宇宙開発企業なんですけど!?   作:明田川

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第四十話 間引き

疾風の先行量産型は既に長時間の試験飛行を終え、次の段階である実地試験に踏み出そうとしていた。秋津島警備だったころを思い起こさせるオレンジと白の塗装に身を包んだ疾風は、戦線を維持する衛士達にとって英雄の帰還のように思われた。

 

「国連軍は疾風の作戦参加は可能かと聞いて来ていますが」

 

「武装試験機とは銘打っているが実態は正式な量産機だ、我々は実用に耐えると考えるが帝国軍も同じ考えらしい」

 

帝国軍の回答はオスカー中隊の指揮下でのみ可能、帝国軍軍機として作戦に参加するとのことだ。少数ではあるが帝国の最新鋭機としてお披露目する気らしい、試製四号で与えた衝撃にそのまま乗っかるつもりだろう。

 

「では我々は防衛線の正面に布陣、三番機の超電磁砲を用いて突撃級を殲滅します」

 

「三番機のデモンストレーションか、まあ有効なのはわかるが」

 

「補給機も増強されて8機増員されました、万が一の場合は彼らに疾風を回収して貰いましょう」

 

オスカー中隊は軍の思惑と秋津島開発がぶん投げてくる新兵器に振り回されることに慣れていた、ある意味日本人らしい適応の仕方だろうか。

 

「新型突撃砲、管制ユニット、AI用外骨格、自動救助システム…」

 

「機体は総入れ替えらしいです、また新品ですよ」

 

「あったまおかしいんじゃねえの、海外派遣する予算なんざ無いって言ってた奴は何処のどいつだよ」

 

部下は肩をすくめて首を横に振る、財源については考えない方がよさそうだ。

新たに増強された部隊は撃震で統一されていたが、背中には最新型だけが持つAI用外骨格格納庫が増設されていたのを見るに作られたか改修されたばかりだろう。

 

「ここに来ての部隊増強、是が非でもハイヴ攻略には手を出すつもりか」

 

「突入部隊は我々だけではありません、一番早く最奥の情報を手に入れた部隊を擁する国が大きな発言力を得るのは言うまでもないでしょう」

 

各国の対BETA戦略と政治的問題を孕んだ攻略作戦は再起の時を迎える、母艦級というイレギュラーの存在を橋頭堡確保の時点で察知出来たのは結果的に良かったと言えるのかもしれない。

 

「まあやるだけやるか、頼んだぞ小隊長」

 

「はは、任されましたよ」

 

 

防衛線の維持のため行われていたBETAの間引きだが、今回は今までよりも大規模な敵集団が誘引されてきた。軌道爆撃の回数を減らしたために母艦級はあれから姿を見せていなかったが、もとより厳しい弾薬の備蓄量は目減りしつつあった。

 

「出来る限りの時間は稼いでくれたのか」

 

「ええ、母艦級の攻撃で損害を受けたハイヴ攻略部隊は再編を完了しました」

 

三番機が超電磁砲を展開し、発電機が唸りを上げる。

数十キロ先の地平線に現れる筈のBETA群を狙うため、足裏のアンカーを地面に突き刺して機体を固定した。

 

「三番機、発射体勢!」

 

「そのまま待機だ、一番機は撃ち漏らした突撃級の対処を頼む」

 

二番機は通常兵器を装備しているため手持ち無沙汰だ、仕方なく二機の直掩についている。

 

「誘因担当の機体が通信圏内に入りました、BETA群の現在地も共有されます」

 

「多少引きつけて後続も潰せ、出来る限りの範囲で構わん」

 

「了解!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

超電磁砲の砲身を冷却するためのファンやラジエーターが途端に熱を帯びる。

追加の冷却装置を搭載した補給機が冷却水を通すためのホースを三番機と繋げ、冷却能力を底上げする。

 

『Beep…冷却装置稼働中、放熱部に近づかないで下さい』

 

