宇宙開発企業なんですけど!?   作:明田川

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第五十五話 666中隊宛ての贈り物

「総員傾注、我々の本国帰還は遅れることになった」

 

簡素なブリーフィングルームに集められたのは東ドイツの最精鋭、666中隊の面々だ。ワルシャワ条約機構軍の一員として海王星作戦に参加、母艦級撃破やハイヴ攻略戦における陽動などで力を示した部隊だ。

 

「詳しくは私からご説明致します、秋津島開発の南です」

 

見慣れないオレンジ色の制服に身を包んだ彼は西側の戦術機開発を担う大企業の社員であり、苦難多き欧州に派遣されて来た若きエリートでもある。

 

「海王星作戦の成功により西と東の距離は縮まりつつあり、国連軍を介して戦術機運用に関しても様々な働きかけが行われております」

 

ハイヴ攻略成功というのは両陣営にとってこの上ないプロパガンダであり、戦意高揚に一役買っていた。これを機に東ドイツは西側との協力体制の確立を段階的に進める考えをヨーロッパに打診し、様々な取り決めの成就に動きつつある。

 

「その一環として少数ではありますが西側装備の提供が決定、666中隊の皆様方に試験をお願い致します」

 

各国が新型機を配備し始める中で東ドイツ最強の戦術機部隊が第一世代のままでは格好がつかないというのもあるが、この采配には軍内部の思惑も絡んでいるのは確かだった。

 

「提供される戦術機は隼の最新ロットが4機に予備部品が追加で4機分、新型突撃砲が24門、長刀が12振り、弾倉が150個です」

 

道理で国連軍から借りている格納庫横の滑走路がコンテナで埋まっている筈だ、今頃搬入作業で大忙しだろう。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「隼というと、オスカー中隊の機体か」

 

「そうですね。装甲配置を限定し重心や軽量化に気を配った機体、皆さんのMiG-21バラライカとはある意味似た特性を持つ機体と言えるかもしれません」

 

そう言うが完全に旧式化したバラライカと比べて、同年代の機体ということを全く感じさせない性能を有するのは間違いない。それはオスカー中隊と共に戦って来た666中隊の衛士達だからこそ理解出来たことだ。

 

「またハイヴ突入用の装備を転用したものになりますが爆発反応装甲が8組、光線級との戦闘が多いとお聞きしましたので面制圧用の多弾頭誘導弾も12セット用意してあります」

 

隊長であるアイリスディーナが更に追加で提供予定の装備リストを見ると、本国からの補給が霞んで見える量が記載されている。この一週間前にも目を通した筈だが、何度見ても量がおかしい。

 

「補給機は6機の提供になります、専用のコンテナは12個用意致しました」

 

「…格納庫に入るか?」

 

「空きがあるんでなんとか、元からそう多いわけじゃあない」

 

隊長にそう聞かれた整備班長はそう答える。

彼らは最強の中隊でありながら充足率は高くなく、運用もギリギリだ。そうでありながらも結果を出し続けているのは、一重に隊長が持つ統率能力の高さにあった。

 

「戦術機に関しては申し訳ありません、本来であれば中隊定数の倍である24機を提供するのが筋なんですが…」

 

「あ、ああ」

 

「欧州戦線で戦術機の稼働率が低下している現在、4機が限界でして」

 

それでも一線級の戦術機を急に決まった話であるのに4機も調達してくるコイツらがおかしいのだ、感覚が狂うが西側が全てこうな訳ではない。

 

「すまない。4機と言うが、機体は2機しか見えないのだが」

 

「滑走路の使用許可を頂く際、備考欄に書いておいた筈ですが…」

 

そう言えば降下物ありと記入されていた、航空機からの輸送ということだろうかと思った記憶がある。

 

「本国、いえ日本帝国からの放出品になりますので陸路では間に合わず」

 

「まさか」

 

「軌道降下による輸送となりました、今日の便であればあと数分かと」

 

補給機も本国からなんですよねと彼は言うが、自前の軌道船団を持つ企業は格が違った。見られますかと言う彼に部隊は続き、基地の屋上へと上がる。

 

「降下部隊であれば跳躍ユニットでの減速を行うのですが、あくまで輸送ですのでパラシュートと併用しての降下になります」

 

「撃ち落とされないのか?」

 

「落下地点がBETA支配地域でなければ問題ないようです、何故かは不明ですが」

 

滑走路の端に着地した二機はその場でしゃがみ、コックピットを開けると待機していた秋津島開発の人員が乗り込んだ。着地までの動作は無人で行われ、万が一にもBETAに撃墜されないよう工夫されているらしい。

 

「管制ユニットは以前供与したものを提供すると言う形になります、ソフトの方は最新版に書き換えておきますので」

 

「凄い話だ、社長殿は随分と我々を買ってくれているようだな」

 

「突入したオスカー大隊の救援へ真っ先に向かってくれたのは666中隊だと聞いています、西の戦術機部隊も口説いて連れて行ったとも」

 

我々は恩や縁を忘れないようにしたいのですよと社員は言い、懐から更に新たな資料を取り出した。

 

「戦術機に搭載するAI用無人外骨格の詳細です、これは隼と違い配備が始まったばかりの最新技術なんですが…役に立つ筈です」

 

「感謝する、社長殿にもよろしく伝えてくれ」

 

「ええ、ご武運の長久を願っています!」

 

666中隊が西側の兵器を使用するのは融和をアピールしつつ戦力になる新型戦術機を手に入れ、軍部が幅を効かせる諜報組織に対して睨みを効かせたいという思惑があった。

そんな危険な状態を案じてか、秋津島開発は対人戦にも転用出来る兵器を渡したのだろうか。

 

「オスカー中隊の連中、俺たちの事を良いように報告してくれたみたいだな」

 

そう言うのは赤髪の部隊員であり、近接格闘戦に覚えがある衛士だった。そう言う彼を隊長は膝で小突いて、ありのままに違いないと小さく言った。

 

「さて…我々は西側の戦術機を一刻も早く乗りこなし、後々行われる大規模な機体提供の際には教導隊として働かねばならない」

 

彼らが本来辿るであろう道からは既に大きく外れていたが、何処に終着するかは分からない。願わくば彼らに死が訪れぬよう、ただ祈るのみである。




隼の挿絵を貼っておきます。

隼(描き直したい)

【挿絵表示】


爆発反応装甲装備型

【挿絵表示】

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