宇宙開発企業なんですけど!?   作:明田川

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やっとお披露目です。

中々上手く纏まらなかった、この回は書き直すかもしれません。


第三十四話 試製四号改め…

秋津島開発の研究開発班はある兵器の試作品を更に進化させ、新たな領域へと踏み込もうとしていた。実戦を経験した試製四号を改良し、超電磁砲も軽量化と高性能化を順当に果たしたという。

 

「試製四号は軍で採用された場合、名を改めて疾風と呼ばれるそうです」

 

「言語を変えたらまた名前が被るじゃないか」

 

「被る?」

 

「…忘れてくれ」

 

いつも通り試験場へと運び込まれたのは新造された試製四号の二機目であり、武装の試験用ではなく完全な実戦用として組み直されている。隼に勝る程度の性能だった四号は、小隊を相手にしても負けないほどの性能差を得て帰って来た。

 

「にしても早かったですね、問題が解決したんですか?」

 

「難しいな、どう答えるのが正解か分からん」

 

開発班は改めて宇宙に戻り、超電磁砲の砲身を無重力空間で製造することにより本来の性能を得ることに成功した。将来的には地上で製造することを目標にしているため問題が解決したわけではないが、ひとまずは先に進めたと言えるだろう。

 

「まあ…してるとも言える、将来的な見通しが立つ程度にはなったさ」

 

「それは良かったです、演習でここまでの成績を出してしまっては量産出来ませんと言えませんからね」

 

この試験の前に行われた演習では隼の小隊相手に超電磁砲を用いてマトモな戦闘になる前に全機撃墜、超電磁砲無しでも隼に対して優位を保ち続ける機動力の高さを見せつけた。

 

「…差がここまで出るとはな」

 

「AIとの相性が良いって話題になってましたね、多少レスポンスが上がっただけの筈なんですけど」

 

「ワイヤーから光ファイバーに替えたからか」

 

「絶対にそれが原因でしょうね」

 

本来なら超電磁砲の出す電磁波対策の一環としてオペレーション・バイ・ライト方式、光ファイバーによる機体内の信号伝達を行う技術を導入したのだが反応速度の向上に繋がったらしい。

元々は原作における最新鋭機に搭載されていたようなものであるため、当たり前とも言えるが。

 

「コンマ数秒が生死を分けるからな、こっちからしたら微々たる差だが乗り手にとっては大き過ぎる差ってわけだ」

 

「やはり乗ってもらわないと分からないものですね」

 

大型化した頭部レドームは左右にも出っ張り、曲がりなりにも流線型だった隼とは違った印象を持つ。電磁波対策で大きくならざるを得なかったというのもあるが、性能は充分だ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

そのシルエットはより人に近づいた、というより一般的な日本人より体格が良い。脚部燃料タンクの大型化が下半身の大型化と重量の増加に繋がったが、新たな装甲材の採用とより推力の大きな跳躍ユニットの搭載でことなきを得た。

 

「秋津島の新星ここにあり!…って、軍部の人は大歓喜でしたけど」

 

「まだ機体だけなら作れるんだが、超電磁砲の量産体制が完全に整うのは数年後だな」

 

「その超電磁砲の搭載で色々と話があったと聞きましたが」

 

「ああそれか、超電磁砲を持たない疾風の件だな」

 

問題として上がったのは超電磁砲とトレードオフの関係にある背部兵装担架で、本来なら搭載出来ていた武装を半分失う形になるのだ。

超電磁砲が有れば要らないだろうとも思ったが、これには日本帝国軍が新たに打ち出したハイヴ攻略戦術と関係していた。

 

「補給機が有ればハイヴ突入部隊は適時補給を行いつつ最奥へと進軍出来る、ならば新型戦術機は弾薬消費量が既存の機体よりも悪化しても問題ないと考えたらしい」

 

「腕は二つしかありませんよ、そうバカスカ撃てますか?」

 

「背中と肩からも生えてるんだぞ、今更人の形に拘る必要はない」

 

社長が取り出したのは疾風の設計案であり、軍に承認されたことが分かる書類と判子があった。肩部、腕部、腰部、膝部をユニット化し要求される状況により性能を変更可能だとしていた。

 

「肩?」

 

「肩部の装甲を保持してるアームだよ、腕というには手も何も無いが機能としては装甲を持ち上げているって表現になるか?」

 

強襲掃討仕様と銘打たれた装備は肩部装甲が差し替えられており、簡略化された戦術機の腕が生えていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

背部に超電磁砲を搭載せず背部兵装担架を装備した場合、突撃砲を6門同時に運用できる計算になる。

 

「元々戦術機の中でも装甲が分厚い部位を持ち上げる部分だからな、やろうと思えば幾らでもやり方はある」

 

