宇宙開発企業なんですけど!?   作:明田川

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第四話 跳躍ユニットの前身

 

エリア51、試験場にて。

 

「…うーん、やっぱり地球は重たいですねぇ」

 

「だな、まあ軽快な方だと思うが」

 

運び込まれた彗星が大気圏内用に換装されたエンジンを吹かすが、推力が足りておらず月面のように飛ぶことは出来ない。しかし補助的には使えるようで、歩行を重視した脚部形状も相まって速度は地上でもそれなりだ。

特に胸部左右に取り付けられていた姿勢制御用のフライホイールユニットを取り外すことが出来たため、かなり見た目の印象は変わっており軽量化も果たせた。

 

「20mmの方も中々良い具合みたいですね、元々地上用でしたし」

 

「そうだな、陸戦用に調整した火器管制システムとセンサもエラーを吐いてない」

 

重力が増したことで銃の反動を受けてもバランスを崩さないようになり、射撃精度は月面の比ではない。用意された標的を20mm弾で次々と射抜いていくが、時折機体がぐらつくように見える。

 

「…サスペンションと駆動系が性能不足だな、幾ら要求性能よりも余分に見積もっても月面用だからな」

 

「ウチのテストパイロットも月面状況下で操縦に慣れてますから、地上での動作に慣れきってないのも原因だと思いますけどねぇ」

 

「仕方ない、準備期間一か月の飛び入り参加だからな」

 

多少の動作不全が見られたものの、検査項目自体は問題なく終えることが出来た。

成績で言えばYSF4H-1の少し上と言ったところか、月面で見せた性能差をあまり見せられなかった結果に終わった。恐らく彗星の製造から多くのことを学ばれたようだ、月面に送られた機体とは格が違うように思える。

しかし腰部の推進器は調整中のようで、あまり使っているところを見ることは出来なかった。

 

「まあ次が本命、頑張ってくれよ二型」

 

「アレもう彗星じゃあないですよね、新規設計ですし」

 

「…ネームバリューを考えると、どうしてもな」

 

試験場に立つ彗星二型は、2機とは明らかに違う洗練されたシルエットを見せつける。腰部の推進機関は航空機用のジェットエンジンが収められており、瞬発性には欠けるものの燃費と推力に関しては月面用の2機とは比べ物にならない。

 

「この腰部推進ユニットなら生み出される移動能力と跳躍力、装甲を削り軽くした総重量と陸戦のためにトルクを増した駆動系から生み出される機動性は対BETAで命綱になる」

 

「あー、突撃級の移動速度ですか」

 

「そうだ、奴らは地上だと150から170kmの速度で移動するという試算結果が出てる」

 

「…それヤバくないですか、今の地上戦力で逃げ切れるの居ないんじゃあ」

 

「だから跳び越える、背中は脆いし合理的だろ?」

 

手に持つ20mm機関砲は彗星と同型だが、弾倉を持ち手より後ろに配置することで全長を短く抑えている。

 

「色々と働きかけて正式採用される新型兵器用の機関砲は36mmになりそうだ、アレなら威力不足にも悩まされずに済みそうだが、どんな形状になるかは分からんな」

 

「ウチのは普通の機関砲にガワを被せただけですから、専用の物が出来るなら大歓迎ですよ」

 

段差をものともせず、自慢の脚力で試験場を駆ける。

脚部可動域が広いため、足を大きく開く歩行動作に関してのエネルギー効率は前世代機を大きく上回る。

 

「だがバランスが悪いな、多少設計を変えたとはいえ航空機用のエンジンを転用するのは無理があったか」

 

「しかも二基ですからね、減らした分の重量と増えた分でトントンですよ」

 

その大出力は空力をあまり考慮出来ていない二型ですら飛行を可能とするほどだ、有り合わせの材料で作ったにしては優秀だがいかんせん重過ぎた。

 

「…もっとフレキシブルに動くと良いんですが、それには軽量化が必須ですよねえ」

 

「だな、それはこれからだ」

 

二型の性能は上層部に認められ、新型機の独立可動する推進器の開発が本格的に進められることになった。推進器の搭載は元々考えられていたが、二型と同じような形で搭載する方向で設計を進めるらしい。

 

 しかし機体の装甲をあまりにも薄くすることは認められず、開発が進む中で形になっていったのは原作どおりの姿をしたF-4だった。その拡張性の高さから登場から常に主力を担っていたというほどの傑作機で、なんとか原作と同じ1974年までに米国への配備が始まりそうな所にまで漕ぎつけた。

結果として原作より早く戦術機を完成させることは出来なかったが、性能の向上と最低限の光線級対策は行えた。それよりも大事なのは彗星二型が示した第二世代機への道だ、これがあれば1982年にまで現れない第二世代機を70年代中に完成させることが出来る。

 

巻き返しはここからだ、そのためにも次世代の対BETA兵器を欲する日本を利用しなければならない。ユーラシア大陸での激戦を黙って見る気は毛頭ない、出来ることはさせてもらう。

 




結末を変えるのはそう簡単では無いようです

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