橋頭堡の確保、BETA群の間引き、戦力の再編成とやるべきことを終えた欧州戦線の攻略部隊は再び動き出そうとしていた。人類の悲願、欧州防衛のために必須であるハイヴ攻略だ。
「今回の目標はハイヴ攻略だが、何をもって攻略とするかは未だ不明だ」
突入部隊のブリーフィングは何も分かっていないのと同義の発言から始まり、部隊員達は分かってましたと言わんばかりに苦笑する。
「前人未到の領域ですからねぇ」
「だが秋津島開発の資源観測衛星は今まで自然界で観測したことがない何かがあることを示している、それは地上構造物の真下に存在するそうだ」
オスカー大隊の面々が命を賭けるには乏しいにも程がある根拠だが、現状ではこれに縋るしかない。
「その標的を確保、又は破壊することが今回の任務だ」
「確保って、巣の中のBETAを殲滅しろと?」
「誰もやれるとは思っていない、もし戦術機で持ち運べる大きさであればという話だ」
機体に搭載されたS-11、それにより目標の破壊を狙う。それが可能なのか、まず爆破が有効な形状なのかは不明だ。
「破壊が不可能だと分かれば即座に撤退、情報を持ち帰ることを優先する」
「…次のハイヴ攻略作戦を行う余力は欧州に有りませんよ?」
「分かっている」
今回は大隊全機での突入を決行、疾風の火力に物を言わせてBETAの大群を潜り抜ける。二番機は背部兵装担架を取り外し超電磁砲を装備、これにより超電磁砲は三門となる。
「目標のハイヴはまだ若く、比較的小さいがそれでも地下350mまで巣の中を下る必要がある」
「弾薬と燃料は」
「補給機による輸送が行われるが、追加は無いものと考えてくれ」
ただでさえ多い敵個体数をどうにか分散させるため、二つの陽動部隊が地上にて攻撃を仕掛ける。その他にも各地の戦線で陽動を仕掛け、ハイヴ周囲のBETAを少しでも減らす算段だ。
「第二中隊の撃震には第一小隊の機体同様、秋津島から一張羅が届いている」
「…緑色の死装束とは、ありがたい限りですね」
第一小隊が運用する隼(鐘馗だが、武家出身の衛士が居ないため偽られている)には以前より中華戦線の戦術機から着想を得た爆発反応装甲が装備されていた。
その性能は母艦級撃破の際にも陰で示されており、衛士の心理的な悪影響を緩和するという単純な性能以上のものも確認されている。やはり戦車級に取りつかれようとも、簡単に引き剥がせると言うのは大きいらしい。
「生き残るために贈ってくださったんだ、素直に受け止めておけ」
「はは、了解です」
第二中隊は秋津島警備で運用されていた隼を譲り受け、現在は二機種での混成となっている。しかし全機が隼でないというのは確かであり、中華戦線で壊滅した部隊のことが彼らの頭をよぎる。
「第二中隊の仕事は補給機の護衛だ、背中は頼む」
しかしその分厚い装甲は要撃級の一撃を受けても衛士が無事という強固さを持つため、対レーザーを考えなくて良いハイヴ内で主任務が無人機の護衛となれば頼もしい。
「分かりました、命綱はお任せを」
突入部隊は補給を受けることが困難であり、またBETAとの交戦回数を減らすためにも迅速な進軍が求められる。だがハイヴ内の詳細な地図などなく、事前の観測にて判明した入り口と不明瞭な地下構造の予想図があるのみだ。
「国連軍の突入部隊と共に突入するが、彼らの露払いを受けられるのはごく短時間だ」
「彼らは上層部の制圧と調査、無人機や多脚車輌による補給線の確保を試みます」
補給が無いものと考えるのはこの補給線の確保が困難であることが予想され、一部分とはいえ限られた戦力でハイヴを確保出来るかは不透明だからだ。
「大隊規模の部隊が複数同時に進軍するのは狭いハイヴでは難しい、最奥に辿り着く道順が不明なことも踏まえて各部隊は別々に進軍する」
「三個大隊が同時突入とは…」
「我々日本帝国、欧州連合、ワルシャワ条約機構で構成された部隊が三つだ、各々が情報を共有しつつ前進する」
場合によっては合流することもあるだろう、敵対的な行動は取らないだろうとは思うが不安が無いわけではない。
「また今回初めて国連軍の軌道降下部隊が投入され、我々の突入口を確保するそうだ」
降下部隊の中には補給機も混ざっているが、無人化された多脚戦車の姿もあった。少しでも火力を底上げするため、降下部隊の命令に従い追従しながら戦闘を行う彼らが投入されたようだ。
「連隊規模の軌道降下部隊が突入部隊になる予定では?」
「今回が初めての実戦投入だからな、そこは譲ってくれたさ」
戦術機以外の戦力も一堂に会することになり、欧州の機甲戦力は皆前線へと集まって来ている。帝国軍の戦車には脚が生えていると彼らの間では既に話題になっているようで、今回の活躍次第では他国での採用も有り得るのかもしれない。
「して、もう一つ良い知らせだ」
「なんです?」
「秋津島の新型船が初披露だ、軌道爆撃の密度はパレオロゴスの比じゃあない」
新たな宇宙戦力として建造が進められていた宇宙巡洋艦の更に上、宇宙戦艦の投入が決定された。
その積載量は最も運用されている数が多い再突入駆逐艦の四倍であり、より効果的な爆撃を可能にする大型艦だ。あかつきのドックを圧迫する多数の再突入駆逐艦は問題となっており、戦艦の配備により全体の運用数を圧縮したいというのが国連の考えらしい。
「…戦艦、というかデカいシャトルですね」
「デカいシャトルを便宜上戦艦と呼称しているだけだ、その認識は間違っていないさ」
帝国軍の艦隊が寄港し、欧州にて不足していた弾薬などの補給物資を大量に受け渡すなど祖国も協力してくれている。新鋭機を任され、作戦の成功に最も関わる部隊の一つに選ばれた以上は最奥に辿り着かなければ。
「お色直しをするのは撃震だけじゃあない、疾風にも追加装備が来ているぞ」
「…格闘戦用装備ですか、疾風が本来不得意とする筈の」
「本国では不採用に終わる筈だった品だ、斬れ味には期待しておけと社長殿からのお達しだ」
疾風の脚部には整備性の悪化を原因として採用が見送られたスーパーカーボン製のブレードが備え付けられ、その脚力と重量があれば大型のBETAであっても蹴り殺せるだろう。
「良い靴だろ」
「ええ、どちらかというと長靴ですが」
「なぁに、彼女なら履きこなせるし…」
「なんです」
「似合うだろう?」
はい、なんとなんと…支援絵を頂きました。
spring14さんからです。
https://img.syosetu.org/img/user/161890/108367.JPG
この一大作戦が始まるという大きな節目の一つで紹介しようと思っていたら、色々とトラブルが重なり遅くなってしまいました。とても素晴らしい絵でして、この作品オリジナル機である隼を描いて下さってます。
感謝…感謝感激!