宇宙開発企業なんですけど!?   作:明田川

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悲しいですね

追記 誤字などが散見されるので、更新ペースを下げることになると思います。挿絵と合わせて平日中に2〜3話公開出来たら上々ですね。

さらに追加 本土防衛軍、1986年にしか存在しないのにポスターに名前書いちゃってました。


第六話 F-4、極東行きやめるってよ

1975年になってしまった。

中国で遂に光線級が確認され、今まで優勢だった中国が一気に敗走し始めており、戦術機も無い現状ではBETAに対して不利な兵器でひたすらに戦うしかない前線は地獄だろう。

しかしこの年になれば前線国が独自に改良を加えた戦術機のライセンス生産が急ピッチで始められ、F-4の改修機が前線に現れ始める筈だ。

 

「終わったぁー!」

 

「最終チェックも完了ですね」

 

そんな戦況の悪化する最中、日本帝国に隼の先行量産機型が3機納入された。

生産ラインが未完成のため製造コストは3倍という超高級機だが、黒と白で塗られた帝国軍仕様機があっさりと期日通りに届けられたことに驚いていたようだ。

 

「大変だったな…」

 

「必要な機材が宇宙港にしかないとか、笑えませんでしたけどね」

 

ラグランジュポイントや地球衛星軌道上の施設は陸戦が始まったからといって放棄されておらず、むしろ拡張の一途を辿っている。その上宇宙軍の軍備拡張のため場所が足りなくなることを防ぐため、一部宇宙港が接収されるなど様々な動きがあり、そのゴタゴタで機材の地上降下が遅れていたのだ。

日本も日本で米国の防衛戦略構想に参加し、せっせと低軌道艦隊の実権掌握に動いていたのもあり軌道上は類を見ない騒がしさだった。

 

「宇宙港のドックが何処も駆逐艦で埋まってるんだぞ、ウチの造船部門は大変だろうな」

 

光線級が出現したことにより、万が一にも降下して撃ち落とされないルートを割り出すまで航行が著しく制限されていたのも一つの要因だが。

 

「何はともあれ、期日が早過ぎたんだよ」

 

「そうは言っても試作機は見せましたし、機材があれば六ヶ月で作れると言ったのは社長ですよね」

 

「…その機材がなかったんだがな」

 

なんとか間に合わせた後は軍のスケジュールに合わせて各種試験を行う予定だ、米国から送られてくる予定のF-4も合わせて行う日程で調整されているため多少の空き時間は確保出来る。

 

「取り敢えず先行量産機の製造で洗い出せた問題点を改善しないとな、幾つか整備性を悪化させるような箇所があった」

 

「頭部周りの配線ルート、ちょっと甘かったですかね…」

 

何度も試作機や概念実証機に当たる機体を製作して来たとはいえ、本格的な量産機の設計となると初めてだ。彗星は宇宙用のMMUだったので重機の延長線上だったが、こちらは完全な陸上兵器である。

それに地球での生産であるため勝手が違うということもあり、宇宙で先陣を切っていた主力の開発チームは重力に慣れていないので作業させるのは危険だ。

 

「慣れないと落とすからな、色々と」

 

「宇宙だと手から離しても浮いてますもんね」

 

無重力慣れの被害は既に出ており、飲み物を頻繁にこぼすためモップとバケツが休憩室には常備されることになったほどだ。

楽しく談笑している中、床に飲み物を落とした時の雰囲気と言ったらもう…

 

「戦術機の部品を落とせば大事故だ、もう一ヶ月は実機を触らせられないな」

 

「やっとスケジュールに空きが出来ましたから、今の時期で助かりましたねー」

 

「どうだかな、F-4が来なかったら段取りが狂うぞ」

 

F-4は前線に回されるため、比較的後方に位置する日本は後回しにされる筈だ。

原作ではそれをF-4ショックと言い、日本が延々と国産機開発を行い続ける原因となる。この世界でも結局戦術機の登場自体を早めることは出来なかったので、恐らくF-4ショックに似たことは原作通り発生してしまうだろう。

 

だが我々は日本を代表して(勝手にだが)開発計画に参加しており、その貢献度は中々なものだと自負している。流石に一機も送らない、なんて真似はしないだろう。

 

