国内3社が有する独自の機体と言うと、斯衛が運用するこの瑞鶴である。当時初めての戦術機開発は困難を極め、F-4の強化改修型にするという妥協案の末に完成した機体だ。
自分が初めて開発に関わった戦術機でもあり、今も私は瑞鶴の改修チームに在籍している。
「…黒い瑞鶴、カッコいいじゃあないの」
その機体を見上げるのは秋津島開発の社長とその秘書、戦術機開発における第一人者にして今も尚トップを走る男達だ。
「この試験場で色々と調整を行うそうですよ、我々も頑張らねば」
「時間があれば見たいな、いつ見ても面構えの良い機体だよ」
妥協案だったとしてもその性能は侮れず、同じ第一世代機である撃震とは一線を画す機動性を持つ軽量かつ強力な戦術機だ。次期主力機開発に必要な技術の蓄積にも一役買っており、今も改修が続けられる日本にとって特別な意味を持つ機体でもある。
「度重なる改修にて性能は旧隼に迫るとか」
「へぇ、F-4のフレームでそこまで…」
この場にいる自分を含めた技術者が彼らに向ける眼差しは羨望、期待、尊敬、嫉妬、疑念などなど様々であり、多くの注目を集めるのも無理はなかった。
「んで、試合の内容は?」
「模擬戦は二度行われるそうで、超電磁砲の使用は前半戦のみだそうです」
国内3社と秋津島開発は同じ格納庫に機体を搬入したが、向かい合う機体の差は歴然と言えた。かたやF-4の改修機、かたや超電磁砲を運用出来る最新鋭機となれば面白く無いだろう。
「問題は後半戦か、こいつはどうしたもんかね…」
今回の模擬戦では国内3社が進める耀光計画の今後がかかっており、瑞鶴がF-16に対して太刀打ち出来ないとなれば計画は打ち切られるだろう。対外的な影響力を産んでいるのは間違いなく秋津島開発製の戦術機であり、欧州に撃震の中隊が送られても注目度は変わらない。
「空間制圧用の試作兵装があったろ、アレの弾頭をだな」
「アレ使うんですか、ハイヴ攻略用ですよ?」
「いいだろ、実弾なら試験区画が丸ごと吹っ飛ぶが訓練用にすれば…」
当初こそ秋津島開発と米国の繋がりを警戒して国内3社による戦術機開発は重要視されていたが、圧倒的な実用化の速度は上層部の感覚を完全に狂わせた。やっとのことで完成した瑞鶴も生まれた時から隼や鐘馗という明らかに上位の機体が存在していたのだ、ある意味不遇とも言えるだろう。
「二番機を超電磁砲無しで調整、バランスに関しては飛ばしてみないと分からんが載せられるのは間違いない」
「…まあ失敗しても盛大な新兵器の発表会にはなりますかね、分かりましたよ社長」
常に優秀な兄と比べられた弟、それが瑞鶴の立ち位置だ。
斯衛の戦術機開発計画にて製造され、その計画には秋津島開発も参加していたがあっさりと鐘馗を完成させていた。何処で差がついたのか、何故ここまで速度が違うのか…
「まあなんだ、気負わず行こう」
秋津島開発には同じ技術者として少しばかり嫉妬している、それがあまりに身勝手な物だとは理解しつつもだ。
ー
模擬戦当日、瑞鶴とF-16は配置に付いた。
瑞鶴は出来の悪い弟ではない、未来への礎となる吉兆の証だと信じて中継映像を映すモニターにしがみつく。
「…これは」
瑞鶴に搭乗する巌谷大尉は機体の弱点である腹部への攻撃を読み、なんと短刀にて防御した。AIの補助あってのものか、彼の類稀な操縦技術の賜物なのかは分からないが流れが変わった。
「嘘だろ」
「やれるのか?」
反撃に出た大尉は僚機と共にF-16を追い詰め、性能の差をものともせず互角以上の射撃戦を展開した。その結果損害を出す前に相手を一機撃墜、数分持ち堪えるのがやっとだと言う下馬評を覆した。
「…やれるじゃあないか、瑞鶴は」
無論衛士の腕と奇策あっての状況だが、彼らの操縦に応えるだけの潜在力はあったのだ。
『胸部損傷、撃墜判定!』
僚機を失ったF-16は果敢に攻め続ける瑞鶴の猛攻に耐えかね被弾、遂に撃墜判定となった。何処か負けるだろうと思っていた者達はその結果に驚き、勝利を信じていた者達は自慢げに頷いていた。
「いい機体ですね、瑞鶴は」
「ええ、自慢の…」
言葉を返そうと隣を見ると、そこには笑いながらこちらを見る秋津島開発の社長の姿があった。
「…えっ」
「ああ失敬、驚かせてしまいましたかね?」
そういえば私は有名人でしたねぇと笑い、紛れるにはこの制服も場違いだったとオレンジ色の作業服を叩く。
「何故ここに?」
「彼女の勇姿を見るためにですよ、愛されて育ったのがよく分かります」
瑞鶴の人命を尊重する設計、誠に感服しておりますと彼は言う。
あの脚部設計は秀逸だとか、跳躍ユニットの高出力化を行った手口は真似したいくらいだったとか瑞鶴を褒め倒すのだ。
「貴方は鐘馗を作ったでしょう、何故そこまで他人が作った瑞鶴のことを」
「…鐘馗は先に繋がる機体が無いですから、次の子を見据えて作られた彼女のことを少しばかり羨ましく思うのですよ」
鐘馗はもう拡張性を使い切ってしまい、先が無いと彼は言う。そしてその系譜を継ぐ機体も鐘馗からではなく、最早別物となった隼改から作られることになるだろう。
「まあなんと言いますか、ね」
彼は一時の要求に応えるため先のない機体を作ってしまった、そのことに負い目を感じていると言う。
「そこを気にされるとは」
「やっぱり変ですかねぇ?」
「…いえ、貴方らしいと思いまして」
隣の芝は青い、ということかもしれない。
最もそれは見間違いではないのだろうが、少なくとも我が家の芝は昔から枯れてなどいなかったのだ。