宇宙開発企業なんですけど!?   作:明田川

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閑話ラッシュ第一弾として一番要望が多かった部分、国内での秋津島の評判を多角的に掘り下げて行きます。第二弾は本編を挟んでからになります。


閑話 秋津島レポート その1

 秋津島開発は日本において大きな影響力を持つのは言うまでもないが、様々な立場から見た場合の評価というのは気になるところだ。特に情報統制に力を入れる日本帝国からすれば是が非でも知りたい内容であり、今回は情報収集のために働く政府関係者の視点からお送りする。

 

「ま、まさか社長直々にお話を聞けるとは、誠に光栄です」

 

「いえいえ、偶然日程に空きがあっただけですので…」

 

秋津島開発自身の評価や自己分析を知っておけば今後得た情報と見比べた際に色々と分かるだろう、そう思い連絡したところトップが出てきてしまった。

派遣されている斯衛の視線が痛い、何故来たのかと言わんばかりだ。

 

「我々は確かに各方面から恨まれたりしてますからねぇ、政府の方が今一度知りたいというのも当然でしょう」

 

「恨まれる、ですか」

 

「宇宙開発では相当ヤンチャしましたから、結果的に競合他社をダース単位で潰しちゃいましたからねぇ」

 

はははと笑う彼は戦後の宇宙開発競争を勝ち抜いた猛者であり、40代とは思えない若々しさを持っている。存外にも雰囲気は柔らかく、気難しいだとか頑固だとかという印象を受けることは無かった。

 

「戦術機開発では米国との仲も一時は悪化しましたが、今となっては回復しつつありますね」

 

「曙計画あたりから関係が改善したと聞きましたが、詳しい理由などは伺っても?」

 

「戦術機開発の立役者、ハイネマン氏と改めて交流を深めたからでしょうかね」

 

第一世代戦術機の開発において方向性の不一致があり、米国企業と秋津島開発の間では大きな溝があった。秋津島開発に宇宙開発利権を根こそぎ奪われ、投資した企業を瞬く間に潰された米国の政治界、経済界の危機感もあり計画からは離脱することになったために深く分かりあうことも出来ずにいた。

 

「曙計画の際に時間を作っていただき、改めてお話をする機会を貰いまして」

 

「米国に渡っていたのですね」

 

「まあほぼ日帰りのようなものが数回ですがね」

 

ハイネマン氏は日本への偏見や第二世代戦術機開発から外されたことで苛立っていたが、隼に関しての話をする内に打ち解けていた。第二世代戦術機が必要とするのは何なのか、更に次世代の戦術機はどうなっていくのか…

 

「あの時ばかりは寝食を忘れて語らいましたよ、隼に導入した概念を少しの会話で理解してしまうのだから議論は加速し続けました」

 

曙計画の成功は彼が行った対談のお陰でもあるのかもしれない、良くも悪くも雰囲気に似合わない大物っぷりだ。

 

「まあ米国との関係改善はそれからでしたね、向こうに行ってくれた社員が作ってくれたコネもありましたが」

 

宇宙港に米国の軌道降下部隊が入ったという件を見ても、秋津島と米国企業はある程度の再接近を果たしたのだろう。

 

「米国の方々はまあそんなもんですかね」

 

「では次に国内三社についてお願いしてもよろしいでしょうか?」

 

「良いですとも、まあ三社とも上の方にはよく思われてないでしょうねぇ」

 

新参者が大きな顔をすれば睨まれるのは当然のこと、長い年月をかけて会社を大きくしていった彼らからすれば印象が良いとは思えないと彼は語った。

宇宙開発、戦術機開発共に最先端を行くのは彗星の如く現れた秋津島開発であり、一代も世代を経ていないという異様な成長速度は良からぬ噂を吹聴される原因にもなっていたからだ。

 

「米国企業と密約があったとか、まあその手の噂には事欠かないものでしてね」

 

「戦後ということもあり、視線は厳しいものだったと」

 

「ですね、米国へ協力した後に日本で戦術機を作ったのは紛れもない事実ですし…」

 

こればかりは仕方ない問題だと語る彼だったが、ここまで達観していると色々なものを通り越して心配になってきた。

 

「ですがまあ、下に行けば行くほど仲は良いですね」

 

「それは一体」

 

