「社長、何を見てるんですか」
「耀光計画の資料だよ、見るか?」
国内3社が進める新型戦術機開発は米国の戦術機開発計画を基準にした上で、更に日本帝国独自の思想さえも盛り込まれた難易度の高い物だった。
「空力の利用って、一体なんです?」
「戦闘機の翼と同じだ、機体の一部を動かすだけで姿勢制御を行うっていう技術だな」
「戦術機と戦闘機は違いますよ、風を受けるにしたって大抵の戦術機は航空力学的に飛べる形状じゃありません」
秘書の言うことは最もだが、あることを見落としている。
そう、戦術機は飛んでいるのである。
「飛べる形状なんざ関係ねぇよ、馬鹿みたいに強力なエンジンがありゃ下駄でも大陸を横断できらぁ」
「極論ですよ」
「極論だとも、現に人類はそれを可能にする技術を持っている」
戦術機の跳躍ユニットは宇宙開発により生まれた技術の結晶であり、それは戦術機の巨体をたった二基のエンジンで自由自在に飛ばすほどだ。
「大前提として飛んだんだ、ならもう次は空力を考えてもいいだろ?」
「…そう言われると、確かにそうですね」
「時代は効率化だ、空力での制御が出来なくとも空気抵抗が減らせるってだけで万々歳だしなぁ」
空力の利用に関しては賛成派だ、戦術機の航続距離を伸ばせるのなら是非やるべき分野である。何せAIの補助が思った以上に役に立つ現状では、多少扱い難い機体だろうと補正してくれるため操縦性の悪化は許容出来るのだ。
「疾風はデカくして燃料を詰め込んで解決したが、効率良く飛ぶ方がスマートだろ?」
「それなら軽量化にも繋がりますね」
「まあ…18mの巨人を風洞に入れて試験出来れば楽なんだがなぁ」
そんな馬鹿でかい試験設備はまだ日本には無い。
「しかし性能はどれほどになるんです?」
「良い機会だ、昔の戦術機とも比べて解説しよう」
ミーティングの際に使ったホワイトボードを引っ張り出し、雑な図を描く。
そこには戦術機の分布が描き込まれ、縦軸と横軸を値段と性能に割り当てる。ちなみに隼改は装備を取り付けていない素の状態で定義してある。
「機体は抜粋させてもらったが、まあ大体はこんな感じだな」
「F-16、なんか異様に安くありませんか」
「怖いよな、ってのは冗談でまあ勿論理由がある」
高額なF-15と比べて低価格なF-16だが、決して劣化版というわけではなかった。小型かつ軽量であるという点は大きなメリットであり、既に近接格闘戦では欧州連合軍の隼に勝利している。
「装甲というか外装が殆ど一体形成なんだわ、軽い硬い安い作りやすいと来た」
「…えっ?」
「F-14の改良する時に教えた一体成形技術、アレを独自に進化させたってわけ」
開き直って3Dプリンタにて製造しやすいように部品を設計したり、プリンタ自体も秋津島開発からライセンス生産の許可を得て売りまくるなど転んでもタダでは起きない商人魂を見せつけて来た。
この価格低下には材料工学における技術的なブレイクスルーも関わっていたりするのだが、これに関しては割愛する。
「軽くて小さい機体に第二世代機相当の跳躍ユニットがあればもう最強、隼に勝る性能を安く手に入れたってわけだ」
「隼改は勝てます?」
「微妙、五分五分じゃねぇかな」
だがまあ隼改は導入コストの安さとこれまで積み上げて来た信頼を武器に勝負する、カスタマイズが可能な各部位を別に必要とするため下手すれば安くなった分も吹っ飛ぶかもしれないが…
「部品を流用してるからな、拡張性は兎も角性能が旧隼に引っ張られているのは否めない」
「追加装備で何処まで性能を高められるか、ですね」
隼改は装備によって間引きの際に発生する射撃戦、ハイヴ突入や光線級吶喊で発生する近接格闘戦の二種に対応可能だ。小型であるために拡張性に乏しいF-16に比べて部位ごとのアップデートが可能な点は強みだろう。
「まあ第二世代機の話はここら辺にして、次に行くぞ」
「次?」
ホワイトボードに追加で描き込まれたのは第三世代機という文字だった。
「こうなる」
「耀光計画、ハードル滅茶苦茶高くないですか?」
「だよな、俺もそう思う」
高すぎる軍からの要求に苦しむ国内3社は大変そうだが、我々も超電磁砲を量産しなければならないという難題と戦っていることを忘れてはならない。
「…超電磁砲の配備開始が90年代になりそうって笑うよな」
「疾風だけが生産されて倉庫で保管とか笑えないですよ!?」
大変なのは何処も同じである。