宇宙開発企業なんですけど!?   作:明田川

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投稿しないと言ったな、アレは嘘だ。
頑張れ護衛さん回です。


閑話 ハニトラ原子核

秋津島開発の社長がどんな人物かと言えば、案外よくいる普通の人という印象に落ち着く。宇宙開発に熱心で新しいことを色々と始める独創性の高い人物だが、決して高いカリスマ性だったり何かただならぬオーラを発しているわけでもない。

 

「たまにはいいですねぇ、ここの商業施設は行ってみたかったんですよ」

 

「そうとは知りませんでした、何処が気になったのかお聞きしても?」

 

「最上階にプラネタリウムがあるんですよ、社員が作ったものが搬入されていまして」

 

そんな彼は今、日頃から共に居るある人物と休日を過ごしていた。

いつものスーツやある時の斯衛の軍服ではなく、流行りの服に身を包んだ彼女は一見あの人とは分からないだろう。

そう、護衛さんである。

 

「店も見て回りたいですし、一階からゆっくり見てまわりませんか」

 

「良いですね、私もこの手の施設にはあまり入ったことがなくて…」

 

嘘である、既にあらゆる状況に対応するため業務終了後に無人となった商業施設で部下と共に何度も訓練を行なっていた。

 

「…何か動きはあるか?」

 

『マークしていた数人はこの施設に入ったと見て間違いないかと、距離は遠いですが恐らくは警護対象を視界に捉えられるような位置に移動していると思われます』

 

「場合によっては排除しろ、こちらはこのまま続ける」

 

秋津島開発のロゴがデカデカと印刷されたTシャツに首を傾げる社長を尻目に部下へと指示を飛ばしていた。いつ誘拐されてもおかしくない彼を護るのは中々に骨が折れる仕事だろう。

 

「オレンジ色、流行ってるな」

 

「社ちょ…菊池さん、どうかされました?」

 

「いやぁ、服を出すからって言われてロゴの使用許可を出したんですけどね」

 

彼の目の前にあるのは鷹の羽の家紋を模した秋津島開発のロゴが入った洋服メーカーとのコラボ商品だ。どれもオレンジ色が基調となっており、彗星や隼といった戦術機も意匠に取り入れられている。

 

「思ったより凝ってるなぁ、デザイン担当者がわざわざ技術館に通うわけだ」

 

「これは、中々良いですね」

 

派手なものもあれば、秋津島開発のロゴが主張し過ぎない程度にデザインされているものもある。そのおかげか秋津島開発コラボフェアは成功しているようで、服が積まれていたであろうスペースは既に空になっている場所も多い。

 

「…買って帰ろうかと思ったけど、社長がこれ着るのはちょっと駄目ですかね」

 

「何故です?」

 

「いやその、自己主張が激しそうに見えるかなって」

 

彼は今上等そうなスーツとコートを着ているが、柄や色は地味だ。

服も秘書に怒られてからやっと良い物を身につけるようになったらしく、着飾る趣味はないらしい。今や世界で有名な人物の1人なのだから他人からの視線を気にしろと言われたとのこと、ごもっともな話しである。

 

「そこまでお気になさらずとも、折角の機会ですし試着されてみては?」

 

「…そうですね、すみませぇーん!」

 

よりによって一番人気のTシャツを手に取った彼だが、背中にデカデカとロゴが印刷されていることに気がついていない。恐らく胸側が見えるように畳んであったためだろう、普通背中も見ると思うのだが彼は今世でマトモに服を選んで買ったことが無かった。

 

「どうです?」

 

「こ、これは、とてもお似合いですよ!」

 

「そうですかねぇ」

 

試着室の鏡が彼の背中を写し大きく印刷されたロゴが見えた瞬間、護衛さんは笑いを堪えながら笑顔を浮かべた。

 

 

「…どうだ?」

 

部下達は上司のデート大作戦に付き合わされていた、そろそろ付き合うんじゃないかと思われていた彼女だが先日の一件で遂に出かける約束を結ぶことに成功した。

 

「服買ってますね」

 

「見りゃわかるだろ、そうじゃなくてあの人は上手くやってるかってことだよ」

 

部屋で待ち構えて刀で脅すとはまあ中々インパクトの大きいことをやらかしたが、社長も悪いと思ったのか気まずいながらも誘いを持ちかけたそうだ。

 

「見てる分には秋津島のトップと武家のお嬢だとは分かりませんねぇ」

 

「社長の雰囲気に当てられたんだよ、前はもう少し尖ってたさ」

 

不届者に天誅を下した後、護衛達はデートの様子を観察することにした。

密かに始められたトトカルチョでは護衛さんから告白するが8割、社長からが2割の状況だ。

 

「まあ社長殿を落とすのなんざ簡単だとは言ってたが、いつの間にか生娘みたいになっちまってなぁ」

 

「実際は奥手だったとは、まあ笑いましたね」

 