それ以外にも様々なバリエーションが用意されていることが紙の束の厚さから伺えた。汎用型、強襲型、防衛型と様々な装備が考案されている。

 

「バリエーション豊かですね」

 

「ファミリー化って奴だ、攻撃用だろうが防衛用だろうがみんな疾風がやれるっていう構想らしい」

 

「それはまた壮大な計画ですが、そんなことをすればコストはむしろ上がるのでは?」

 

「欧州連合が噛んでるのさ、調達機数は隼と同等かそれ以上になる予定だから纏まった数が作れるようになる」

 

スーパーエレクトロマ…超電磁砲は喉から手が出るほど欲しい最新鋭の対BETA兵器であり、欧州連合は多額の開発費を日本帝国に送っている。秋津島開発との共同開発も打診されていたが、政府は超電磁砲の技術漏洩を警戒してそれを却下しているために資金援助という形になった。

 

「量産すればするほど兵器は安くなる、という訳ですか」

 

「疾風の低コスト化は進めるが、将来的には数を作って製造単価を下げるのが単純明快で良いってわけさ」

 

次世代の戦術機として日本帝国が疾風に求めた隼以上の性能、米国の戦術機開発計画に影響されて付与された対戦術機能力は奇しくも対BETA用の兵器として開発された超電磁砲の搭載によって達成したのは皮肉である。

 

「まだまだ問題は山積みだが、一応はなんとかなったな」

 

「嫌なことが続いてましたからね、開発班に目を覚まさせられるとは」

 

「…まあ悩むには早過ぎるってことだな、俺達も頑張ろう」

 

疾風はまだ量産機とは言えない状況であるのは間違いない。

BETAとの戦争に終止符を打つ機体になれるよう、あらゆる手段を尽くしていかなければ。

 

 

秘書と談笑した後、社長室に戻った自分を待っていたのは護衛さんだった。

いつものスーツではなく、斯衛軍が着るような色付きの制服に身を包んでいて只事ではない雰囲気だ。というか制服が赤い、結構な地位の方だったのか。

 

「ご、護衛、さん?」

 

「説明してください」

 

「何を!?」

 

「私は今冷静さを欠こうとしています」

 

「だから何をです!?」

 

彼女は徐に正座の体勢へと変え、わざとらしく取り出した刀と砥石で刀の手入れをし始めた。

 

「怖いっす」

 

「最近は距離を詰めてきてくれるようになりましたし、共に休日を過ごすことだってあったではありませんか」

 

「…はい」

 

語弊がある、配信業を始めたのでその記念に衛星通信で映画でも見ないかと誘ったりしただけである。あの時は記念すべき初の映画配信であり、別室で計器と睨めっこしていた配信業担当者達は成功に大喜びしていたような。

 

「またある時は同じ機内で過ごしもしました」

 

「機内、飛行機とかじゃなくて戦闘機動しまくる戦術機の中でしたよね」

 

試製四号を斯衛の全力でぶん回してくれ、機体への負担は考えなくてもいいと頼んだことはある。乗ってみたかったので後部座席にお邪魔したが、宇宙で三半規管を鍛えていなかったら死んでいた。

 

「食事だって同じ時に行うではありませんか」

 

「毒味兼ねてますからね」

 

もう最近は慣れて来たし、他の護衛の方にも囲まれながら食事をとるのもなんか将軍様にでもなったような気分だと思い込んで済ましている。

料理人さんは最近おにぎりと味噌汁、あと漬物くらいしか触ってないと苦笑していたっけか。

 

「なのに!」

 

「はい」

 

「隠し子がいらっしゃったなんて…」

 

「違います、僕は彼の父親でもミラさんとそういう関係でもないです」

 

話を聞くと政府の方でも大騒ぎになっているらしい、そりゃそうか。

その後秘書と共に関係各所へと誤解を解きに走り、ミラ氏とその子供に関しても秋津島で預かることをどうにか認めてもらった。

 

 

秘書は呆れた表情でこちらを見つつ、託児所(関係者の間では託児城とも呼ばれる)から連れ出して来たユウヤ君の面倒を見ていた。その様子はあかつきに滞在中のミラ氏に中継されており、画面越しではあるが母との再会に至り彼は嬉しそうだ。

 

「社長、もう奥さんの1人でもお作りになられたほうがいいですよ」

 

「俺は宇宙放射線で睾丸をやられてだな」

 

「そんな嘘は通じませんよ、何のために毎年の健康診断をやっていると思ってるんですか」

 

「…お前まさか検査したのか!?俺の俺を!?」

 




個人的には最高のデザインが出来た気がする。
試製四号改め、疾風をよろしくお願いします。
他の機体仕様に関しては次回です。

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