宇宙開発企業なんですけど!?   作:明田川

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第五十一話 主縦坑

主縦坑に到達したオスカー大隊だったが、ある問題に直面していた。

眼前に広がるのは巨大な縦穴であり、少し下に進めば目標が存在することは確かなのだが…

 

「照射警報!」

 

「横坑に戻るんだ、早く!」

 

ハイヴ内では照射を行わないとされていた光線属種だが、こと主縦坑においてはその法則に縛られないらしい。突入したのが盾を持っていた前衛機であったため、なんとか逃げ帰ることが出来た。

 

「…どうします」

 

前衛を担当する衛士はレーザーの照射痕が赤熱したままの盾を投げ捨て、隊長に問いかける。

 

「万事窮すだな、後にも先にも行けなくなった」

 

主縦坑直下の大広間には青白く光る未確認BETAの姿と共に、大量のBETAが蠢いていた。飛び出した機体が帰還するまでに観測した情報によれば、識別可能な個体数を超える軍勢だという。主縦坑を通じて敵の増援も来ており、猶予はない。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「光線属種も大量に確認されています、大隊が突撃しても数秒後には全員が蒸発してますよ」

 

「BETAは壁面を移動出来る、このほぼ垂直の壁であろうとも向かって来るでしょうな」

 

目標は目の前、だが手を出すことは叶わない。しかし悩んでいる暇もないというこの状況で、ある衛士の手が上がった。

 

「一つ試してみたいことがあります」

 

「なんだ?」

 

「秋津島名義で保存されていた情報、それもハイヴの内壁に関するものがありました」

 

彼がAIの提案を受けて発見したというそれは、ハイヴ突入直前に衛星通信を経由して送られて来たものであることが分かった。

 

「パレオロゴスで持ち帰られた振動波の観測結果から、内壁の構造と材質の密度は一律に同じものではないということが分かったそうです」

 

「そんなデータが?…だが、それが何に使えるんだ」

 

「これを元に秋津島が用意した構造把握機能を使えば、振動を元に強度が低い部位が特定可能です」

 

ここまで来ると、彼が何を言いたいのか皆が理解し始めた。

 

「この機能で特定された位置にS-11を設置、主縦坑の一部を崩落させ直下のBETAを下敷きにします」

 

「その作戦に乗ろう、責任は無論私が取る」

 

博打には違いない、だが迂回する時間も燃料も無い彼らにとって唯一の勝ち筋であることは間違いない。

 

「よし、立案者である12番機の元で振動の計測を行うぞ」

 

「その機能の名前はなんです?」

 

「桜花です、そうAIに聞けば恐らく分かるかと」

 

桜花と呼ばれたシステムは起動するなり各隊とのデータリンクを用いて振動の解析を開始し、それと同時に短い一文を視界の端に表示した。

 

"桜花の名の下に散った武神に捧ぐ"

 

「秋津島らしくない、こんな短文を表示する機能を付けるなんて」

 

「桜花の名の下に散ったか、パレオロゴスで失われたヴォールグ連隊への言葉にしては場違いだな」

 

その短文のことを話している訳にもいかない彼らはS-11の設置地点をどうにか割り出し、どうやって取り付けるかという議論に移った。

 

「で、どうするよ」

 

「重光線級に狙われれば盾があっても一瞬ですね」

 

S-11ごと吹っ飛ばされれば爆破計画も御破算だ、どうにかして狙われずに設置しなければ。

 

「…光線属種の最優先攻撃目標は飛翔体だったか」

 

「ですね」

 

「我が隊の中隊支援砲全てを用いて支援砲撃を敢行、それに紛れて有人機よりも狙われにくい補給機による設置を試みるのはどうか」

 

設置のために壁へと張り付きさえすれば、下から登ってくるBETAが盾になり光線級の射線から隠れられる可能性も大いにある。

 

「突撃砲の120mmも同時に撃ち込みましょう、弾速が遅い分長く囮になりますとも」

 

「決まりだ、全機射撃の用意を!」

 

主縦坑に接続する横坑ということもあってかその幅は大きく、ある程度の数の戦術機が並んで砲撃を行なっても問題ないだけの広さがあった。

 

「…またお前達のことを蔑ろにするような作戦ですまない、頼んだ!」

 

『『Beep!』』

 

補給機の細く簡略化された腕で彼らは敬礼し、股のS-11を手に持った。今回送り出されるのは中身が空になった機体達であり、積んで来ていた弾薬はこれから行われる砲撃で使い切る。

 

「砲撃開始ィーー!」

 

100mと少しの距離で彼らの迎撃は間に合わず、砲撃は次々と大広間へと命中する。速度の遅い120mm弾が幾つか迎撃されたが、発射元の戦術機も狙われ始める。

 

「照射されたら横坑に隠れて射線を切るんだ!」

 

それでも重光線級の場合は初期照射でも脅威となる、突撃砲を持つ腕ごと瞬時に焼かれた機体がのけ反った。

 

「他の機体は砲撃を継続、狙えるならば光線級を狙え!」

 

補給機は次々と内壁に取り付き、S-11を設置する。

壁に向け指向性を持たせる形で取り付けられたそれは、その威力をボタンひとつで開放できる状態にある。

 

「設置確認しました、お早く!」

 

補給機は壁から離れない、下から登ってくるBETAの速度を考えると彼らが退避する時間など最初から担保出来なかったのだ。

 

「すまん、お前ら!」

 

『…good luck』

 

事前に設定されていた文言だろうか、幸運を願う言葉と共に爆炎が広がる。

彼らを巻き込んだS-11の一斉起爆は問題なく行われた。爆弾は一切の遅滞なく同時に起爆され、あれだけ強固だったハイヴの内壁に亀裂が走り始めた。

 

「お、おお」

 

「足元が崩れるぞ、後退しろ!」

 

亀裂はそのまま拡大し、主縦坑の一部が計算通りに崩落する。

降り注ぐ瓦礫を迎撃しようとするBETAの奮闘虚しく、大広間は地獄絵図と化した。無論全てのBETAを倒せたわけではないが、確実に今ならば部隊を降下させられる。

 

「行ける!行けるぞ!」

 

「降下、降下、降下ァ!」

 

「今しかない、光線級が真下に現れる前に降りるんだ!」

 

多くの横坑と繋がる主縦坑に出たことで離れた位置に居たソ連の攻略部隊と通信が復旧した、彼らはこちらの行動に驚きを隠せないようだ。

 

「ワルシャワ条約機構軍、今なら降りられるぞ」

 

『爆破…崩落とはな』

 

「下で待ってます、援護よろしく!」

 

このような修羅場にも慣れたものであり、オスカー大隊の面々は落下しながら直下のBETAへ攻撃を行う。瓦礫の衝撃から立ち直りつつある光線属種の生き残りに狙いを定め、一番機と二番機の超電磁砲が放たれた。

 

「三番機、出番はもう直ぐだ」

 

「落下して直ぐの射撃とは無茶を仰る、大広間の敵を纏めて薙ぎ払って御覧に入れましょうとも!」

 


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