宇宙開発企業なんですけど!?   作:明田川

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前回の後書きの元ネタはHUNTER×HUNTERのヒソカから、君の敗因は容量のムダ使いでした。


第二十九話 強襲と防衛

中隊長は混乱する最中、中隊全機に対して指示を飛ばし続けていた。

オスカー中隊は吐き出されたBETAを倒すべく陣形を整えたが、動かせる戦力が少ないこの状況では他の部隊との連携を上手く行わなければならないのは明白だ。

 

「超電磁砲は大物に使うぞ、突撃級相手には温存しろ」

 

「了解です」

 

砲兵隊が後方に下がって陣地を構築し終わるのには時間がかかる、現在行われている砲撃は暫くすれば途切れてしまうだろう。重金属雲は十分に展開されていない、中々難しい局面だ。

 

「我々は要塞級と重光線級を狙いたいが、生憎戦力が足りていない」

 

超電磁砲を用いて脅威となるBETAを優先的に撃破することが出来れば、現状の少ない戦力でも防衛線をどうにか保てる可能性は高まる。

 

「敵は長い距離を行軍して来ていないために各種が満遍なく混ざっている状態だ、対処方法を間違えるな」

 

「新兵は新型の護衛だ、前はこっちに任せて後ろを固めておけ」

 

配属されたばかりの新人衛士がここまでの長時間を機内で過ごすのは相当なストレスだろう、訓練でなら問題なくとも戦場の空気というのは途轍もなく重いものだ。

 

「接敵まで時間がありません、他に伝達事項は?」

 

「我々はハイヴ攻略部隊だ、目標を前にして死ぬことは許されないと心得よ!」

 

「「了解!」」

 

中隊支援砲を持った戦術機が一斉に引き金を引く、いつもの戦闘とは違い前面を覆う厄介な突撃級は居ないため砲撃の効果は高い。それでも砲の数が足らないため、こちらに辿り着く前に倒しきることは不可能だろう。

 

「試作機は自衛戦闘が可能か?」

 

「小型の36mm機関砲が一門あります、最低限であれば可能かと」

 

日本に設置された欧州の軍事企業が設計した新型突撃砲の試作品が試製四号には搭載されていた、あくまで自衛用のため120mm砲は搭載されていないが取り回しの良さは随一だ。

 

「中隊で捌ききれる数ではない、すり抜けたBETAは頼むぞ」

 

「了解、やはり相当不味い状況ですか」

 

前衛機は乱戦になることを見越して早期に弾薬を使い切り、長刀に持ち変えようとしているらしい。普段通りであればリスクの高い接近戦を避ける傾向にあり、オスカー中隊のやり方からは逸脱している。

 

「光線級からの照射は?」

 

「彼我の距離が近すぎて相手も撃てないようです、ですが重光線級の背丈であれば照射の危険は大いにあるかと!」

 

「その場合は超電磁砲を使う」

 

防衛線に集められた他の戦術機部隊も精強だ、この数のBETA相手に殆ど後退せず踏ん張っている。おそらくは温存されていた戦力なのだろう、来るべきハイヴ攻略を任されるような精鋭だったに違いない。

 

『こちらCP、軌道上の艦隊が爆撃コースに乗った。落下軌道予測範囲に注意せよ、大きく逸脱した場合はそちらに落下する可能性がある』

 

「来てくれたか!」

 

同じく温存されていた軌道艦隊が攻撃を開始する、BETAを吐き出してそのままの新種にはひとたまりもないだろう。新たに配備された巡洋艦を中心に編成された艦隊は予定通りに投下を敢行、精密に誘導されたそれは幾つかが新種に命中した。

 

「血を噴き出してますよ、アレ」

 

「あれだけの体格だ、血圧も相当なものだろう」

 

雨のようにBETAの体液が降り注ぎ、新種近くに居た敵は皆真っ赤に染まっている。地面が割れるかのような振動は未だ収まりきっておらず、振動計は滅茶苦茶な数値を叩き出していた。

 

「補給を終えた部隊が復帰し始めましたよ!火力が見違えるようです!」

 

『こちらCP、臨時だが後方への指揮系統移転は無事に完了した』

 

「状況は?」

 

『補給作業は順調に進んでいる、そちらには2個中隊が増援として向かっているため合流して防衛をつづけろ』

 

どうにか立て直しには成功したようだ、砲撃も密度が増したように思える。

 

『前線への補給だが秋津島の補給機を中隊に同行させた、最低限の物資にはなるがそれで持たせてくれ』

 

「了解!」

 

防衛部隊の奮戦により我々は何にも代えがたい時間を稼ぐことが出来た。

AIの搭載が行われてから明らかに衛士の疲労が軽減されている、連戦に次ぐ連戦でも心理的な余裕が残されているために大きなミスも見られない。なんなら戦闘中に水分補給をする余裕すらある、食いつくように操縦を続けていた今までとは大違いだ。

 

「後方より2個中隊、連絡にあった増援です!」

 

「ここは彼らに任せて補給を行うぞ、補給機に補給要請を送れ」

 

しかしAIが警告表示と共にある情報を視界に表示する、何故か今もなお続く振動に関してだ。

全戦域のAI搭載機が相互に情報を交換し、機体に搭載されている振動計の情報を精査した結果新種の振動を検知したとのことだ。

 

「AIが新種を検知したと、報告が」

 

「通りで振動が大きい訳か、何処にだ?」

 

「先ほどの新種出現地点よりこちら側、敵は防衛線の中心に出ます!」

 

「即時後退だ!」

 

増援として来たばかりの中隊と共に補給作業を切り上げて後退するが、これ以上防衛線は下げられない。

未曾有の事態に対して無理矢理引かれた防衛線にこれ以上の余裕はなく、中心を食い破られた上にBETAを吐き出されれば司令部や砲兵隊は蹂躙されるだろう。

 

「CP!軌道艦隊は!?」

 

『爆撃可能な艦隊は軌道に投入すらされていない!再度爆撃が可能になるのは最速でも45分後だ!』

 

待機していた艦隊は橋頭堡への補給物資投下、新種への攻撃という二度の作戦行動において使い切っていた。来るべきハイヴ攻略のため予定されていた軌道上にて待機しており、あかつきに入港しての装備変更や補給を行うには場所が遠すぎたのだ。

 

「想定外に想定外が重なりやがる…!」

 

『Beeeep!』

 

補給機が残り稼働時間の低下を知らせるビープ音を鳴らしたが、状況も相まって悲鳴のようだ。

BETAは手を緩める気はないらしい、この戦場のあらゆる兵士が新種の出現予測地点から目を離してはいられなかった。

 




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