二人は氷菓子の店に立ち寄り、それぞれ違う味を頼んで楽しんでいるようだ。

社長の方は全くもって自然体だが、今になって男女二人で出かけているという事実を職務抜きに理解したのか護衛さんの方はどこか緊張し始めた。

 

「そこは最近の若い男女みたくこう…食べさせあったりだなぁ!」

 

「押せーッ!護衛隊長、押せーッ!」

 

「ここぞという時で日和やがって!」

 

「武家の女は揺るがないとか言ったの何処のどいつだよ!」

 

「服も赤いのに顔まで真っ赤になっちゃってぇー!」

 

本人に聞こえないからといって、コイツら中々肝が据わっている。

 

「今までは何かと邪魔が入ったからな、今回こそは上手く行ってほしい」

 

「前回はなんだったか…ソ連からの刺客でしたっけ?」

 

後から分かった話だが、社長を見るなりぶっ倒れた少女が居たので確保したという事件が数回あった。その後の調査を行う中で何故かソ連のESP能力者についても知っていた社長から情報提供を受け、脳内から直接機密情報を抜き取ろうとしていたことが分かって冷や汗をかいたことがある。

 

「災難でしたよね、脳を読み取ったらあまりの情報量にぶっ倒れるなんて」

 

阿頼耶識かアカシックレコードかというレベルの情報をぶつけられればそうもなろう、目覚めた後は度々発狂するらしく調査は進んでいない。彼の能力は技術チートの一言で済まされているが、正確にはあらゆる情報へのアクセス権を持ち尚且つ膨大な情報に対する検索性を持つというのが本来の…いや、やめておく。

 

「やっぱり天才は脳の作りが俺たちとは違うのかねぇ」

 

「パツキン美女の時もありましたよね」

 

「あの時はいつ隊長が刀を抜くか分からんもんでヒヤヒヤしたぜ」

 

米国の艦隊から降りて休暇を楽しんでいる(という設定だろう)刺客二号はやり手の男殺しに見えたが、社長は情報を抜かれるどころか逆に米国の戦術機事情を聞き出そうとするわ護衛さんはキレ散らかすわで散々な結果に終わっていた。

 

「…あの人には無機物の恋人でも用意した方がマシな気がしてきた」

 

「無機物の恋人なら最前線に腐るほど居るぞ、舐めんな」

 

尚恋人は電子音か警告音でしか喋らない、そういうことである。

 

 

護衛達はその後も見守り続けたが、手を握ったりそれとなくアタックを仕掛けるチャンスであるプラネタリウムの上映中も彼女はどきまぎしているだけだった。

 

「プラネタリウムとは初めてでしたが、とても綺麗な星空を屋内に居ながら見ることができるなんて」

 

「ええ、都会だと夜でも明るくて満天の星空など拝めませんから久しぶりですよ」

 

「やはり宇宙から見ると違いますか?」

 

そう聞かれた社長はどう答えるか悩み始め、少し経ってから口を開いた。

感想をどう言葉にするか悩んでいたわけではなく、何か別のことを口に出すかを悩んでいたように見える。

 

「重力から解き放たれた状態で宙に浮きながら見る星は格別ですよ、自分も星の一つになったかのような気分になれます」

 

「浮きながらとは、さぞ不思議な体感が出来るのでしょうね」

 

「そりゃあもう」

 

彼女はどうにか始めた話を繋げるべく必死だ、社長が僅かに見せた違和感に気がついていない。それは二人のことを見守り続ける護衛隊も同じであり、中々決定打を打てない彼女にやきもきしている。

 

「いいぞぉ、そのまま行ってくれ」

 

「暗い中で手の一つも繋げなかったんですよ、今になって押せます?」

 

「あの顔を見ろ、落ち着いて自信を取り戻してる」

 

あれは覚悟を決めた武家の目だぜと言い、また物陰に隠れた。

彼女は大きく深呼吸し、じっと社長のことを見据える。

 

「…どうされました?」

 

「何故私は護衛さん呼びなのでしょうか、私は菊池さんと呼んでいるのに」

 

護衛隊は息を呑む、遂に気になっていたところに突っ込んだ。

 

「名前でとは申しません、せめて私と同じように苗字で読んではくれませんか?」

 

「…あ、はい、巫さん」

 

今日のトトカルチョは護衛隊長改め、巫さんの勝ちとなった。

告白したというわけではないが、一歩踏み込んだのは彼女に違いないということで勝敗が決したのだ。

 

「(長かった…社長社長と呼び続けて幾星霜、遂にここまで!)」

 

「(読み方、かんなぎで合ってるよな…武家の苗字を読み間違えたら相当不味いぞ…)」

 

まあなんというか、社長が彼女のことをしっかり意識するようになるのにはまだかかるだろう。




恐れを知らなさ過ぎる部下達、まあ彼らも刹那を楽しんでおります。
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