ですがちょっと今後の展開に悩んでるのでまたお休みを貰います、また書き溜めてから投稿を再開しますね。
その代わりと言っては何ですが、ハーメルンのボイスロイド読み上げ機能を使ってこの小説を読むのではなく聞いてみませんか?
読み上げ辞書機能を使い、マブラヴの用語や漢字などを世界観に合った読み方をさせるようにして行こうと思います。
秋津島開発の手により怒涛の勢いで世代交代が行われる日本帝国軍の戦術機事情はさておき、斯衛軍も当然ながら超電磁砲に興味を持っていた。
だが超電磁砲の性能を引き出すためにはそれ専用の装備を搭載した疾風の運用が不可欠であり、大幅に重量が増加してしまう専用の発電機を背負う際に発生するバランスの悪化は墜落の危険性を大きく高めてしまう。
「斯衛は対BETA戦闘能力の重要性は認識しつつも、近年の情勢を鑑みて対戦術機戦闘能力の必要性も感じているようです」
「重要地域の防衛が任務の一つだからな、その考えに至るのも当然か」
「なので帝国軍と並行しての疾風導入、鐘馗の一部を改修することによる対戦術機戦への適応能力向上を願うとのことです」
秋津島開発に送り返されて来たのは斯衛軍で使われていた鐘馗達で、定期的な大規模整備と共に改修を行なってくれとのことだ。幾つかの設計案が用意されており、これから細やかなところを詰めていく予定である。
「普通であれば決めてから機体を弄りますよね」
「普通ならな、俺達は生憎時間が無くてね」
納入された機体の頭部を取り外しておくようにと社員達に言い含め、斯衛側の技術者が集まる会議室へと向かった。
「移動中に向こうの設計案を教えてくれるか」
「対空誘導弾の搭載と誘導用のレーダー増設、戦術機に対して威力が過剰な36mmではなく20mmに口径を落とすことで継戦能力を底上げするとか」
「あからさまだな、誘導弾なんざ対人戦にしか使い道がない兵器を搭載したらどんな目で見られるか分からんぞ」
米国の戦術機開発構想に対戦術機が盛り込まれたことは日本に大きな警戒心を抱かせたようだ、BETA以外と戦う余裕などもとより無いというのに。
「それに空対空ミサイルなんざ今時使い道無いだろ、そんなもん作るか却下だ却下!」
「良いんですか?」
「そんなもん積んだせいで他の戦術機がミサイル対策用の装備を載せてみろ、BETAと戦うための兵器に余計なもん付ける気か!?」
戦術機に対人類用の装備まで搭載することが当たり前の世界にするわけにはいかない、悪いがミサイル開発には反対させて貰おうか。
ー
「…三時間経ってましたね」
「アイツらも本気だからな、まあこうなるのは分かってたさ」
精神的に疲弊した状態で会議室から出て来た面々は生気のない顔で食堂へと向かい、用意されていた弁当を食べていた。
隣のテーブルには斯衛の関係者が座っており、中々に空気は沈んでいた。
「で、社長の猛反対で通した案は何なんです?」
「BETA相手には役に立たん機関砲の搭載だよ、跳躍ユニットやら関節やらに当てりゃ戦術機なんざあっという間に火達磨さ」
戦術機の36mm弾と同じ排莢の必要がないケースレス弾と、発射速度を高めた12.7mm機関砲を二門頭部に搭載するという設計案だ。
センサが密集する頭部に機関砲を乗せるという奇抜な設計に斯衛の技術者は理解を示さなかったが、同時に配られたより詳細な資料により黙らされた。
「元々は戦車級の排除用に試作を続けてた機関砲だ、これなら対戦術機用じゃあないって言い張れる」
「…珍しく相手の意見を否定しましたよね、そこまであの案は駄目だったんですか?」
「矜持ってもんがあんの、俺はBETAを殺して宇宙開発を続けたいだけで人殺し用の兵器を作る気は無いってわけ」
これは自分のエゴではあるが、譲れない一線でもあった。将来的に超電磁砲が人殺しの兵器として転用されることは目に見えており、ミサイルもレールガンも同じではないかと言われれば言い返せる自信はない。
「疾風の納入は帝国軍と同じようにやるからさ、それで手を打って欲しいけどね」
「我々に蹴られたのであれば他の企業に手配するだけでは?」
「何十年もかけて実用化するころには超電磁砲が普及して、ミサイルなんざ撃つ前に戦術機ごと撃ち落とされるようになってるさ」
「レールガンの一件を引きずり過ぎですよ、自虐ですか?」
ため息をつきながら追加で貰ってきた味噌汁を啜る秘書、中々に余裕がある。
しかしこの建物の食堂は業務を終了していて食品の提供は行なっていないはず、どこで手に入れたのだろうか。
「お前それどうしたんだよ」
「社長が福利厚生だQOLだとか言って設置した味噌汁サーバーがあるじゃないですか、忘れたんですか?」
「…忘れてた」
斯衛と自分達しか居ない静かな食堂にポツンと設置された味噌汁サーバー、そのボタンを押せばあっという間に味噌汁が注がれた。冷たい弁当を食べた後だとどうにも身に染みる、忙しいからと今日の食事を弁当で済ませたのは間違いだったか。
「俺は地球だけじゃなく宇宙でも人が暮らせるような、誰もが夢に見る仕事をやってみたかったんだ」
「でしょうねぇ、起業した時から言ってましたし」
「まさか馬鹿みたいにデカいロボットが生産ラインを流れる様を監督したりするようになるとは思わなかったよ、正直な」
未だに自分は前世に引っ張られているのだろうか、それともただ罪の意識から逃げようとしているのだろうか。悶々とする思考回路だったが、聞き慣れた靴の音を聞き取り顔を上げるとそこには見知った人物が居た。
「お疲れ様です、社長」
「護衛さん」
「斯衛との会議は如何でしたか?」
なんとも言い出し難い、そんなもん積んでどうする気だと真っ向から批判して空気が悪くなって口論というより口喧嘩レベルで険悪な会議になったことなど。
「…い、いやぁ、建設的な話し合い…でもなかったか…」
「何か不味いことでも?」
駄目だ、隠し通せる雰囲気ではない。
秘書に助けてくれと視線を送るが、わざとらしく別の方向を向いて味噌汁を飲んでいるフリをしている。お前もうそれ空だろ、知ってるぞ。
「正直に言います、喧嘩しました」
「…それはそれは、一体何があったのですか」
その後は護衛さんが間に入ってくれたことで、こちらの言い分がやっと伝わった気がする。対戦術機能力が戦術機に求められることで起きるデメリット、それは自分が相手のことを頭ごなしに否定しながら話したとしても伝わらないのだ。
「護衛さんに助けてもらっちゃいましたね、社長」
「だなぁ、斯衛の人と話す時にはもう最初から呼んじゃうか」
「それはちょっと、駄目なのでは」
同じ国の人間でも立場が違えば考えも違う、改めてそう感じる一件だった。
尚改修された鐘馗の評判は頗る良かったと言っておこう、鍔迫り合いになった際に機関砲をぶっ放してセンサをぶっ壊してから一方的にとどめを刺す斯衛の衛士はちょっと怖い。