未曾有の事態により海王星作戦は一時中止され、攻略部隊は突如地中から現れた新種のBETA撃破後の混乱から立て直すべく尽力していた。新種は地中掘削に特化した種であり、ハイヴなど大規模な地下構造物を建造した個体だと思われる。
名前は母艦級とされ、前線では強襲揚陸艦などとも呼ばれているらしい。
「軌道爆撃の直撃により撃破したものの、同一種のBETAが同地点に出現しました」
秘書の報告に頭を抱える社長、この構図はいつものことだが状況は芳しくなかった。
「その後S-11を搭載した補給機により出現した二体目の母艦級は撃破されたものの、被害は甚大です」
「…マジか、試製四号は?」
「オスカー中隊と共に敵BETAと交戦、撤退には成功したようです」
「被害の方は後で聞く、まだ覚悟が出来ていなくてな」
本来であれば母艦級が確認されるのは相当後になる筈だが、そうはいかなかったらしい。パレオロゴス作戦後の撤退、ハイヴの建設妨害と爆撃を連日続けて行っていたのが原因だとはすぐに分かった。
BETAは軌道爆撃の存在を学習し、それを避けるために地下からの侵攻という今までとは違う手段をとったのだ。
「光線級が新たに確認された時点でBETAが学習能力を有するとは考察されていましたが、まあ出てきますよね」
「このままじゃあ我々は物量に勝るBETAと戦術、戦略でも戦わなくてはならなくなるぞ」
この問題に対して原作で行われたアプローチは至極単純、オリジナルハイヴに存在する司令塔を狙い撃ちにしてぶっ殺すというものだ。
BETAの学習機能と意思決定は全て一番最初に作られたハイヴが担っていて、それ以外は従ったり伝達したりしているだけという完全なトップダウン型の組織体系であるというのを見抜いての作戦だった。
「兎に角ハイヴを攻略しないとこの先ジリ貧だ、海王星作戦をもう一度発動する体力は欧州連合に残されていないんだぞ」
「切り札の運用にもBETA由来の物質が必要ですしね、決戦兵器が有ればハイヴだって吹っ飛ばせますよ」
アメリカから来た重力制御機関付きの決戦兵器、XGの解体は終わり細かな分析もそろそろ終わる頃だ。元々半分くらいはバラされていたのもあり、構造の解析自体は簡単に終わった。
問題は主砲である荷電粒子砲が丸々存在しないという点だが、設計図なら用意できるので自社製のものになる予定だ。
「ああ、次はオリジナルハイヴを吹っ飛ばしてやろう」
「え、なんでそこを狙うんです?」
「…えっ?」
話が詰まるが、その理由はすぐに思いついた。
そう、オリジナルハイヴが全てのBETAを統括していることは現時点で明らかになっていないのだ。このことが分かったのは量子頭脳を持つ00ユニットの活躍であり、この世界においてそれが実用化するかどうかは不透明だ。
「順当に潰すなら欧州か中国のハイヴですよね、何故オリジナルハイヴを?」
「…か、仮説がある!」
本来知らないはずのことを知っていたとなると未来でどうなるか分からない、ひとまず誤魔化しておこう。
「光線級という新種が発見されたのはオリジナルハイヴからだ、それにハイヴが全て大規模な地下茎構造を持つならあの大型BETAも最初から存在していた可能性が高い!」
「つまり?」
「新型BETAを作りそれを運用している中枢は、恐らくオリジナルハイヴなんだよ!」
秘書は暫く考えた後手元にあった紙の裏に何かペンで書き始めた、ヒートアップした議論に興味があるのか護衛の方も物陰からひょっこりと頭を出して聞いている。
「…確かにオリジナルハイヴが初めて人類の航空戦力に対して対抗策を打ち出しましたし、他のハイヴに向けて軌道爆撃をし続けても今回のような対抗策を講じるのは明らかに遅かったように思えますね」
「根拠はないがオリジナルハイヴが諸悪の根源だ、絶対にな!」
そういうことにしておこう、どうにかしてオリジナルハイヴが司令塔の役割を果たしていることを突き止めなければ作戦の立案などまず無理だ。
XGシリーズはレーザーを無効化し荷電粒子砲にてBETA群を吹き飛ばす唯一無二の存在だが、もしBETAが対抗策を打ち出してしまったらどうなるか分からない。原作ではそれを恐れて対応される前に攻略作戦を始めるしかなく、それに伴って様々な悪影響も発生していた。
「(そうだよな、普通なら敵のど真ん中に突っ込んで行かねえもんなぁ)」
人類が勝つためには戦力の充実も必須だが、それ以上に情報が必要だったことを思い出した。どうにかしてオリジナルハイヴを狙う根拠を手に入れなければならない。
「(ESP、所謂超能力持ちのリーディングは過去に試されたが今のところ失敗してるし、他に現状で試せるようなものはあったかどうか…)」
ESPを利用したオルタネイティヴ3計画はBETAが人類を生命体だと見なしていないという情報を得るに至るが、それ以上の情報を掴めず第四計画へと移行してしまう。
原作と同じ手段が取れない以上、どうにかして新たな道を模索しなければならなそうだ。