「ウチの社員と滅茶苦茶交流が多い上に、戦術機関連の仕事は大抵一緒になるので連帯感が半端じゃあないです」

 

日本にF-4が納入されなかった事件以来、日本は自国での戦術機生産と運用のために過密なスケジュールでもって体制を整えた。現場では隼を擁する秋津島と、F-4の改修機撃震を持つ国内三社の社員達は休む暇もなく働かされることになるが、それは会社間の壁など取り払った友情を育むことにもなったらしい。

 

「開発関係でも色々と交流する機会がありましたからね、斯衛仕様機を作る時なんかは特に」

 

「現場と経営陣では印象に大きく差があると」

 

「ですね、まあ時間が解決してくれるとは思いたいですが」

 

社長は気にしていないらしいが、国内三社側が一方的に悪印象を持っているのであれば今後の開発体制にも悪影響が出るかもしれない。この意見が秋津島の勘違いである可能性も大いにあるため、鵜呑みには出来ないが。

 

「政府の方々からは…どう思われているんでしょうか?」

 

「と、いいますと?」

 

「色々と交流していますが、それ以上に協力…というより要望を通して貰ったりと無理を言って困らせたりしてるんですよ」

 

例を挙げるとするならばパレオロゴス作戦が失敗した後、撤退時にBETA群に向け軌道爆撃を行ってくれと言ったことがあるそうだ。まあそのまま言うわけにもいかず、物資なら幾らでも上げるから撤退支援を行う上で不自由はさせないと言ったらしいが。日本が軌道艦隊の実権を握っているからこそ通せた要望だろう、通らなければ自社でやったかもしれないが。

軍事作戦に口出しするというのは、一企業がやっていいことではない。それは彼も分かっていたようだが、あの時ばかりは英断だったと言えるだろう。

 

「な、なるほど」

 

「護衛さんが来たり、よくしてもらってるのは分かるんですけどねぇ」

 

秋津島開発は政府から資金援助や税金免除などかなりの優遇策がとられている。開発の失敗により会社が潰れると政府としては困るので、リスクの高い戦術機開発をバックアップした形だ。

まあ秋津島はそんな心配など全くさせず、それどころか大成功したので政府は肩透かしを食らっただろう。

 

「向こうは政治屋、こっちは技術屋なんで通じない話もあるわけでして」

 

彗星から隼まで一気に戦術機開発の駒を進めた秋津島開発は政府関係者の感覚を狂わせた、というのは確かにある。国内唯一の成功例を参考にスケジュールを作ると誰も着いてこれないのだ。

半年で試作機から完成にまで漕ぎ着けられる彼らがおかしいだけ、そのことに政府が気がついたのは戦術機の配備開始から少し経った頃だ。

 

「たまに無茶は言われますが、出来ない範囲ではないですし…まあお得意様って感じなんでしょうかね?」

 

政府からすれば日本帝国の生命線である、秋津島開発の自己分析はアテにしない方が良いのかもしれない。たまにされる要求も納期は10年先に設定してあるが、彼らは何を勘違いしたのか10ヶ月で納入して来たことすらある。

 

「は、はは…」

 

「民間の方々からは、まあ政府の方々と行った広報のお陰で大人気ですね」

 

国債より秋津島製の食料品、電子製品が売れるのだ。宇宙での食品栽培に関しての研究は地上でも役に立っており、外界の環境に左右されず食物を生産可能なプラントは大活躍中だ。これに関しては他の企業も進めている技術だが、味に関しては秋津島が勝っているというのは食べた身からしても間違いないだろう。

 

「様々な層からの支持を受けているそうですね、国内外問わずに」

 

「新しく始めた通信業が大きかったかもしれませんねぇ」

 

戦後からBETA戦争へと休まる時が無い人類が欲するのは娯楽に違いない、そう感じたらしい彼は定額制である配信サービスを始めていた。元々は業務効率化のために作られた通信衛星群による通信システムだったらしいが、今では小説や映像をアンテナ一つで楽しむことが出来る唯一無二のサービスに姿を変えていた。

 

「最近話題の娯楽といえば秋津島の食品と映画と小説だと言われるほどですね、入社を希望する若年層の競争率も高いとか」

 

「宇宙での働き手は若い頃から専門の教育を受けないと適応するのに苦労しますからね、若い人達が今まで以上に来てくれるようになって助かりましたよ」

 

