宇宙開発企業なんですけど!?   作:明田川

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第二十八話 新種襲来

振動が確保したばかりの橋頭堡を目指して侵攻している物であることを掴んだ司令部は即座に撤退を指示した。しかし補給を待っていた戦術機達は満足な推進剤と弾薬は持っておらず、折角軌道上から橋頭堡目掛けて投下された補給物資は放棄するということになってしまうなど迎撃体制は全くもって整えられていなかった。

 

「…優先して補給が受けられていて良かったですよ、どうにか撤退までに間に合いましたから」

 

「整備班と機械化歩兵部隊は車両にて撤退中、現在の速力であれば問題なさそうです」

 

オスカー中隊は補給を終えていたため、殿を行う部隊に急遽選ばれた。補給は素早い戦線復帰を行うために消耗の少ない機体から行うのが通例だが、新兵器を護衛しなければならないという特異性から早期の補給が認められていたためだ。

 

「…掘削は依然として進行中、前線基地へ向かうルートにあると分析されてますが何が出るやら」

 

「とんでもない大きさの化け物が出るでしょうな、そうなれば頼りは支援と超電磁砲だけですよ」

 

この事態を察知し、軌道艦隊は撤退支援のためハイヴ攻略のために編成された爆撃艦隊の一部を割いて投入することを決定している。どんな化け物が来ようと、軌道上から投下されるカーゴの運動エネルギーには勝てるはずがない。

 

「補給用の無人機はどうした?」

 

「放棄された補給コンテナから物資を持ち出して他の部隊に配ってます、配れる量は少ないですが無いよりマシですよ」

 

軌道艦隊の補給部隊も投下のため行動を開始したが、前線基地に一度コンテナを落とした後で二度目の補給が即座に行えるかと言われれば無理だろう。大量のコンテナを宇宙船に乗せ、更に戦場の真上を通る軌道へと艦隊を投入するのには時間がかかる。

 

「秋津島の補給艦隊が削減されたばかりなのが惜しいな、あの補給が有れば…」

 

無人機の投入と同時にコストがかかりすぎる補給艦隊の支援は打ち切られたと軍からは話が来ていた。新型機の開発と従来機の大量生産、更には軍拡も行っているために予算はカツカツだ。

 

「悔やんでも仕方ありませんって、一応補給要請の信号は出してみますけど」

 

そう言って部隊員が信号を発すると、何故か承諾されたと言う通知が機体に届く。どういうことだと皆が思ったが、上を見ると炎を帯びて落下してくるコンテナが見えるではないか。

 

『こちら秋津島補給船団、ご利用ありがとうございます』

 

「か、解体された筈じゃあ…」

 

『嫌な予感がするから飛ばしておけ、権限だの費用だのは気にするなと社長直々のご指示がありましてね』

 

落ちて来たコンテナに入っていた武器弾薬と燃料を無人機に詰め込み、後方の部隊へとばら撒く。そのために国連軍の補給部隊に物資満載の無人機を押し付けると、慣れたものだと補給の手順を組み立て始めた。

 

「このデリバリーマシンはいいな、戦場でもピザの注文と配達が成り立つぞ」

 

投下されたコンテナの中には無人機が混ざっており、補給部隊の指示で各方面に飛んでいく。単純な指示で複雑な動作を熟す彼らは緊急時ということもあってか存外にもすんなりと受け入れられ、物資は着々と行き渡り始めた。

 

「コイツらの購入予算は申請しておくよ、作れるだけ作ってくれとそっちのボスに伝えてくれ」

 

「もう俺らのボスじゃあないんですがね、まあ前線の要望を伝えるという形で承りますが」

 

彼らも既存の補給車両を使って混乱する中でも活動している。

流石は様々な国の軍隊を束ね上げて来た者達だ、この道のプロだと言うことを示すかのような目覚ましい働きぶりを見せてくれる。

 

「無人機、役に立ちましたねぇ」

 

「そうだな、だがそんなことを言っている暇はもう無いらしい」

 

地中の掘削音が一気に大きくなり、地面が波打つ。地震そのものかのような振動を伴って現れたのは、円柱のようなBETAだった。大きさは尋常ではなく、要塞級よりも数倍かそれ以上に見える。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「…おいおいおい、デカ過ぎるだろ!」

 

「砲撃は!?」

 

姿を現した新種に対して砲弾が雨霰と降り注ぐが、全く堪えていない様子だ。地中の奥深くを掘削する個体であるためか、その身体の頑丈さは伊達ではないらしい。

 

「う、動いてますよ」

 

「尾を飛ばすか、光線を撃つか、それともだな」

 

新種は前面を大きく開き、内部に空洞があることを示した。何をするのかと警戒していた衛士達は、その中から現れた大量のBETAを見て血相を変えることになる。

 

「よりにもよって乗せて来たのか、他のBETAを」

 

「あのようなBETAが存在するのであれば、我々は既存の防衛計画を根本から練り直さねばなりませんね…」

 

地中の掘削による防衛線の背後への攻撃、地上から来るBETA群だけを考えた防御策はもうBETAに対して通用しなくなったということだ。

 

「砲撃と軌道爆撃で口から出たBETAを殲滅できれば良いんですが、そうは行きませんかね」

 

「駄目だろうな、光線級が出て来た以上は戦術機で潰さねばならん」

 

ハイヴ攻略を前に新種が立ちはだかるという未曾有の事態、それも乗り越えなければ人類に勝利はない。橋頭堡からの撤退も未だ進行中であり、戦術機部隊もそう大きくは動かせない。軌道爆撃を行おうものなら味方諸共新種を吹っ飛ばすことになる。

 

「他の部隊が補給を終えるまで時間を稼ぐ、他の殿部隊と協同して砲撃をすり抜けたBETAを潰して回るぞ!」

 

「「了解!」」

 

BETAを吐き出すだけというなら問題ない、今まで通りに戦えばいいからだ。新種の登場により中隊は混乱していたが、相手がいつもと同じと言うなら平静を取り戻せたらしい。

 

「超電磁砲、撃てるか?」

 

「要塞級は任せてください、いつでも撃てますよ」

 

超電磁砲の特徴的な駆動音はもう心地よく感じる程だ、中隊の全機がその威力に酔いしれていたと言っていい。幾度となく戦友を失って来た原因である全てのBETAを一瞬にして絶命させる威力を持つのだから。

 




母艦級が来た原因は、軌道爆撃のムダ使い♡
軌道爆撃のような強力な手札を大々的に運用し、BETAの重要目標に攻撃し続けるのはすごく大変だ。どのくらい大変かというと単純な物量戦しか行わないBETAが新たな戦術を生み出してしまうほど…
ボクはそれを「BETAが学習する」と表現している。

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