宇宙開発企業なんですけど!?   作:明田川

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1987年〜
第五十六話 欧州戦術機開発計画


大損害を受けて稼働可能な戦術機を掻き集めている欧州戦線だが、その裏では次期主力機の設計に着手していた。隼改をベースにするということで、秋津島開発も帝国からの後押しで全面協力の体制を整えていた。

 

「各国で開発が進む第三世代戦術機への足がかり、隼改は良い練習台ってところですかね」

 

「隼改は第二世代機相当の戦術機だが単体で尖っているところは無いしな、拡張装備前提の機体構成だから突き詰める余地は多い」

 

「欲しい性能を伸ばしやすいと言う訳ですか」

 

欧州戦線は一時の危機を脱したとは言え未だユーラシア大陸は多くのハイヴを抱えており、BETAの大規模進行は依然として続くだろう。

 

「欧州は疾風の導入を決定していることは前に言ったよな、確か先行量産機が既に現地入りしてるとも聞いたか」

 

「ええ。超電磁砲は僅か3機のみの提供となりましたが、陽動部隊はそれにて数万のBETAを撃破する大戦果を挙げたそうですね」

 

「つまり将来的には中隊支援砲と合わせて充分な砲撃戦能力を確保出来る、ならば次期主力機が重視するべきなのは前衛として後衛を守れる機体となったそうだ」

 

ハイヴに突入した疾風が装備していたスーパーカーボン製のブレードを機体に装備することで格闘戦能力を持たせ、更には重量の嵩む爆発反応装甲以外での戦車級排除能力にも力を入れたいようだ。

 

「機体から飛び出るような大きさのブレードって、操作に支障が出ませんか?」

 

「そこは干渉しないようにハードとソフト双方で工夫が必要だが、それを使って帝国軍と同じく空力制御を試したいらしい」

 

「ブレードの搭載で減った航続距離を空力の利用で軽減すると」

 

「そう言う訳だ、まあ実験的な所が大きいだろうがな」

 

機体に直接搭載する刃はブレードベーンなどと呼ばれ、ソ連を中心に研究が進められている装備である。既存の短刀に比べ、ナイフシースを展開して手に装備するという手間が必要無いのが強みだ。ブレードが付いている箇所で思い切りぶった斬ればいい、シンプルかつ強力だ。

 

「ですがブレードベーンの搭載は整備性の悪化を招きますよ、機体の上で足を滑らした整備士が真っ二つになりますし」

 

「そうなんだよな、固定部にかかる応力がハンパじゃないから整備は特に気を使うことになる」

 

「長い物は折れたらすっ飛びますし、味方に刺されば大惨事ですよ」

 

しかしそうメリットばかりあるものではなく、無論デメリットも大きい。それに四肢を使って攻撃すると言うことは武器を使って攻撃するよりも損傷を受けるリスクが大きいため、かえって被害を増やしてしまう可能性も危惧されている。

 

「多用した場合、主力量産機にするには少々クセが大き過ぎるかと」

 

「それはそうなんだが、ブレードを装備した機体が強力なのは確かなんだよな…」

 

原作におけるブレード搭載機と言えば、武御雷と呼ばれる第三世代機が有名だろう。

 

 

【挿絵表示】

 

 

帝国斯衛軍に採用された高コスト機だが、その特徴は全身に搭載されたスーパーカーボン製の刃である。なんなら素手でも戦術機の正面装甲を貫通可能という恐ろしい性能を持つブレードお化けだ。

 

「それは一体何故なんです?」

 

「そりゃお前、全身凶器ならハイヴやら敵陣やらで発生する密集戦闘で最強に決まってるだろ」

 

それに爆発反応装甲にも言えることだが機体に取り付いたBETAを排除可能で、突発的な近接戦にも容易に対応出来るというのは衛士の心理的な負担を大きく軽減する。ハイヴ突入部隊にブレードの有無を聞けば、即座にありだと答えるはずだ。

 

「なんて極端な」

 

「違うね、真理さ」

 

まあ言い合っていても始まらない、大きなデメリットをどうにか軽減する策を講じなければならないだろう。

 

「ブレードの件はひとまずこんなものにしよう、んで他の要求はこれか」

 

「航続距離の増加と低燃費化ですね、ハイヴ突入部隊が燃料切れになる寸前だったという話があったからでしょうか」

 

「ハイヴ内で頻発する近接戦は負担が大きいからな、ただ飛ぶよりよっぽど燃料を食う」

 

今後のハイヴ攻略戦も見据えた要求なのだろう、足の長い戦術機は確かに必要とされている。現在運用されている戦術機は高い性能を持つものの航続距離が短く、長躯侵攻能力は低いのだ。

 

「隼改はF-16に機動力で劣るものの設計余剰と燃料搭載量共に勝っています、母体に選ばれたのも分かるというものですね」

 

「脚部フレームの延長とそれに伴う燃料タンクの拡張ってのが落とし所か、跳躍ユニットも手を入れた方が良いか?」

 

「隼改で使用されているエンジンの燃費は特別良い訳ではなく、追加装備の重量増加に耐えるためオーバースペック気味ですしね」

 

一定の出力を超えると燃費が一気に悪化するという悪癖があり、寿命も削るため通常ではリミッターを設けて対策している。そこまでの推力が必要とされることは殆どなく、急な加速が必要な際は複合エンジンの利点を活かしロケットが使用されるため死んでいる特性なのだ。

 

「何故あそこまでの推力を持たせたんです?」

 

「将来的な戦術機の重武装化に耐えうる跳躍ユニットの製造ノウハウを積むためだが…」

 

近接戦しかり、ハイヴ攻略戦しかり、光線級吶喊しかりと戦術機の限界が試される状況というのは非常に多い。多用は厳禁だが、そこはAIが上手く調整してくれるだろう。

 

「改良が進めば良いエンジンになるし、燃費や寿命を削っても全力を出さなきゃいけない一瞬はあるものだからな」

 

「なるほど」

 

「だが今回求められるのは長いこと前線を張れる戦術機だ、跳躍ユニットの変更もしっかり検討しようか」

 

恐らくは欧州のメーカーが開発した小型軽量なエンジンを搭載したいという思惑もあるのだろう、エンジンが軽くなれば跳躍ユニットも動かし易くなり機動性は向上するため理に適っている。

 

「帝国軍では文句を言われない項目でしたからね、やっぱり大陸は大きいです」

 

「何かしら別のアプローチで戦術機の燃料を節約出来れば良いんだがな、前線までトレーラーに乗せて運ぶ訳にもいかんし…」




戦術機は早くも第三世代への道を歩み始めるようです。 


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