欧州戦線にて活躍を続けるオスカー大隊だったが、無論被害は大きかった。部隊の維持に成功しているのは一重に派遣開始からの生き残りが未だ戦場に残り、傷を負ったものは次なる部隊員の育成のため本土で戦っているからだ。
「…で、これは?」
「中国大陸への派遣部隊、その損害です」
「全滅どころか、これじゃあ壊滅だろ!」
秋津島開発は戦術機に関するスペシャリストであり、その分野で何かあれば国内三社共に呼ばれるのは良くあることだ。しかし今回持ち込まれたのは大隊規模の戦術機がどのように撃墜されたのかという無惨な記録であり、あれだけ苦心して装備を作り上げたのにも関わらず生還率は低かった。
「あくまで支援を目的に派遣された部隊で、近接戦は得意な編成じゃあなかったのか」
「そうですね、帝国軍の編成と照らし合わせると突撃砲の門数を重視してます」
「なのに撃墜された要因が突撃級に要撃級と、どうしてコイツらに接近戦をやらせた?」
防衛線の崩壊によりBETA群の浸透を許し、掘削による予期せぬ奇襲により帝国軍部隊は孤立したとのことだ。今回の被害は帝国軍だけに留まらず、人民解放軍の正面戦力も多くが包囲殲滅され…
「ごっそり半数が消えてなくなりやがって」
「機動力に劣る撃震の損害は甚大です、前衛を務めた隼の方が脱出出来た割合が高いのはなんとも…」
「砲撃するなら隼でも撃震でも火力は変わらん、だがこれでは」
高性能機が生き残るというのは統計的に見れば当たり前なのかもしれないが、いざ突きつけられるとキツイものがある。原作で幾度となく見た部隊の壊滅模様、前線で日常的に起きる人間の死。
「今回の壊滅的被害を受け、第一世代機の性能に軍部は」
「見通しが甘いんだよ!BETAを砲撃で減らすだけの簡単なお仕事なんてあるかよ!」
「…社長、何もかも上手くいくなんてことはありませんよ」
「分かってる、分かってるさ」
50にもなる男がこうも癇癪を起こすのは見苦しい、そう思って己を落ち着かせるために既に冷めた茶を一気に飲む。
「…で、なんだって?」
「第一世代機はBETA戦において練成に時間がかかる貴重な衛士を比較的損耗し易い傾向が認められ、秋津島開発と国内三社は早急に暫定的な代替機である隼改の量産体制を整えるべしとのことで」
国内三社の新型は暫く影も形も無い、隼改と隼でせめて重要な地点の撃震を更新したいというのが上の考えだろう。
「代替機選定はまだ先だった筈、急にここまで話を進める理由は?」
「聞かれますか?」
とうの昔に覚悟は決めていると秘書に言い、雑に机の上へと置かれた書類を見てそういうことかとある意味納得する。
「日本が以前から血税を注ぎ込み続けている国土防衛戦略は新たな段階へと進む必要があります、これを」
「戦力の展開や民間人の移動を容易にする大規模な交通網の整備と改修、国外への産業インフラ移転及び整備…こいつは!」
国内で運用が開始された多脚戦車は横幅が広く、乗用車程度であれば脚を伸ばすことで上を通り抜けられる。それに装輪式の脚部が生み出す高速性は展開能力に長けるため即応戦力として組織されており、この広めに見積もられた道路網は新型車輌の運用も考慮しての設計だろうか。
「防衛戦略の大改革、帝都を守る防衛線は引き直しになるぞ!?」
「どんな切れ者が通したのか分かりませんが、これであれば最悪の場合でも継戦能力は保持出来ます」
より後方への産業施設移転、これは完全にBETAが工業地帯まで侵攻するような事態を想定してのものだ。国内の反発は相当なものだっただろう、それでもこの方針で動くということは危機感を皆が感じ始めていることの証左でもある。
「そして最後には前線での各種試験、壊滅した彼らはそのために戦っていました」
帝国軍は実戦経験に乏しい後方国家だ、だからこそ国外への派兵を行い戦訓を得ようとしている。特に衛士の精神状態を管理するための催眠暗示、興奮剤などの薬剤の試験は国内だけで済ますことは出来ない。
「オスカー中、いえ大隊は稀有な例です」
「ああ」
「全員が最良の機体を得て、最大限の支援のもとで得られた幸運でしかありません」
「…そうだな」
「我々は全てに手が回るわけでもありません、何処かでどうしようもないことは起きるんです」
アジア戦線の状況は芳しくない、市民には派遣部隊の英雄的な活躍が語られる中で上層部は危機感を感じ始めているのだろう。恐らくは官僚になったある人物、原作における未来の首相の存在もあるのやもしれない。
「監視衛星網の強化は急務です、それに軌道戦力も」
この話は何処かで聞いたことがある、たしか帝都燃ゆというストーリーで語られていたような。防衛のためにインフラの改修が行われたが、原作では大型台風の直撃によりたった数日で国土の半分を失うことになる。
「…衛星網は大切だが、天候が悪化した場合では観測は不可能になるな」
「それはそうですね」
「色々と対策を考えよう、日本がいつまでも後方国家でいられる保証は何一つ無いんだからな」
原作における日本のBETA侵攻には学徒兵まで最前線に放り込まれ、殆どが凄惨な死を遂げる。状況が多少違うとはいえ、台風が直撃すれば同じような結果に終わる可能性も大いにあるのだ。
「そのためにも超電磁砲を早く完成させないとな、疾風が日本に居れば…」
「無理は禁物ですよ、もう歳なんですから」
「何言ってんだ、俺はまだまだ若いぞ?」
これでも体力は落ちてないんだぞと秘書に言うと、薄ら笑いを浮かべながら口元を抑えた。
「あらやだ、昨日は護衛さんとご一緒でしたもんね」
「下の話をしてるんじゃあねぇって!」
「なんです、まんざらでもない」
「いやまあ好きだけどさぁ!?」
秘書の攻撃に耐えかねてそう漏らすと、秘書は両手で丸を作って部屋の隅へ向き直す。何かと思えば、そっと顔を赤くした巫さんが出て来た。
「言質取りましたよ」
「…嬉しいです」
「あーっ!おま、あーーッ!?」
落ち込んでいた自分の意識を別の方向に向けようとしてくれた秘書の計らいなのか、それともいきなり突っ込んで来たのかは分からない。だがこの人が死に過ぎる世界で、手の届く範囲だけは守りたいと思うのは贅沢な願いだろうか?
PCが帰ってくるまで少し暇になるので、その間にTwitterでスペースなるものをやってみようかなと考えていまして。22時など遅い時間にはなるのですが…よければ是非。
他の方がやっているのを見て気になったというのもあるのですが、ご質問などあればどしどし答えて行きますよ!