「万が一の時に隼の扱いがどうなるか…」

 

「りょ、量産まで、まだかかるんですけど…」

 

 

米国から日本帝国に連絡が来た、F-4の納入は遅れるらしい。

だが専用装備として発注していた戦術機用の刀、CIWS-2はしっかり届いたようだ。本来ならF-4が並んでいるはずの倉庫には、大きな刀だけが鎮座していた。

 

「こんな刀だけ来ても困りますよね」

 

「肝心の機体が無いんじゃあなぁ、まあ隼も同じ規格だから使えるが」

 

「軍の人達、お通夜みたいになってますね」

 

広報担当の方だろうか、F-4の日本仕様機である撃震を使った志願募集ポスターを握りしめている。

 

 

【挿絵表示】

 

 

数の上で多くなる方の機体を使ったのはいいが、その機体が納入されないんじゃあ張り出すわけにもいかなそうだ。

でもちょっとダサいと思う、もっとこう別のポーズは無かったのか。

 

「帝国軍は安いF-4と高い隼の二つで上手いこと役割分担をさせるつもりだったんだよ」

 

「らしいですね」

 

元々軍では隼はF-4と同程度のコストでは済まないと見積もられており、そこで比較的低コストかつ拡張性に優れるF-4で数を揃えるという計画を立てていた。

現在策定されていた機数比率では隼とF-4で1:2、攻撃を隼に任せ防衛をF-4に担当させるという国土防衛軍の構想も視野に入れた数字だった。

この二機種体制を専門用語でハイローミックスという、未来で米国が戦術機採用の際に使ったりもする。

 

「つまりだ、日本は戦術機の過半数を占めるはずだった機体の調達に失敗した」

 

「えぇ…」

 

「ライセンス生産は国内企業の体制が整うのに数年かかる、つまりこの国で戦術機を供給できる存在は我が社だけになっちまったわけだ」

 

社長と部下は顔を見合わせた後項垂れた。

 

 

軍が戦術機運用のために投資した多額の費用が宙に浮くというF-4納入先送り事件の一ヶ月後、秋津島開発の主力メンバー達が前線に復帰した。

宇宙において開発と製造でトップを走って来た秋津島開発ここにありと言わんばかりの活躍で、隼の製造ラインは一部が稼働状態になるまで完成していた。

 

「先に送った3機分の補修部品が作れるようになりましたね」

 

「摩耗しやすい関節部だけだがな、センサ類の故障とかは報告されてないか?」

 

「何言っているんですか、ウチのは月の砂が舞い上がる中でも動きますよ」

 

ここまでセンサの性能を上げたのは重金属が舞う中でもBETAを見失わないようにだ。重金属をばら撒くのは光線級対策として生み出されることになる手法の一つだが、戦術機のセンサ類や通信機に大きな悪影響を与えてしまう。

まずその戦術が存在しない今現在は、滅茶苦茶優秀なセンサ程度の代物だ。

 

「で、隼は何機作れって言って来てるんです?」

 

「中国軍の敗走っぷりを見て相当危機感を感じてるらしい、作れるだけ作れと滅茶苦茶言いやがる」

 

最低でも一年以内に小隊規模の4機、出来れば中隊規模の12機も戦術機が欲しいらしい。

 

「…半年で3機も作るからですよ、一年あれば倍以上作れると思われてるじゃないですか」

 

「いやあんなに色々と協力したのにさ、まさか一機も送られてこないとは流石に思わなかったから、スケジュールがな…」

 

3機しかない隼は帝国軍に相当大事に扱われているらしく、送られてくる運用レポートの分厚さといったらない。現地に視察へ赴くと、本来F-4用に用意されていた大量の武装と共に三機だけが広々とした格納庫に収められているのは中々シュールな光景だ。

整備員達はどこか虚ろな目で隼を磨いている、正直怖い。

 

「大隊規模の戦術機を整備可能な格納庫だったのに、中にあるのはたった三機って…」

 

「この事件さ、隼作ってなかったら軍の奴ら憤死してそうだよな」

 

 




さようなら日本に来るはずだったF-4君、最前線でも頑張るんだぞ。
色々やってますがOSや動作性などソフト面はあんまり手が回ってません、XM3レベルに至るのは後の話になりそうです。

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