「砲身温度正常値、電力系及び照準系問題なし」

 

「歩兵の近くじゃあ撃てんな、こりゃあ」

 

排熱のために稼働する排熱ファンは車程度なら吹っ飛ばしかねないような暴風を放っており、背後に立とうものなら…想像もしたくない。

 

「主砲の性能は前回の比じゃあないぞ、上手くいけば戦局を変えられる」

 

「威力は我々が誰よりも知ってます、上手くやりますよ」

 

全ての準備が整った、地平線から顔を出し始めた突撃級に照準を合わせる。

そして中隊長の言葉通り多少引きつけた後、引き金を引く。

 

「撃てェ!」

 

特徴的な発砲音と共に飛翔した弾頭は突撃級の外殻を粉砕、1秒ごとに発射され続ける砲弾は次々と敵を屠っていく。

 

「このまま横薙ぎにします、負荷は許容範囲内!」

 

「よし、やってやれ」

 

背部に冷却のため展開されたヒートシンクはこれだけの冷却設備を揃えても尚赤熱しており、機体の周囲は温度が急上昇している。これでは光線級が発生させるような積乱雲を形成してしまうのではと思えるほどだ。

 

「光線属種でも味方に居るんですかね僕らは、滅茶苦茶な温度ですよ」

 

「まあ…飛ばすものが違うだけで同じようなもんだな」

 

2分間の連続発射を行い、問題なくスペック通りの攻撃を終えた。

冷却は問題なく機能していたが、構造が複雑な給弾機構に不具合が出るのを防ぐために一度発射を止める。

 

「3分で冷却と点検を行います、少々お待ちを!」

 

「…死んだ突撃級で壁が出来てやがる、BETAの進軍速度が目に見えて落ちたぞ」

 

「抜けて来た突撃級は一番機が対処しています、全てを倒せるわけではありませんが中央のBETA群の勢いは削げたかと」

 

今のところ36mm弾を一発も撃っていないのにも関わらず、大量のBETAを一方的に撃破出来た。後続は押し寄せてくるだろうが、突撃級の亡骸を迂回するか乗り越える必要があるため砲撃で倒せる数も更に増えるだろう。

 

「バケモンだな、三番機は」

 

「ええ、アレを量産するなんて信じられませんよ」

 

砲撃機とは超電磁砲を担いで飛び回る発射台、格闘戦は視野に入れていないと秋津島開発の技術者は語っていた。BETAとの戦闘で格闘戦が発生しない状況などない、そう思っていたが常識が変わりそうだ。

 

「…どこまで先を見てるんだか、分からんな」

 

「我々が死ぬ未来を見ていないことを祈りますよ」

 

改修されたF-4が持つ中隊支援砲の砲撃が降り注ぎ、こちらに接近してくるBETAは更に目減りする。これでは長刀を抜く必要は無さそうだ、今のところ活躍の機会が無い二番機も出番が近づき張り切っている。

 

「敵の捕捉はコイツに任せてください、センサの性能はこの戦域で最高峰ですよ!」

 

『Beep!』

 

飛行訓練で疾風の足を擦っていた衛士は二番機に搭乗していた、あの後で思いの外早く機体特性をモノにしたのだ。

 

「お前は三番機の直掩だ、前に出るなよ」

 

「ですよね、分かってますよ!」

 

敵の規模は大きいが悲観するほどの戦況ではない、それどころか寧ろ楽観視すら出来る。三分の間自陣を守り続ければ超電磁砲の第二射が始まるのだ、後方に布陣する要塞級や光線属種を纏めて吹っ飛ばせる。

 

「疾風が前線に行き渡れば対BETA戦は変わるな、間違いなく」

 

良くも悪くも変わるだろう。

BETAがどのような対抗策を練ってくるのか、この時ばかりは薄ら寒くなる想像を追いやって前を見据えた。


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