オスカー中隊改めオスカー大隊が欧州で新兵器の実戦投入を行い、見事敵BETA群の殲滅に貢献したという報告が飛び込んだ。三番機の超電磁砲は正しく戦況を変える兵器になるだろう、とのことだ。
「で、疾風の量産体制はどうなったかと言われると…」
「肝心の超電磁砲が死んでます、地上での設備構築にあと数年は確実にかかりますよ」
「疾風自体はある程度生産が出来そうではあるんだが、まあ超電磁砲とセットで完成品みたいなもんだからな」
オスカー大隊に送る予備機はなんとか用意出来たが、日本が配備したと声高らかに言えるような状況ではないのは明らかだった。
「暫くの間は隼に頑張り続けてもらう必要がありますね」
「アイツかぁ、正直F-15とかF-16とかに転換しちまっていい気がするが」
「米国の新型ですか、確かに良い機体だと聞いていますね」
F-16は今年から、つまり1986年に配備が始められた戦術機である。
高額だったF-14やF-15と比べて低価格であり、旧式化が進む第一世代戦術機と置き換わる形での採用が既に各国で決まりつつあった。
「だがまあ、ダメなんだろ?」
「帝国軍くんからのおたよりが来ています、読み上げましょうか?」
「…頼んだ」
国内三社が本格的な量産を予定している隼の近代化改修を行い、性能の陳腐化を阻止し寿命の延長を図って欲しい。それが上層部からの要求であり、完全に性能で追い越されたことを危惧してのものであることも容易に想像出来た。
「隼かぁ、こっちは疾風で手一杯なんだが」
「アレをどう弄るってんです、正直言って後から色々と詰め込んだせいで大変なことになってますよ」
「うんまあ…それはそう」
正直新しく機体を用意した方がマシな気がするというのは間違いではないだろう、超電磁砲の運用能力を持たせないのであれば再設計機のコスト削減は大いに望める。
「まあごちゃごちゃした内部設計を刷新するってのが一つだが、それ以上に付け足すとなると困るな」
「装備を疾風と共有出来るようにハードポイントの規格を合わせるくらいですかね?」
「だな、正直シンプルな機体にすれば問題ないと思うが」
初期も初期に作った機体だ、米国の新型機が登場したことで一気に旧式化したのも無理はない。というかF-15が思った以上に性能が高い、機体は原作と比べて若干の大型化が見られる程度だが内部は相当違うようだ。
「F-15、隼と殴り合いで勝ったらしいですよ」
「格闘戦と言え格闘戦と、確かに凄い話だが」
「第二世代機相当の性能となると、今の状態からF-15と同等にしないと高性能化を果たしたと言えませんよね」
F-15Cと名乗ってはいるが、性能で見れば後世で第二世代機最強と謳われたF-15Eに近いほどだ。F-14の改良を共同で行った際に渡った装甲形成技術、隼の量産委託にて渡った内部設計その他諸々、ハイネマン氏に対して口を滑らせた幾つかの内容…
「俺のせいかな」
「何ですって?」
「なんでもない、忘れてくれ」
F-15にちゃっかりと近接格闘戦用のオプションが用意されている辺り、隼の顧客を奪う気は満々らしい。
隼の開発班は殆どが疾風開発に移籍し、残りは国内三社と量産の段取りに向かっている。そのため国外向けの改修に出せる人材が払底しており、競争力は皆無だ。
「改良するとなると、単純な反応速度の向上ならアレが使えますよね」
「光ファイバーか、アレは下手すると折れるからな…」
「あー、つまり配線周りは作り直しになると」
「再設計するとは言うけどさ、そこまで行くと本当に別の機体になるぜ?」
行動範囲の拡大や機動力の向上など求められる項目は多い、現状の追加装備でゴテゴテな隼では改修に耐えられないことは確かだ。
「…もういいや、いっそ別の機体にしちまおうぜ」
「えぇ」
「隼は弄れる所がもうないから仕方ないだろ、もうパーツを流用するって言って別の作ろう」
こうして量産のために隼を解析していた国内三社に連絡を入れ、軍部にはスケジュールの心配をされながらの再設計が始まり…一週間で終わった。
「よし、あとは試作機を作るだけだな」
「…なんでシェルターに籠ると戦術機の設計が完成してるんですかね、いつも不思議に思うんですけど」
「そこは触れてくれるな、俺も同じ気持ちだからな」
「それより記録媒体に入れるのが早いですよ、こんな複製されやすい物に易々と入れないで下さい!」
完成した隼改の設計図は隼のような効率化の極致に至ったかのような絶妙なバランスの上に成り立つ設計ではなく、疾風と同じハードポイントを持つために様々な装備に対応出来る汎用性と拡張性を兼ね備えた機体となった。
「…なんというか、シュッとしましたね」
「前は剛性の関係でスリムに仕上げられなかったからな、美脚だぜ美脚ゥ」
整理された内部構造は量産のし易さに繋がっており、恐らく国内3社による本格的な量産体勢が整えば旧隼と同じ価格帯で生産出来るだろう。これには部品製造技術の効率化や材料に関するブレイクスルーが要因でもあったりするのだが、超電磁砲開発様々とだけ言っておこう。
「まあいいでしょう、関係各所に設計図を渡してきますね」
こうして隼は姿を変え、BETAとの戦いを続けることになる。
度重なるアップデートがされ続けた旧隼はこれ以上の改修は施されないことになり、将来的には補修部品の製造のみに切り替えられるだろう。
「ハードポイントが同じなら疾風と装備の共有が出来ますね」
「疾風のファミリー計画に噛ませてもらう形になる、耀光計画から装備の提供は受ける予定だがな」
旧隼の生産設備を持つ国へはパーツを共有していること、操縦系統が変わらないために最低限の訓練で機種転換が行えること、何より秋津島開発がこれから開発を進める新たな装備のプラットフォームとなることを売りにしてF-16に対抗することになるだろう。
「売れますかね?」
「国内向けには生産出来る、売れなくても問題ないだろ」
隼更新の流れは大量の旧隼の払い下げを発生させ、流出した機体は先進国以外の前線国後方国で第二の機生を送ることになる。その結果様々な物語が生まれるのだが、それはまた後世で語ることになるだろう。