秋津島開発が今最も欲している資源といえば、G元素だ。
現在はカナダに落着したBETAの着陸ユニットを確保した米国だけが持つ物質であり、様々な分野において応用可能な夢の素材だ。
「これが打ち上げた資源探査衛星ですが、地球と月のハイヴの観測結果を見比べるとこのような類似点が見つかりました」
「なんだこれ」
「ハイヴの中央に何か未知の特性を持つ物質があるということですね、作られてから時間が経てば経つほどその物資の量は多くなるようです」
「ああ、G元素か」
ハイヴ内のアトリエと呼ばれる空間にG元素は生成されており、人類が手に入れることが…
「ちょ、ちょっと待て」
「はい」
「海王星作戦で攻略予定のハイヴにこの反応はあるか?」
「無いですよ?」
そう、すっかり忘れていたがハイヴであればG元素があるわけではないのだ。
フェイズ4と呼ばれる段階まで規模が拡大してやっと生成され始めるため、建設開始から1年と少しが経った今ではまだ存在しないことになる。
「忘れてたな、完全に」
「え、これG元素なんですか?」
「海王星作戦がこれ以上遅れることは無いだろうし、そうなるとG元素の確保は不可能か…」
「ねぇちょっと、本当にこれG元素の反応なんですか!?」
ー
秘書に対して根拠は明かさないがG元素で間違いないと告げ、ある計画を立案するために衛星軌道上の社員と通信を繋ぐ。秘密兵器を完成させるため、是が非でも確保しなければ未来はないのだ。
「と言うわけで、米国が独占する新元素を確保するための作戦を立てます」
「一体全体、何をどうやって確保するんです」
「ご丁寧に飛んでくるじゃないか、月からこっちに」
それは二度地球に飛来しているBETAの着陸ユニットのことであり、BETAを生産しなければならないために多くのG元素を内包している筈だ。米国もG元素を利用した兵器開発を行い結果を出していたのを見るに、あの中には相当な量が入っている筈だ。
「アレは迎撃用の衛星が大量に配備されたからこれ以上地球には落ちて来ない、だからどうにかして宇宙で捕まえる必要がある」
「落着ユニットの捕獲ですか、確かにやる意義は大いにありそうですね」
「米国が独占状態のG元素だ、成功した暁には山分けしようと言えば国連はこっちに傾くぜ」
捕獲作戦のために動員するのは秋津島開発が宇宙港にて建造したばかりの宇宙戦艦、これに捕獲用の装備を取り付けて勝負に出る。
「戦艦と巡洋艦であれば追加装備無しで月と宇宙港の往来が可能だ、今回の作戦にうってつけだろう?」
「捕獲用の装備というのは」
「MMUだ、あかつきで運用してる機体があるだろ?」
それはかつて月面にて戦った彗星の子孫であり、原型の姿を色濃く残した純宇宙用の機体だった。作業用だが有事の際に宇宙港の防衛も任務とするため、武装さえあれば戦闘も可能である。
「武装させるのですね、彼をあの時のように」
「ああ」
第一線での活躍はもう出来ないが、こんな形で彗星がまた矢面に立つとは誰も思っていなかっただろう。平和利用される戦術機第0世代、そんなキャッチコピーはもう使えなさそうだ。
「捕獲任務とは言うが、中に未知のBETAが収まっていない保証なんてないさ」
原作におけるラスボス、BETAの司令塔であるその個体はもしかするとこの中に収まっているかもしれないのだ。その場合捕獲に成功すれば、オリジナルハイヴを攻略するという作戦の根拠になるかもしれない。
「戦艦に超電磁砲を載せるプランがこうも早く承認されるとは思いませんでしたよ」
「デブリ破壊用って言っても信じてもらえませんからなぁ」
こうして秋津島開発は国連宇宙軍を巻き込んだ落着ユニットの捕獲作戦を立案、急速に戦力を整え始めた。原作の年表によれば3年後の1989年に着陸ユニットと思われる物体の迎撃に成功している、タイムリミットはそれまでだ。
「しかし戦闘が予想されるとなると、F-14って使えませんか?」
「F-14?」
「あかつきでの運用試験用に秋津島開発が購入した機体があった筈です」
F-14は肩部にミサイルコンテナ用の大きなハードポイントを備え、機体が大型であるために拡張性も燃料搭載量も多い。
「…あったな、改造されまくってた機体が」
試験の後は秋津島警備に移動となり、宇宙港での対テロ戦闘用に改造されていた機体があった。治安維持用の装備に換装したMMUと共にパトロールなどの業務に当たっている。
「非公式名称で流星と呼ばれていましたよね、試作された宇宙用武装も運用されているとか」
「社長、私そんな予算を組んだなんて聞いてませんよ」
「…いやー、その」
社長が秘書に詰め寄られ、少し宥めようとした後にすぐ諦めて白状し始めた。
将来的な宇宙での活動におけるMMUの装備をどうするかというのは度々議題に上がる内容だったため、色々な名目で社長が設計図を出力しては宇宙港にぶん投げていたそうだ。
「カッコいいじゃん?」
「馬ッ鹿ァ!」