弾装をチェックしている。中隊長は数年欧州を転々としながら戦い、そして生き残った猛者だ。その人物が感じる虫の知らせを無視するなど出来なかった、前線に長くいるからこそジンクスというのは重くなるものだ。

 

『こちらCP、振動計が掘削と思わしき振動を捉えた』

 

「方向は?」

 

『…ハイヴ方面からだ、地中の位置は不明だが急速に接近して来ている!』

 

BETAが地中を掘削し、あらぬ方向から現れるというのはありふれたことだ。

しかしBETAがどれくらいの深さを掘削中かどうかは前線に配備され始めた探知機で容易に判明していた筈だ、それが分からないのは今までよりも深い位置を掘削し侵攻しているからだろうか。

 

「こんな長距離をBETAが掘削してくるのかよ!」

 

「これじゃあ爆撃も砲撃も届きませんよ、奴らもしかして学習したんじゃあ…」

 

隼の計器も掘削音を検知したと警告が表示され始める、地表へ這い出ようとして来ているのか高度を上げたようだ。

 

「これってまさか、この場所の真下に」

 

「総員退避だ!この基地から離脱しろォ!」

 

この掘削音は今まで確認されていない音だとAIが照合不能を訴える、つまるところ何を意味しているかと言うと…

 

「我々の知らない地中掘削用のBETAが居るんだ、この戦域に!」

 

確保したばかりの橋頭堡からの退避命令が出されたのは、奇しくもその叫びと同時だった。


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