宇宙開発企業なんですけど!?   作:明田川

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第五十四話 勝利の後

大損害を被ったが人類の悲願であるハイヴ攻略を成し遂げた欧州戦線、その後は中々に大変な様子である。もぬけの殻となったハイヴの調査、防衛線の再構築、損傷した戦術機の修理と整備、減った弾薬の補填などなど…

 

「俺達にも何か出来れば良いんだが、欧州となるとそうもいかんな」

 

そう言うのは社長と秘書だが、いつもとは違い宇宙港へと来ている。

 

「政府は売却予定だった撃震を欧州に流すそうですよ、戦力の足しになるといいんですが」

 

秋津島開発はというと、全力稼働で疲弊したあかつきの立て直しに尽力していた。軌道上に貯蓄されていた弾薬と燃料は払底寸前であり、今後発生するであろうBETAの攻勢に備えるには些か貧弱だ。

 

「宇宙港に帰るのを待つのではなく、MMUを使って軌道上で換装するなんて」

 

「無茶な指示だったとは思ったが、やり遂げてくれたよ」

 

高速で地球を回る艦隊と相対速度を合わせ、MMUによるコンテナの載せ替えをやってのけたのだ。熟練の操縦者達が集結したことで成し得たことであり、本来であれば間に合わなかった。

 

「色々と問題が山積みですね、オスカー大隊の今後なども気になる所です」

 

「危機からは脱したしハイヴ攻略っていう希望も見出した、次に目を向けるべきはアジアだな」

 

中国の防衛線が綻んでいるというのは軍関係者にとって公然の事実であり、日本が前線となるのは時間の問題であるという見方すらある。欧州という人類の一大拠点を守り抜いたのであれば、次に中国戦線への派兵が行われるのは当たり前とも言える。

 

「超電磁砲の地上量産体制は着々と進みつつあります、90年までには必ず」

 

「疾風が前線に行き渡れば戦術は変わる、アレがあれば10年の猶予を得られると俺は思ってる」

 

「たった10年、ですか」

 

「知ってるだろ、BETAは学習するんだからさ」

 

新兵器と新戦術を次々と繰り出してBETAを圧倒し続けるしか手はない、オリジナルハイヴを破壊しない限りだが。

 

「して、他に報告は?」

 

「欧州連合と国連軍はF-16と隼改の採用を決定、役割や性能が被る機体ではありますが…」

 

「よっぽど戦術機が足りないんだろう、ぶっ壊れた旧式を直して維持するより良いと考えたか?」

 

隼が積み上げた実績は隼改の販売にも影響を及ぼしており、採用国は今も増えている。特に整備費の嵩むA-10を副腕搭載型の隼改で代替しようという動きがあり、欧州は今後の防衛戦の備えを進めている。

 

「生産を打ち切る予定だった隼の製造ラインも当分止められなさそうです、自動工場は暫く続投ですね」

 

「被害を受けた戦術機は合計で3個連隊くらいだったっけか、それって何機なんだ?」

 

「324機ですね、恐ろしいですよ」

 

「それをF-16と隼改で補い、旧隼も投入して数合わせか」

 

「機甲部隊の被害も大きいです、無人車輌についても問い合わせが止まりませんよ」

 

AI用の外骨格が投入されたことで撃破された兵器からの救出率は飛躍的に向上し、それは衛士のみならず他の兵士の生存率底上げにも貢献していた。それでもやはり死傷者は多く、無人兵器の戦線投入は渇望されて来た。

 

「遂に完成した無人兵器ですからね、どうにか行き渡らせたいんですが」

 

「国内三社は隼改やらなんやらのお陰で回せる手が少ない、国内生産分が精々だ」

 

「つまりはライセンス生産になると?」

 

「欧州の工業地帯はBETAの魔の手から救われたんだ、それくらい頑張って貰おうぜ」

 

無人車輌は操縦席をAIユニットに置き換えたのみであり、車体に差異はない。そのため帝国軍の次期主力装輪戦車を完成と同時に他国へと渡すことになり、国内からの反発があるのは間違いない。

 

「戦術機は対BETA用の兵器ですが、戦車ともなれば話は違うのでは」

 

「そうなんだよな、模擬戦で74式に勝っちまったし」

 

そう、現在の主力戦車に対BETA用に作られたはずの多脚戦車は勝ってしまったのだ。何故なら重金属雲の中であろうと敵を捕捉するセンサとAI、それに全力走行時でも砲弾を命中させる火器管制装置があるためだ。

 

「だがまあ欧州とは蜜月だ、国連の軌道艦隊にも納入したことだしどうにか認めてもらうしかないな」

 

「東側には提供しないのが落とし所ですかね」

 

「その東側の被害も甚大だぞ、せめて旧式化した旧隼くらいは送ってやりたいが」

 

「ソ連に直接ってのは許されませんからねぇ、難しいところです」

 

だが政治はあまり自分達が踏み込んでいい領域ではない、知り合いにそれとなくお願いする程度にしておこう。

 

「他の報告は?」

 

確か琵琶湖の浚渫工事やら東京湾の埋め立てやらである新商品が活躍しているのだ、最後はいい報告を聞いて終わりにしたい。

 

「1G環境下で動作可能なMMUの一般販売が存外にも好調なことと、東ドイツへの戦術機提供と、米国からのムアコック・レヒテ機関の提供と…」

 

「待て待て待て」

 

一大作戦が終わったからだろうか、一気に仕事が舞い込んだ。宇宙開発部門も色々と開発を進めていたりと嬉しいニュースもあるが、ロケットの視察は後回しになってしまいそうだ。

 

「…もしかして、これから結構大変?」

 

「御明察、お嫁さんとイチャつくなら今日しかないですね」

 

「畜生!」

 

最近は若い嫁さんを貰ったということで話題になったが、相手が武家のお嬢様だということを知ると皆が察して茶化すのをやめた。社長も大変ですねと社員に気を使われるのは気まずいし、政略結婚だったとはいえ自分には勿体無い女性なので…

 

「もうここまで行ったから言いますけどね、サッサと後継者を作ってくださいよ!」

 

「うるせーッ!余計なお世話だァ!」

 

「そろそろ仮眠室に二人を放り込んで外から鍵を閉めますよ?」

 

「それはやめろ、駄目だからな…駄目だからな!」

 

しかしそれは自分が寝ている間に運び込まれてしまったことで現実となり、どれだけ捻っても開かないドアノブには"ヤらないと出られない部屋"と書かれた看板が吊るされていて…。

その後はご想像にお任せするが、この世界で守り抜いて来た五十何年の童貞は宇宙で無惨に散ったのであった。


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