宇宙開発企業なんですけど!?   作:明田川

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一部加筆、修正を行いました。


第四十八話 突入

欧州、果ては人類の命運を賭けた作戦が遂に始まった。作戦開始と同時に他の戦線でも陽動が始まり、衛星軌道では艦隊が爆撃軌道に入る。

 

突入部隊であるオスカー大隊は陽動部隊が道を作るまでは動けず、戦況を見守る他ない。普段であれば敵陣に向け攻撃を仕掛けるのが常だが、今回ばかりは状況が違うのだ。

 

「各偵察部隊の後退が完了したようです、いよいよですね」

 

しかしデータリンク経由で戦況はある程度把握出来るため、大隊の面々は部隊の動きを見ながら緊張を解すためにも話を続けていた。

 

「ああ、長かった」

 

攻略作戦の第一段階、それは軌道爆撃だ。国連宇宙軍の艦隊は次々とAL弾を投下し、それは迎撃されることで重金属雲を展開する。パレオロゴス作戦で実証されたその有効性は確かなもので、これ無しでの作戦遂行は不可能だと司令部に言わしめるほどだ。

 

「保有する宇宙艦隊の約7割を投入した最も大規模な軌道爆撃、圧巻だな」

 

「今回の作戦で使用される弾薬量は一国の総備蓄量に匹敵します、もう同規模の作戦発動は数年間不可能ですよ」

 

陽動部隊が軌道爆撃の第一波終了を待ってから前進、ハイヴ内からBETAを引き摺り出して砲火力の餌食にする。その中には欧州へ少数ではあるが送られていた疾風の姿もあり、超電磁砲の代わりに搭載された中隊支援砲を用いて敵を撃破していく。

 

「欧州でも運用が始まっていたんですね、白い疾風とはなんとも」

 

「砲撃も見たことがない苛烈さだ、本当に欧州中の砲を掻き集めたんだな…」

 

多用すれば母艦級が出現する可能性が高まるとして行う頻度を減らしていた軌道爆撃だが、そのために備蓄が進んでいたAL弾を今回ばら撒いた。展開された分厚い重金属雲は砲弾の到達率を大きく引き上げ、光線属種諸共BETAを葬っていく。

 

「面制圧は大成功、陽動部隊に釣られて地上に出て来たBETAも次々と撃破されています」

 

「データリンクでこんなに撃破報告が回ってくる日が来るとはな」

 

順調に敵は減っている、陽動部隊の損害もまだまだ低い。這い出たBETAの増援も外へ外へと誘導され、ハイヴ周辺の敵密度は下がりつつある。その瞬間を待っていたと言わんばかりに司令部は軌道降下部隊の投入を要請、待機していた軌道降下部隊が再突入を開始する。

 

「108機のF-14改修型とF-15C、彼らが突入地点の確保と我々の露払いを行ってくれるという部隊ですか」

 

「後続の国連軍部隊と共に補給線の確保も行うが、どうなるか」

 

降下して来たのは大隊規模の戦術機だけではなく、通常の補給コンテナと補給機も同時に降りてきている。ハイヴ攻略に必要な継戦能力はこうして確保する算段だが、BETAに破壊されてしまう数が多いのが難点だ。

 

『攻略部隊、出番だ』

 

「よし、始めるか」

 

「待ってましたァ!」

 

前衛を隼、中衛を疾風、後衛を撃震で固める彼らは跳躍ユニットを起動した。陽動部隊が作ってくれた道を通りつつ、他の突入部隊と共にハイヴへ急行する。

 

「想定より味方の損耗率が低い、軌道爆撃と面制圧が効いてます!」

 

「だが予断を許さない状況なのは間違いない、早急に突入してこの作戦を終わらせるぞ」

 

「「「了解!」」」

 

前衛機が突撃砲にてまばらなBETAを次々と排除し、前進する速度を緩めない。本来であれば突入部隊は軌道上からの投下が想定されていたが、ここまで大規模な降下となると何かしらの問題が発生する可能性も捨てきれなかった。

 

「突入口に空から落として貰えれば楽なんですがね!」

 

「今回が初めての実戦投入だ、仕方ないさ」

 

降下部隊は降下中の損耗やトラブルは無し、秋津島開発製の再突入コンテナは光線級から放たれたレーザーを受けても戦術機を守り抜いた。

 

「降下部隊は突入口の確保を完了したと通信が」

 

「予定通り、いや少し前倒しか」

 

激しい戦闘が続けられる突入口、門と呼ばれる場所の確保に降下部隊は成功していた。見慣れない国連軍色のF-14は補給機と共に待機しており、地上に残るのは一個中隊のみだ。

 

「無人車輌、本当に投入されているなんて」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「便利な移動砲台だ、警戒用には十分だろうな」

 

中隊と共に門を守るのは秋津島開発と国内三社が合同で作り上げた多脚戦車であり、有人にて運用されている機体とは差異がほとんど無いように見えた。一目で分かる違いと言えば、センサの発光部が水色ではなく赤色に光り輝いていることだけだ。

 

『地下の構造は予定通り第三層まで制圧完了、突入は問題なく可能です』

 

「感謝する」

 

ハイヴへ入るというのに、ここに辿り着くまでに消費した弾薬はいつもの間引き以下だ。大量のBETAが存在し絶えず湧き続けるという敵の巣が、一時的にではあるが人の手によって押さえ込まれているという事実には正直言って驚いている。

 

「データリンク良好、先行した部隊からハイヴ内の地形データを取得しました」

 

「凄いな、まさかここまで…」

 

「後続の部隊と共に突入しましょう、これ以上状況が動く前に進軍しなければ」

 

「ああ、今しかない」

 

後続の大隊も情報を受け取り、突入ルートを割り振った。ここまでの移動で中身が減って軽くなった増槽を投棄し、これからの戦闘に備える。

 

「突入だ、ここまでの支援に感謝する」

 

『奴らの親玉をぶっ潰してくれ、頼んだぞ!』

 

彼らもここまでの戦闘で少なくない被害を出している、降下部隊が健在な内に作戦を終えなければ撤退時に地獄を見ることになるだろう。

 

「超電磁砲で道を作る、疾風は発射時に敵の集団を出来るだけ巻き込め」

 

「了解!」

 

「乱戦になることが予想される、くれぐれも射線には注意しろ!」

 

ハイヴ内で戦闘を繰り広げ、既に返り血を受けているF-15の部隊に見送られつつ他の大隊と分かれて突入する。鐘馗は隼のマイナーチェンジ機だと聞いていたが、その性能は確かに上位機種であると思わせる仕上がりだ。

 

「斯衛の機体、有り難く使わせてもらうか」

 

鐘馗は帝都に居る将軍の護衛としてではなく、その名の通りBETAという人類にとっての悪疫を払う守り神として欧州の地に立つ。




前話に挿絵を追加しました、結構大事な絵なのでここにも貼っておきます。
それが何かというと、ハイヴ突入仕様の鐘馗です。


【挿絵表示】

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