過密なスケジュールで知られる秋津島開発だが、人員の増加によりそれは解消傾向にあった。新たな社員が増えたことによるスパイの危険性は無論あるため、政府側の人間が血眼になって精査し続けているらしい。

 

「金属の自動立体形成機が各国で活躍していて、そちらでも評判は上がっていると聞きますが」

 

「3Dプリンタですか、前線で必要な部品をその場で作れるって言うのは大事ですからね」

 

各国がある意味戦術機よりも注目しているとも言える機材であり、前線での稼働率向上に一役買っていた。部品点数が多く、稼働部も多い戦術機を維持するのには膨大な量の補給が必須だった。しかし比較的小さな部品であればその場で作れてしまう新型機材の登場で予備の部品不足には悩まされずに済んだらしい。

 

「保守部品が売れなくなるってんで、滅茶苦茶恨まれましたがね!」

 

やはりこの人は米国と仲違いしたことを一ミリも反省していないし、する必要も無いと思っていそうだ。確かに敵を作るタイプだが、その敵以外には愛されるタイプとも言えるだろう。

 

 

答え合わせをするため、まずは国内三社へと聞き込みを行った。政府の息がかかった広報関係者という肩書きで話を聞かせてもらう。話を伺ったのは国内三社のうちの重鎮、匿名を条件にということだったため名前や特徴は明かせない。

 

「秋津島開発にはお世話になって居ますよ、最近は隼の生産も我々が受け持っていますからね」

 

「隼の生産施設が国内三社に売却されたというのは聞きましたが、それは一体何故なんでしょうか?」

 

元々秋津島開発は量産に関するノウハウがあまりなく、その結果ランニングコストが莫大な自動工場なんて代物を作り上げてしまった。国外で運用するならば技術流出の防止が期待できるためコストの問題は許容されたが、国内で量産するとなれば別だ。

 

「隼は秋津島の独自規格品、当時としては…いや今でも革新的な技術を多く盛り込んだ機体でしたから単価は高かったのですよ」

 

「価格の低下が起きたと言う撃震と比べると中々の差だったとは聞いておりますが」

 

「ええ、ええ。そりゃあもう斯衛が乗るような高級機でしたとも」

 

量産の分野で先を行く国内三社の手が入れば隼も安くなるだろう、わざわざ国内でも自動工場で作る必要もなくなる。というか秋津島開発は限られたリソースを隼に注ぎ続ける気があまり無かったように感じているとも彼は話した。

 

「隼は安くならないかと政府が聞いたらですね、彼ら隼を国内三社に任せればいいじゃないかと言ったんですよ」

 

「…莫大な利権を手放すことになるのでは?」

 

「国内の自動工場を解体したとしても海外では稼働し続けます、それでも工場の3割を失うような判断をポンと下すんですから」 

 

まともな経営者ではない、というより既存の型に全く嵌まらない恐ろしい人物だとその時感じたという。会議室に集まっていた政府、企業の人間は秋津島の提案に固まったらしい。

 

「彼が秋津島開発は量産に向いていないんだと言い始め、申し訳なさそうにしていたのを見て議題を持って来た政府の奴は青ざめてましたがね」

 

「まあ無理矢理利権を手放せと言われたように見えますよね、他所から見れば」

 

「…我々もこの分野の人間として彼らには敬意を持っていますよ、私達の作った撃震と瑞鶴は欧州に渡って人を救えはしなかった」

 

欧州派遣部隊に選定されたのは隼であり、先の新種との戦闘でも活躍したのは試製四号だ。同じ戦術機を作るものとして、扱いに差があるというのは確かに面白くないだろう。

 

「耀光計画が始まっても政府は秋津島頼みですからね、彼らを打ち出の小槌とでも勘違いしていなさる」

 

国内三社はF-4のライセンス生産、瑞鶴の製作と段階を踏んで成長して来た。しかしそれでも米国との差は歴然であり、隼を超える新型戦術機を作れと言われても土台無理な話だろう。

 

「だからこそ我々に隼の量産を任せたのだとしたら、とまで考えると恐ろしいですがね」

 

「なるほど」

 

秋津島開発はマトモではない、少なくともそう思われているようだ。

 




この程度、6時間あればお茶の子さいさいよォ!
…誤字報告よろしくお願いします。

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