宇宙開発企業なんですけど!?   作:明田川

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結構大きなイベントに辿り着いたぞ、ある意味歴史の転換点。


第四十三話 異機種間戦闘訓練 前編

「帝国軍の主力機ってどれなんですか?」

 

「…撃震、だったっけな」

 

社長と秘書はあまりの激務にぶっ倒れつつ、護衛さん達に介抱されながら社長室のソファーで天井を眺めていた。普段ならこんなことにならないのだが、今月は偶々スケジュールが混み合っていたのだ。

 

「数の上で一番多いのは撃震ですけど、性能で言えば隼ですよね」

 

「撃震は拡張性が高いが設計は古いからなぁ、何かに代替されるとは思うが」

 

「隼改とかですかね?」

 

「隼改は旧隼との代替になるだろ…」

 

本来ならば現実逃避に仕事とは全く別のことを考えるものだが、帝国軍の主力機について考えるあたり完全にワーカーホリックである。

 

「日本の防衛を担うのは撃震だ、隼は機動力を求められる攻撃やら要撃やらを担当してるが数は少ない」

 

「防衛となると疾風が撃震の立ち位置に?」

 

「いや、コストが高すぎて全面的な入れ替えは無理だろ」

 

では時代遅れとなりつつある撃震の後釜はどうなるのか、彼らはふと気になってしまったのである。

 

「菊池さん、お茶をお待ち…」

 

「撃震を退役させ売却したとして、低価格なF-16を持ってくるとか」

 

「だから上が許さんのよ、旧隼の製造ラインも解体する予定だし本当に代替機が見つからねぇな」

 

「F-4って優秀だったんですねぇ、欧州のような改造を…」

 

二人は疲れを忘れて話し始めており、それを見た巫さんは固まった。

明らかに顔色が悪いし、身体の動きも疲労からかぎこちないのに表情は笑顔そのものなのである。

 

「寝てください!今すぐ!」

 

「あー、機材の設計が終わってないんですよ」

 

「私はまだ隼改に関する関係各所との調整が…」

 

社長は受け取った湯呑みからお茶を飲もうとしたが、手からすり抜けて膝にぶつけた。多少冷ましてあったとはいえ、熱いお茶が足にかかったことで身体が大きく跳ねた。

 

「熱ゥ!」

 

「何してるんですか、もうちょっと…」

 

悶絶する社長を見て笑う秘書も湯呑みを落とし、足の甲に直撃したことで同じく激痛に襲われた。

 

「がっ…ぐっ…」

 

「嘘でしょ、こんな…」

 

大の大人が二人して湯呑みを落として痛みに悶えている、その光景はある意味ホラーである。

 

「(地獄です、ここは正しく地獄…!)」

 

出張先に向かう途中のシャトルで寝るから大丈夫だと睡眠時間を削った彼らだが、急遽行われた帝国軍との会議があったために寝られていなかった。その後何度か寝られるタイミングがあったものの、珍しく宇宙施設の視察を行っていたためにテンションが上がっていて寝付けなかったらしい。

遠足前の小学生じみた理由である、それが彼の原動力でもあるのだが。

 

「やっぱり次期主力機は…」

 

話の続きをしようとした秘書を巫さんが遮った。

 

「意地でも寝かせますからね、スケジュール変更が無いよう軍には私から一言言っておきます!」

 

「やめてぇ…斯衛は帝国軍とあんまり仲良くないでしょうに…」

 

二人はその後護衛隊が何処からか用意して来た布団に包まれ、どうにか寝ることになった。社長は寝言で延々と戦術機に関して支離滅裂な解説のような何かを喋り続けていて、見ていた者達は人間は寝ないとおかしくなるのだなと感じたそうだ。

 

 

充分な睡眠と食事で復活した二人はまた主力機の話に戻っていた、その理由は帝国軍も撃震の代替機をどうするか悩んでいるという話が聞こえて来たからだ。

 

「隼改の量産が軌道に乗れば将来的な機体の置き換えは出来ると思うが」

 

「隼改と入れ替えられた旧隼と置き換えては?」

 

「完全に入れ替えるには数が足らん、それに維持にかかるコストを減らすために隼改を作ったのに古いのも使ってたら本末転倒だ」

 

帝国軍は国内3社による戦術機開発に対して懐疑的な目を向ける者も増えて来ており、このまま秋津島開発以外の国産機の開発を続けるか否かという瀬戸際まで来ていた。

 

「それもあってか、帝国軍が米国と模擬戦をやるらしいじゃあないですか」

 

「次期主力機の選定ってヤツか、何と何が戦うんだ?」

 

「瑞鶴とF-16、疾風とF-15です」

 

「なるほ…えっ?」

 

先送りにされていた模擬戦の舞台はなんと日本になっていた、それもかなり重要な場においてだ。

 

「なんでF-15と疾風が戦うんだよ、機体の役割は全くもって被らないぞ」

 

「米国側の要求らしく、帝国軍も了承したとかで」

 

超電磁砲は威力が過剰であり、模擬戦で使えば最低出力でも戦術機を撃墜しかねない。以前行った隼との模擬戦では弾頭を軽量化しペイント弾を取り付けたものを使用したが、マトモに飛ばないためにレーザー光による判定に切り替えたという事例もあった。

 

「戦術機開発で鎬を削る国の最新鋭機同士、戦わせたい者なんて幾らでも居るでしょうに」

 

超電磁砲量産の難航と、それに伴う制式化の遅れに対する米国のF-15売り込みの激化。囁かれつつあるG元素利用型レールガン開発、対人戦闘能力を盛り込まれたATSF計画から生まれる戦域支配戦術機…

 

政治的な思惑が入り乱れた今回の模擬戦、負けるのは疾風の今後を考えると不味いことになるかもしれない。

 

「そうだが、超電磁砲を使えるかどうかで話は変わってくるぞ」

 

「使えない場合はどうしますか、我々に不利な条件になる可能性も…」

 

「その時は俺達も理不尽をぶつけるだけだ。動かせるプリンターとユニットは総動員、意地を見せてやろうじゃあないの」


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