後半の演習だが、前半とは設定が違う。まず使用する演習場は前半よりも狭く、面積は半分ほどで必然的に近接戦になることが挙げられる。
「衛星通信、感度良好」
また高度制限もかなり厳しく、建物よりも高く飛べばレーザーの照射警報が鳴り響く設定だ。つまり今回は疾風が完全に不利な状況である。
『こちらも問題なし、やるか?』
「これは重い、さっさと軽くしよう」
相手は流石米軍機というべきか、障害物に身を隠しつつ索敵をしながら前進している。さながら人間の特殊部隊を連想するような巧みな動きであり、彼らと正面から撃ち合えば勝てるか怪しいだろう。
『まあ超電磁砲が無いから律儀に突撃砲で撃ち合います、なんて言ってないからな』
「火器管制はそっちに繋ぐ、任せた」
『任せろ任せろ、軽くなったら護衛頼むぞ?』
ライトニング2は衛星というより観測装置を搭載した宇宙船から得た情報を元に敵の位置を特定し、一番機のミサイルを発射させた。背部に搭載されたミサイルコンテナからは"開発班試作品"と書かれたままの飛翔体が放たれた。
『まあ米軍には見覚えのある兵器だろうな、猫が肩に載せてたヤツさ』
「クラスターか」
『対BETA用だが、狭い演習場なら戦術機相手にも効果覿面!』
空高く飛び上がったミサイルは入力されたデータを元に目標地点へと飛行、そして弾頭が一気にばら撒かれる。ただでさえ多い子弾だが、今回は三発同時に発射されているために密度は尋常ではない。
『悪いなァ!我らが社長殿からの贈り物だ!』
F-15のレーダーが飛来物を検知し上を見ると、そこには大量の弾頭が空を埋め尽くしていることだろう。あとは弾がなくなるまで撃てばいい、負けても何も問題はないとのお達だ。
『衛星からの映像見たかよ、障害物が緑色だぜ!?』
「…これはひどい」
『移動する敵機無し、だが撃破判定が出ねぇな』
恐らく脚や跳躍ユニットといった移動方法を破壊したが撃破には至らなかったのだろう、咄嗟に障害物を使って防がれた可能性がある。
『次だ、多目的自律誘導弾を使うぞ』
「ああ」
『相手には悪いが、まあ次は突撃砲で戦うことって項目を追加しておくのをお勧めするぜ』
続けて放たれたミサイルによりF-15は撃墜判定となり、演習場から出て来た機体はほぼ全身がペイント弾の緑色に染まっていた。試合を見ていた者達は誘導弾は光線級に撃墜されるだの、高度制限の意味がないだの、衛星を使うのは駄目だのと大変なことになっていたが…一番大変なのは清掃を担当する者達である。
「やっと終わった」
『だな、明日からが楽しみか?』
「ああ、交流戦はまだ続く」
そう、これから一週間は帝国軍と米軍の戦術機が交流戦を行うのだ。この演習に参加していた瑞鶴以外にも撃震や隼も参加し、仮想訓練装置を利用したものにはなるが対BETA戦を想定したシナリオも試されるらしい。
「あの衛士とは共闘してみたい、いい動きが見れる」
『だろうな、こっからは仲間だし仲良くやりたいが…』
カメラの望遠機能を使って格納庫に運び込まれようとしているF-15を見ると、外で洗うためかホースが運ばれて来ていたりとてんやわんやだ。
『あれじゃあ、なあ?』
ー
未だどちらの勝ちか議論が続けられる演習の後、あの時のF-15と疾風は今一度戦闘訓練を行なっていた。一番機同士の一対一、超電磁砲は無しで突撃砲は二丁だけというシンプルなルールだ。
「1、2…」
『やっぱり速いな!』
「3!」
タイミングを測って突撃砲を放つが、F-15はそれをひらりと避ける。AIによる行動予測は役に立たず、相手は意図的に回避方法を変えつつ戦っているのが分かる。
『最高だ、やっぱりこうじゃあないと!』
「同感だ」
純粋な操縦技術のぶつけ合い、双方の実力が拮抗しているが故に起きる長期戦は双方の人々を熱狂させている。
「F-15がパワー負けしている?」
