追記
隼のデザイン画を変更しました。
第五話 日本帝国軍
日本帝国軍は対BETA用の新兵器、所謂戦術機を欲しがっていた。アメリカからのF-4購入の打診を受け導入を決定したが、やはり自国生産を行うための下地を整えなければ次へと繋げることができない。
そこで招集されたのはF-4開発に深く関わった自国企業である秋津島開発だ、F-4のライセンス生産を踏み台に独自設計の国産機を作るためには不可欠な要素だった。呼び出された秋津島開発はライセンス生産の協力を二つ返事で了承した後、あるプランを帝国に提案した。それはF-4を超える性能を持つ高機動戦術機の開発と運用という、彼らの期待を大きく上回るものだった。
「F-4を超える戦術機って、隼のことですか」
「彗星二型の理想像だ、やっと完成した」
実戦投入可能なまでになった世界初の第二世代機は未だ日の目を浴びずに居た。というかF-4の開発完了後、秋津島開発は計画から切り離されたのだ。
本来なら独占したかった戦術機の開発ノウハウだが、人類の危機という未曾有の状況下では手放さざるを得なかった。各国はライセンス生産を糧にゆくゆくは自国で戦術機を作り上げてしまうだろう。
そのため米国はF-4以降の戦術機開発を完全に自国内で行うことにし、F-4開発で培った技術の差がある内に他を突き放そうとしたのだ。その結果秋津島開発はあらゆる研究資料やら情報やらをむしり取られた上で米国から追放された、まあ元からかなり不安定な立ち位置であったし仕方ないとは思っている。
「F-4はポテンシャルはあるが、それでも最強な訳じゃあない」
「BETA相手に役立たずの装甲があるだけデッドウェイトですからねぇ」
重要部にルナチタニウムを使えば近接戦で一発貰っても即死しないかもしれない程度には剛性を保てる筈だ、それは米国も分かっていたからこそF-4の正面装甲には同じ材質が使用されている。だが問題なのはその重量と使用箇所だ、炭素系素材の約2.5倍も重い素材を大量に使うとなると機動性は著しく低下するだろう。
「米国は装甲を過信し過ぎている、アレでは攻撃を避けられない」
「戦車級に噛まれれば同じですしねぇ…」
月での戦訓を活かした機体を作ろうとすれば、あの形になるのも無理はない。
ルナチタニウムというなまじ優秀な装甲材が手に入ったことで、むしろ米国の戦術機開発に支障が出てしまうかもしれない。原作通り装甲を薄くした機動性重視の戦術機が生まれてくれるといいのだが。
「それに近接格闘戦をやるなら細身な方が有利だしな」
「兵装担架だったり、跳躍ユニットとの兼ね合いもありますしね」
戦術機は稼働部が非常に多い、そのため細身である方が動作時に各部位が干渉せず可動域を増やすことが出来るのだ。
「米国とは思想の違いで採用されなかった不遇の高性能機、そして帝国軍が喉から手が出るほど欲しい近接戦に向いた機体に食いつかない訳がない」
「ある程度の根回しは宇宙開発競争時のコネから終わらせてます、F-4と新型の二機種体制になることも恐らく合意されるでしょうね」
既に国外輸出を見据えた量産体制を整えることが計画に盛り込まれており、量産による価格低下と他国が持ち得ない新型機の存在を大いに利用するつもりでいるらしい。中々強かだと言わざるを得ない。
「政府は国内企業が戦術機開発を未経験であること、米国で生産された機体が期日通りに納入されるのかという二点の不安が大きいようですね」
「何処が前線になるのか未だ不明だからな、現時点でBETAがどのようにして攻めてくるのかも分かっていないのが問題なんだが」
落着ユニットと呼ばれるカプセルを使用して地球にBETAを送り込んで来るのだが、それはまだこちらの世界では確認されていない。撃ち落とすには専用の衛星が大量に必要となるため、一企業ではBETAの侵攻を未然に防ぐことは出来ない。
原作通りに進むのであれば落着地点は中国国内の筈だが…
「F-4の配備開始はまだ先だ、それよりも先にBETAが地球に来ちまうさ」
「月面はまだ陥落していないと聞いてますが」
「どうだか、サッサと実機をお見せして金と権限を引っ張り出すぞ」
この会話の3日後、中国にBETAが襲来した。
日時は原作と比べて2日遅れの1973年4月21日、多少のズレはあったもののBETAの地球侵攻は始まった。
それと同時に月面からの完全撤退が行われ、生き残った人達は撤退時の中継地点となったラグランジュポイント、秋津島開発宇宙港でBETAの手に落ちた月を眺めることになるのだった。
ー
新聞の一面を飾るBETA襲来の一文、中国は国連軍の受け入れを拒んだことも明かされた。ニュースと言えばBETA一色であり、中国軍の戦況や政府の動向などが語られている。
「…遂に来たか」
「今のところ優勢だとは聞いてますが」
「奴らがやられっぱなしな訳があるか、何かしら手を打ってくるぞ」
開発班と製造班がせっせと隼の実機を組み立てる中、中国がホームグラウンドでならBETAなにするものぞと一方的な戦いを繰り広げているが先は見えている。
「F-4の配備開始は予定通りならば来年の7月ごろ、それまでにどれだけの被害が出るかだな」
「月で使えなかった武装が使えますからね、かなり押しているようですが被害も確かに出ているようです」
やはり浸透してくる小型種を掃討しきれていない、強化外骨格を装備した歩兵は組織されたばかりで練度が足りないようだ。月の戦訓を活かそうとする動きはあるが、月と地球とでは勝手が違い過ぎる。
「彗星二型の方で行ったデモンストレーション、中々でしたね」
「戦術機の実物を見たことが無い奴らも多い、インパクトは充分だろう」
二型が機動性を披露した後、月面戦争時に記録した彗星の戦闘データを公開したのだ。誰もがその醜悪な姿と圧倒的な物量、機関砲を受けようとも突撃を続けるBETAに戦慄したように見えた。
「操縦士と他の兵士の悲鳴が混じった映像は相当応えたみたいだな」
「我が社の彗星が一番前線を経験してましたからね、この手の映像には事欠きませんよ」
このデモンストレーション後に開発班が製造中の隼を上層部に見せて回り、最後には地上へ唯一帰還することが出来た彗星を紹介した。初期型であったために後期型へと転換が行われた際に返還され、データ取得のため地上に下ろしてあったのだ。
「データ取りのためとはいえ、絶対に見せるために用意しましたよね」
「なんのことやら」
大小さまざまな凹み、BETAの噛み跡、砂を噛んだままの関節部、あらぬ方向へ曲げられた片腕、燃えた痕跡のある推進器、空のコックピット…
「無念だった、もっと昔から備えていればあんな機体で戦わせはしなかった」
「地上で二度繰り返さないために、発破をかけたと」
あの場には政府関係者、帝国軍、斯衛軍が一堂に介していた。
色々と思うところはあるが、今は斯衛仕様の機体をどうするか先に悩んでおくことにする。
色々宇宙開発で頑張っていた秋津島開発ですが、日本帝国という枠組みを超えて単独でアメリカの計画に参加していたため、それが気に食わない方もそれなりに居ます。