宇宙開発企業なんですけど!?   作:明田川

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やっと一区切り


第三十二話 秋津島開発の苦悩

欧州に派遣された部隊により超電磁砲搭載型戦術機、試製四号の性能は確かなものであると証明された。機体性能自体も非常に高く、搭載予定の新型跳躍ユニットが完成すればあらゆる面で隼を上回る機体になるだろうと期待されている。

 

「ボロボロになってまぁ、よく頑張ったな」

 

社長が手にしているのは試作機に関する報告書だ、写真も幾つか添付してある。日本に帰ってきた試製四号は外装こそ大きな損傷は無いものの、内部を見れば想定されていた以上の戦闘を熟したことはすぐに分かった。

軍は艦船への搭載など様々な運用方法を考え始めるなど、レールガンの正式採用は半ば決まったようなものだった。

 

「問題はレールガンのコストだよ、コスト」

 

「量産可能な金額ではありませんよね、社長が何やら用意していた設計図は役に立ったのでは?」

 

「それを作るための機械Aを作るための機械Bを作るための…って感じだな、まだ時間はかかる」

 

超電磁砲を運用するために搭載しなければならない装備は機体価格の高騰に繋がっており、試製四号が完成したとしても斯衛くらいしか採用出来ない。

これでは不味いのだが、本来なら必要な工程を幾つか飛ばして無理やり超電磁砲を用意したツケが来ていた。

 

「どうするんですか、これ」

 

「次世代戦術機を作るための土台が出来ていないのが原因だが、別のプロジェクトも同時進行してるからな…」

 

戦術機搭載用のAIに隼の改良、XGシリーズの新造に本業の宇宙開発と秋津島開発は多忙を極めているのが現状だ。

 

「XGはまず動力炉の稼働に必要なBETA由来物質、G元素が手元に存在しないため研究は何処かで止まります」

 

「だからこそ海王星作戦でのハイヴ攻略は必須事項だったんだが、あの状況じゃあ仕方ない」

 

確保したと思った橋頭堡が地面の陥没により周囲一帯ごと使えなくなってしまったのだ、ハイヴ攻略は暫くの間不可能だろう。

その欧州において独自に生産が始まり、各国で一気に配備され始めた隼だが研究班からはある問題が指摘されていた。

 

「隼なぁ、将来的には微妙な立ち位置になりそうだわ」

 

「…と、言いますと?」

 

「アイツはかなりの性能があるって言っても、強みは他の機体でも活かせる程度の要素なんだよなぁ」

 

コストで言えばF-4に負け、性能で言えば最近正式採用が囁かれている第二世代機のF-15に負ける。隼の利点である高性能な各種センサや強固な通信安定性は、新型データリンクの普及によって消えるだろう。

何故なら各国で新型データリンクの普及のために戦術機の電装品入れ替えが実施され、センサや通信機は隼と同じか同レベルのものに置き換わりつつあるのだ。

 

「AIによる高度な情報処理を前提とした新型データリンクの普及には必要な措置だったからな、秋津島製の電子機器は大量に輸出されてるよ」

 

「ではもう各国は解析を進め、同レベルのものを新型機に搭載してくると?」

 

「そういうことだな、我が社の部品を乗せるにしろ自国製を載せるにしろ隼が持つ優位性は消えたわけだ」

 

将来的には成長した他の戦術機に良いポジションを食われる立ち位置に居るのだ、まあビジネスとして戦術機販売を考えているわけではないので売れなくなろうと問題ないのだが。なにせ電装品やらAIブロックやらは我が社の独占商品である、隼の存在も大きかったがこれからは新型機の時代だ。

 

「ならば新型機の完成を急がねばなりませんね、アメリカの新型は隼を上回るどころか試製四号にも匹敵する性能だそうですから」

 

「試製四号はマトモに量産出来ないポンコツだがな、配備出来る機体を作れる方がよっぽど偉いさ…」

 

技術的には駒を進めているが、現場レベルで使えるようにするとなると行き詰まりを感じ始めている。どうしたものかと頭を抱えていたら部下の1人が護衛さんを伴って社長室に入ってきた。

 

「社長、なんか凄いお客様ですよ!」

 

「なんか凄いってなんだよ、ちゃんと言いなさいって」

 

慌てふためく部下を制し、護衛さんが前に出た。

 

「ミラ・ブリッジス氏がお見えです」

 

「…はい?」

 

 

3歳くらいだろうか、彼女に預けられた男の子は慣れない環境に困惑しているように見える。彼女とは戦術機開発に関して話したことは何度かあり、何かあったら協力するとも確約した覚えがあった。

 

「どうすっかな…マジで…」

 

本来であれば彼女の元で育てられる筈のユウヤ・ブリッジス君は訳あって秋津島開発の託児所にてお世話になっていた。彼は原作における主人公の1人であり、人類勝利の立役者でもある。

 

「ごめんなぁ、本当にごめんなぁ」

 

この複雑な状況を説明するのは非常に難しい。

まず日本が戦術機開発技術を習得するために始めた曙計画で、日本から様々な技術者がアメリカへと渡った。その際に武家の篁氏がミラ氏と関係を持ち、なんと子供を作ってしまう。

 

「忙しくて完全に忘れてたよ、そういや君もこの頃に産まれてたんだな」

 

戦術機開発において天才と呼ばれるほどの技師であるハイネマン氏の弟子だったミラ氏と、日本で特権階級の武家でありその上戦術機開発に深く関わった篁氏。その間に子供が生まれれば問題になるどころか攫って人質にでもされるような大事件である。

 

「シャトルの手配が出来て良かった。暫くの間は申し訳ないけど、君のお母さんには宇宙に居てもらうから」

 

宇宙港であれば誰も手出しは出来ない、状況が状況なので護衛さんに信用できる人員を貸してもらい彼女は宇宙へと上がった。職を辞してまで子を逃がそうとした彼女の意思は受け継ぐが、まあとんでもないことになったものだ。

 

「篁氏はまあ、後で話を聞くとして…」

 

本来なら父親が武家の人間であると隠して育てられる筈だが、ここに預けられたということは原作よりも彼女を取り巻く事情は深刻だったことが窺える。

 

「嫁さんが妊娠したらしいからな、懐妊祝いはわざと倍送りつけてやるか」

 

発注ミスということで公には済ませたが、後で個人的にお話を聞かせてもらった。色々と事情があったのかは知らないが、ギルティである。




無重力空間がある宇宙は幼い子供に良くないのでユウヤ君は地上に残らざるを得ませんでしたが、託児所はその重要性も相まって要塞と化しているので恐らく問題はないでしょう。
攫おうとすれば背後にニンジャが現れてカラテで制圧して来ます、サツバツ!

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