「秋津島の戦術機、正に化け物だな」
超電磁砲の運用に耐えるために設計された疾風は圧倒的なパワーを見せつけ、F-15を速度とトルクで上回る。
「…隼より動けるな、あれは」
「F-16も恐ろしい機動力だった、あそこまでとはな」
F-15は疾風以上の機動性と類稀な砲撃戦能力で的確に疾風を抑え込み、根本的な推力差を打ち消した。
「楽しいな、これだから良い」
機体を地面と水平になるよう仰向けに倒し、減速することでF-15の下を潜り抜ける。そのまま足先から上に起き上がり、またもや上下逆さまになってF-15の背中を捉える。
『こなくそッ!』
「…対応された」
相手は即座に後退、背中をぶつける勢いでこちらに迫って来ている。この状態で撃てば自分諸共吹っ飛ぶのは明白、これでは撃てない。
『お…らぁっ!』
少しの間を挟んで放たれた膝は手に持った突撃砲に当たり、衝撃を受けて体勢を崩すよりそれを手放す方を選ぶ。
「やられた、凄いな」
『そっちこそな、誰だよ疾風が動けねぇっつった奴は!』
「疾風は動けるぞ」
『ここ数日で思い知らされたわ、忘れたとは言わさねぇぞ』
F-15はこの近距離でリロードを選択せず、弾切れになった突撃砲を投げ捨てて腕部のナイフシースを展開する。前線国向けに用意されたオプションだが、膝部の格納庫でナイフが圧迫していた分を弾薬に置き換えられるため人気はあるようだ。
『インペリアルアーミーの十八番、近接格闘戦と行こうか?』
「ならば米国軍のナイフ捌きも見せてくれ、
砲弾と斬撃を交わした彼らは既に友人同士だ、米国機は力の差を理解しつつも身軽さを前に出して手数で相手を押していく。対する疾風は持ち前の反応速度と力で要所要所での攻撃を狙う。
「…凄いな、互角だ」
「だが疾風が戦えてるのは衛士のお陰だ、足元を見ろ」
「足元ぉ?」
見物していた者達が見たのは、少しずつ後退りをする疾風の脚部だった。猛攻に耐えきれず、少しずつだが背後の障害物にまで追い込まれようとしている。
「飛べばいいだろ、なんで仕切り直さないんだ」
「野暮だろうが、アレは純粋な殴り合いだよ」
本来なら戦術機同士での近接格闘戦、ましてや短刀での戦いなど滅多に起こらない。そんなことなど二人も分かっているが、どこまでやれるのか気になってしょうがないのだ。
「…これは凄いな、米国の鷲は練り上げられている」
『そっちはそっちで、暴風圏もいいとこだがな!』
遂に追い詰められた疾風は短刀を弾き飛ばされ、訓練用に刃が潰された短刀が胸部の塗装をほんの少し削る。
『…やられた』
しかしF-15の衛士は勝ったとは言えない、短刀を失うことを読んでいた疾風は即座に蹴りを繰り出していたからだ。疾風の脚部が当たっていればナイフが装甲を切り裂く前に機体は蹴り飛ばされていたかもしれない、故に引き分けだ。
「すまない、脚が出てしまった」
『脚を使わない格闘家が居るかよ、まあ悪かったと思うなら…』
「なんだ」
『秋津島の飯を奢ってくれ。今日は飯が別なんでな、他の奴より先に食ってみたい』
「いいとも」
政治的な思惑や秋津島開発の策略など様々な要因が絡んだ今回の演習だったが、戦術機を通して衛士達は交流を深めることが出来たのは間違いない。帝国軍の精強さは示され、米国軍の強みもまた示された。
今回の結果がどう未来に関わるかは分からない、だが少なくとも二人は通じ合ったのだ。
「…これがなんだ、ウマミってやつ?」
「Beep?」
「お前、食堂にもロボットを持ち込むのかよ」
「連れているだけだ」
「同じだ同じ!」
…恐らくは。
またなんだ、すまない。
というわけでノートPC君が修理に旅立ちました、症状はヒンジ割れです。
一から二週間で帰ってくるそうですが、恐らく修理出来ないので新品になるとのこと。保険に入っていて良かった、今度から持ち運ぶのはやめます。